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トランプ論 副題 波瀾万丈なビジネスと連邦破産法との闘い

以前、「やさしい法律講座ⅴ39 副題 破産法と倒産法」は日本の法律ですが、今回はアメリカビジネス法の連邦破産法とトランプ氏の4回の破産実績を考察してみました。節税として、破産法・会社更生法を活用しているのではないか、と思い至り、彼の頭脳力、交渉力、構想力、などを分析してみる。

                       2021.4.1

                      さいたま市桜区

                       田村 司

はじめに

日本法と連邦破産法の対比を兼ねて、最初に、日本の破産法の目的の条文を読んで見よう。
第1条 この法律は、支払不能又は債務超過にある債務者の財産等の清算に関する手続を定めること等により、債権者その他の利害関係人の利害及び債務者と債権者との間の権利関係を適切に調整し、もって債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図るとともに、債務者について経済生活の再生の機会の確保を図ることを目的とする。

第18条 債権者又は債務者は、破産手続開始の申立てをすることができる。

2 債権者が破産手続開始の申立てをするときは、その有する債権の存在及び破産手続開始の原因となる事実を疎明しなければならない。

第36条 破産手続開始の決定がされた後であっても、破産管財人は、裁判所の許可を得て、破産者の事業を継続することができる。

第103条 破産債権者は、その有する破産債権をもって破産手続に参加することができる。

第135条 裁判所は、次の各号に掲げる者のいずれかの申立てがあった場合には、債権者集会を招集しなければならない。ただし、知れている破産債権者の数その他の事情を考慮して債権者集会を招集することを相当でないと認めるときは、この限りでない。


日本の破産法の制定・改正の経緯

第二次世界大戦後、アメリカ合衆国で実績を挙げつつあった、当時の連邦倒産法第10章Corporate Reorganization(会社更生)の制度を日本に移植するべく、1952年(昭和27年)に制定された(昭和27年法律第172号)。その後、1967年(昭和42年)に会社更生手続の濫用防止、債権者である取引先中小企業の保護の観点から実質改正がされ、さらに、2002年(平成14年)に会社更生法の全部改正をする新しい会社更生法(平成14年法律第154号)が制定され、その施行(2003年(平成15年)4月1日)に伴い以前の会社更生法は廃止された。


倒産法制における位置づけ
倒産法制における位置づけとして、再建を目的とする点では民事再生と共通するが、株式会社だけが対象となる点では民事再生とは異なる。

民事再生法との違いとしては、担保権者や株主についても更生手続の対象となることなどが異なる。

また、会社更生法のみが、他の破産手続きと異なり抵当権・質権といった担保物権について別除権を認めず、更生手続き中の担保権の実行は禁止又は中止となる。

DIP型会社更生手続
会社更生手続においては、管財人が通常選任されており、これが民事再生手続との一つの違いとなり会社更生手続の特徴となっていたが、2008年には、東京地方裁判所で会社更生手続を担当する民事第八部(商事部)所属の判事がDIP(Debtor In Possession)型会社更生手続の運用の導入に関する論文を法律雑誌に掲載することなどを経て、運用の拡張が行われ、一定の条件を満たした場合には、更生手続開始申し立て時の取締役を管財人として引き続き業務の運営に当たらせる運用が行われるようになった。

かかる手続の導入の背景には、会社更生手続は、担保権者を倒産手続に参加させることで、債務者の再建のための強力な方法論たるべく制度であったところが、危機に陥った債務者が、現行経営陣がそのまま経営を継続しうる民事再生手続を申し立てる例が増加し、本来の機能を発揮していなかったとの意識がある。裁判所による運用の変更という形でDIP型が導入されたのは、会社更生法の法文でも、かかる方法論をとることも予定されていたことによる。


トランプ氏生い立ちと事業拡大と4回の破産内容

1885年トランプ一族(祖父フレデリック)がドイツからニューヨークに移民。ニュージャージー州でレストランを経営。しかし、祖父は酒が原因で死亡。ドナルドの父(フレッド)は夜学で建築を学んだ。エリザベス・トランプ&サンの社名で住宅建築事業を始める。1920年代大いなる繁栄の時代であった。1929の大恐慌が襲来。すぐにセルフサービスのスーパーマーケットを建てテナントを入れ新しい事業を成功させる。1934年ごろ父は低価格の住宅を2500戸を建築した。その後も事業は順調に推移。1946年にドナルドの誕生となる。自伝によれば、ニューヨーク・ミリタリー・アカデミックを卒業後映画を学ぼうと考えたようであるが、ペンシルバニア大学ウォート校でビジネスを学んでいる。

スウィフトン・ヴィレッジの開発・・・オハイオ州シンシナティの1200戸の住宅団地の開発が最初の事業となる。600万ドルの格安で落札。支払額+10万ドルという融資を受け、自己資金なしのプロジェクト。

マンハッタンで最初の開発プロジェクト・・・1973年のマンハッタンの不動産不況の逆風でチャンスをつかむ。59番通りから72番通りまで続くハドソン川沿いの広大なペン・セントラル鉄道操車場跡地+130番通りの跡地を開発。

グランド・ハイアット・ホテル・・・1980年オープン。改修前の5倍近い宿泊費を設定してなお、十分な稼働率を誇る成功を収めた。この取引の過程で、トランプに許可なくニューヨークに競合するホテルを建てることを禁じた「独占契約条項」を盛り込んだり、ニューヨーク市に40年間の財産税の免除、その免除の代わりに、手数料のほか、ホテルの利益の一部を支払う。最終的には取引時点の評価額に基ずく財産税を支払うという取引をした。

