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新卒通年採用:就職氷河期からの1つのうねりの到達点

こちらCOMEMOに投稿をさせていただくようになり、間もなく1年が経とうとしています。私自身は人事・採用のその道のプロではないにしても、新卒一括採用制度にまつわるテーマで、これまで何度か投稿させていただきました。

なぜこのように繰り返し書いたのかと言えば、それは個人的な問題意識があったからにほかなりません。

新卒一括採用という文化が存在しない国・ブラジルで、非日系の現地企業に27歳で中途採用で就職し、マネージャーになってからはブラジル人の採用面接をする側にも回り、彼らのキャリア形成を間近で見る機会に恵まれました。そこで感じたのは、母国・日本での「働き始め」「キャリアの始まり」に関する様々な違和感でした。

さらに、ブラジルに留学しに来る日本の大学生の話を聞いてみるにつけ、その違和感は一層増幅されました。わざわざ地球の反対側まで滞在しに来ているにもかかわらず、ブラジル人と共に時間を過ごすでもなく就活のエントリーシートを夜な夜な書いているという話を聞かされたり、あるいは日本で大学を卒業してブラジルにインターンシップに来るも、その後の日本での就職活動でチャンスが限られ苦労した話、などなど。


新卒一括採用という制度 ── それも法律でも何でもなく、企業と大学の取り決めで今まで続けられていた仕組み ── は、それを維持するメリットがあったことは認めるにしても、今の時代にはもはやそぐわないものになっているのではないか?

その違和感から来る疑問を出発点に、以下のようなことを記しました。

日本のように、大学とその後の進路でキャリアが断絶しているケースが少なくないのは、もしかすると本人にも社会的にも結構な損失を生じさせているのではないか?最近はそのように思うことがあります。
経団連による就活ルールの廃止方針の打ち出しは、単なる採用活動の時期の話というよりは、これまで常識とされてきた「中学卒業→高校卒業→大学卒業→就職」という時間軸を崩すほどのインパクトがあるような気がしています。大学で卒業証書を受け取った後の4月1日から会社で働きはじめるという従来の時間の分け方が、今後も日本に残っていくとは考えられないのです
学生のうちから会社に通っていたら、残業も課せられるから夜間講義に通えない?それは、夜学に通うインターン生や社員に残業を課す企業のマネジメントの問題であって、本来はそういうところが「働き方改革」の本丸なのではないかと考えます。大学を卒業した後の4月1日に入社するのではなく、入社のタイミングは企業が好きな時期にオファーできるようにするのもアリだと思います。


そこに来たこのニュースです。

意外と動きが早かったなという驚きとともに受け取りましたし、次は企業や大学といった本件の利害関係者が具体的にどんな手を打ってくるかに、すでに関心が移っています。

様々な方面の声を拾い上げたこちらの記事も興味深いものでした。

この中には(ブラジル文学がご専門の)東京外国語大・武田千香副学長のコメントもあります。

従来の一括採用だと就活の時期には留学に行けないなど支障も多かった

この指摘からは、留学に送り出す側も従来の制度に縛られ、身動きが取りづらかったことが伺えます。そして学生が貴重な時間を使いリスクを背負ってまで留学に行ったところで、現地の人との交流に充てるべき時間を帰国後の就職活動の準備に割いていたわけで、バカバカし過ぎるのです。学生に非はありません。

大学は学びの場であり、決して就職予備校ではないというジレンマがある

という声も聞かれたということですが、大学を修了した学生の多くが労働市場に参入していく以上、それがあるべき姿かどうかは別として、大学の就職予備校化は避けられないでしょう。その点では、専門学校との境界線はこれまでよりもずっと曖昧になるに違いありません。

では「学術」はおろそかにされてもいいのか、という点については、これはそもそも学生らを巻き込むべき議論ではないでしょう。そこに公共の価値が見出せるのかという点をきちんと突き詰めて、それこそ政治で学術振興の原資を確保していくべきなのではないでしょうか。


私はアラフォーで、いわゆる就職氷河期のど真ん中世代に当たります。就職氷河期の始まりからおよそ25年、今回の経団連の決定は、あの頃を起点にした1つのうねりの行き着いたところのようにも見て取れます。時間がかかりましたね。

しかし、バブル景気から日本経済が転げ落ちた平成の時代が終わり、ようやく旧来のものとなっていた制度にも1つの区切りをつけることができたわけで、厳しい社会状況は続くにせよ、「まだ変わろうとする意識があった」ということを示すという点で、明るい材料なのではないと感じています。

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