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移民の子孫が活躍する社会

ブラジルで発生した鉱滓ダムの決壊事故で、ある日系人が活躍し注目されています。

当地の最新の報道では、現時点までに死者99人を数え、また行方不明者も259人と多いままとなっています。捜索活動は引き続き行われていますが、残念ながら、生存者のさらなる救出は絶望的な状況になりつつあります。

こうした中で、ある日系人の活躍が注目を集めています。

これまでも、前大統領の逮捕に至ったラヴァ・ジャット汚職捜査作戦で、被疑者の政治家・企業トップを警察署に移送するシーンに度重なり登場する連邦警察の日系人職員が話題を呼んだりと、トップニュース級の事件・事故の報道で日系人が登場し、場外で話題を呼ぶことは時々ありました。

今回は注目を集めているのは、ミナス・ジェライス州消防隊の広報官を務められているペドロ・ヤマウチさん。25歳の若さながら、ブラジル国内のみならず世界が注目する救出の状況を、明確にはぐらかすことなく伝え、報道陣の質問に真摯にかつ堂々と受け答えする姿に、多くの人が感銘を受けています。

そのため、当地のメディアではこの広報官の人柄に迫るような特集も組まれ始めました。

ペドロ・ヤマウチさんは、ミナス・ジェライス連邦大学で軍事学を専攻、サンパウロ大学でプロジェクト管理と日本の山口大学で防災学を学んだという経歴の持ち主です。

日本の防災行政に関わったことのある自分としても、日本での学びを活かしてくれているであろうことを、喜ばしく感じています。


現在のブラジル社会における日系人や日本人に対するリスペクトは、ブラジルにやってきた日本人移民の苦労や積み重ねてきた信頼の上に成り立っているのは間違いありません。

そこに、ブラジル生まれの移民の子孫が現場の第一線で活躍している様子がこのように重ねて報道されることで、もちろん第一には彼の人柄こそ好感を得ているわけですが、移民の子孫が人口の大半を占めるブラジルにおいては、西洋系の多い社会で日系人はその顔立ちに特徴があるために「ジャポネス」という括りで注目されやすく、日本人や日系人に対するいいイメージがさらに補強されもしそうです。

消防士がブラジルで最も尊敬される職業の1つであることも、今回大きな反響を得た要因の1つでしょう。

インスタグラムの彼のアカウントは、すでに9万人以上がフォローしています。夜間、報道陣に囲まれる姿の写真には5万件以上の「いいね」がついています。

彼のような存在は、この社会に暮らすいち日本人としてとても心強く感じるものです。過酷な仕事ではあるでしょうが、体に気をつけて頑張ってほしいと強く願います。


その一方で、事故の原因解明の解明を進める上では、どうもまた別の日系人の関与があった模様です。

医師、弁護士、そしてエンジニアなど、日系人は比較的所得の高い民間の職業でも幅広く活躍しています。今回の件では、当該ダムの構造上の安全性を保証する外部の認証検査機関から逮捕者が出ており、そのうちの2人が日系人らしき名前だというのです。

まだ捜査は始まったばかりであり、彼らがどのような関与をしたのかは分かりません。この先の進展を見守りたいと思います。


このように、日系人が様々な場面で登場することがあるブラジルにいると、同じ日本人の血を引くものとして何か応援したくなったり、余計にその人のことを知りたくなるということがあります。

しかし、当地の日系社会がブラジル社会にますます同化していけば、こうした場面がこの先出てくることも全く不思議ではなくなってきます。我々は、移民の子孫が何世代も経ることで現地社会に同化していく様子を見ているに過ぎないのです。

そのため、日系人だからというのを理由に取り立てて騒ぐことも、いつかはなくなるのだろうと思います。そこに線を引くことの意味が薄まり、どこの国からの移民だというその人の出自よりも、むしろその人個人の姿勢や人柄にこそ目が向けられるようになってくるはずです。

と、そんな事を考えていると、頭の中では自然と、このブラジルではなく、移民受入れに舵を切った日本社会の将来に思いを巡らせるようになってしまいます。

2000年代半ばの日本社会はもしかすると、そんな社会になっているのかもしれませんよ。

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