取引は芸術・・・トランプは何よりも取引そのもの、交渉自体に遣り甲斐を感じるという。

トランプタワーを開発・・・5番街と56番街の角。1975年から交渉開始、ジェネスコ社の2代目フランクリンに交渉。それから3年後にジエネスコ社は倒産の危機に陥り、交渉成立。隣接する地所をさらに購入し、用途地域指定の適用除外の申請。テファニーの敷地上空開発権、空中権を手に入れ、土地を広く利用することが出来、大きく高いビルを建てることが出来た。トランプ・タワーの総コストは1億9000万ドルにのぼったものの、80年代頃にはアパートの売上だけでも優に上回って金銭的にも大成功であった。

トランプの知恵・工夫・戦略・・・規制の範囲内で可能な最大のビルの設計。様々な容積率緩和規制の割り増し許可を最大限に利用することを狙った(例アトリウム)。

イヴァナと結婚と離婚・・・1977年結婚、1992年離婚・・その慰謝料現金2億ドル、土地14億ドル相当、フロリダ州パームビーチの自宅などの財産分与と報じられている。

4回の破産の実態・・・1990年代に大幅にアメリカの景気後退が起きると、トランプのビジネスも例外ではなく、カジノ三軒、プラザホテル、トランプ・タワー、トランプシャトル航空を抱えていら彼は借金まみれになってしまう。債権団との交渉を重ねて、債務を再編し、なんとか5年の猶予を得るとともにその事実を利用して手元資金を確保したものの、個人的な出資や家計の支出には月額45万ドルの制限が欠けられたという。

最初の破産(91年)・・・妻イヴァナに運営を任せていたカジノホテル「タージマハル」が1990年には30億ドル弱の債務返済の危機があり、内8億3000万ドルがトランプの個人保証で、自己破産のリスクがあった。91年には破産法の適用を申請、その後同年中に破産状態から脱出した。破産裁判所の管轄下の下で、合計3か所のカジノを運営していた。そこからのキャッシュフローがあった。90年から96年間で、各種の取引手数料として1億⑹000万以上の利益を得ていた。

2回目・3回目の破産(92年)・・・残る2つのカジノ「トランプ・キャッスル」「トランプ・プラザ」は92年に破産法適用を申請、この年にトランプ・シャトル航空、ヨット「トランプ・プリンセス号」、自家用のボーイング727などを売却した。

4回目の破産・・・95年カジノホテル「トランプ・プラザ」を上場、「トランプ・エンターテイメント・リゾート」が残り2軒を買収する形でいたが、「トランプ・エンターテイメント・リゾート」は後に破産法適用を申請。

なんと、波乱万丈な人生であろうか。

2度の離婚にもめげず、3人目の妻。4回の破産にもめげず、まだ衰えを知らない事業意欲とその後の第45代大統領に就任。さらに、不正選挙での票を盗まれながらも、2022年の次の上院議員選挙への共和党への支援。こころから応援せずにはいられない魅力的な人物である。吾輩は強くそう思う。

連邦倒産法の概略

連邦倒産法(れんぽうとうさんほう、アメリカ英語: Bankruptcy Code)とは、アメリカ合衆国連邦政府の連邦法(Federal law)で、合衆国法典の第11篇 (Title 11, U.S. Code)にあたり、個人や企業の倒産処理手続を定めたものである。連邦破産法(れんぽうはさんほう)、または単に倒産法、破産法とも呼ばれる。米国では旧連邦倒産法を全面的に改正する新連邦倒産法が1978年に制定され、旧第10章は連邦倒産法第11章Reorganizationに改められた。これは日本の会社更生に相当するといわれることもあるが、手続を利用できる債務者の範囲に限定がない点で、会社更生よりは民事再生に近い。

なお、一般的にこの手続きを"Chapter11"と呼ぶ。


連邦破産法の構成

連邦倒産法は、次のとおり九つの章 (Chapters) からなる。

第1章 総則 (General Provisions)
第3章 案件管理 (Case Administration)
第5章 債権者、債務者、及び財団 (Creditors, Debtors, and the Estate)
第7章 清算 (Liquidation)
第9章 地方公共団体の債務整理 (Debt Adjustment of a Municipality)
第11章 更生 (Reorganization) これがChapter11 と呼ばれるもの
第12章 定期的収入のある農家もしくは漁師の債務整理 (Adjustment of Debts of a Family Farmer or Family Fisherman With Regular Income)
第13章 定期的収入のある個人の債務整理(Adjustment of Debts of an Individual With Regular Income)
第15章 国際倒産 (Ancillary and Other Cross-Border Cases)


連邦倒産法に基づく手続は、倒産裁判所 (United States bankruptcy court) の監督のもとで行われる。倒産裁判所は連邦裁判所の一つである。倒産裁判所は倒産手続に直接関係のある事件のほとんどについて司法判断を下すことができる。

倒産裁判所とは別に、破産事件に関する管理行政を行う司法省の機関として連邦管財官(U.S. Trustee)がある。連邦管財官は司法長官によって任命され、管財人候補者のリストアップ、管財人の監督、債権者集会の招集、債権者委員会の委員の任命等を行う。連邦管財官の制度は1978年の改正の際に導入されたものであり、それまでは、倒産裁判所が司法的任務と行政的任務の双方を担っていた。

破産申立て(Bankruptcy petition)


倒産手続は申立 (petition) により開始される。これには、債務者(Debtor)が自ら申立をする場合(voluntary case)(301条)と、債権者(Creditor)が申立をする場合(involuntary case)(303条)がある。

日本と異なり、破産原因(支払不能や債務超過)があること(破産法)や、破産原因の生ずる虞れがあること(会社更生法・民事再生法)は、倒産申立の要件ではない。但し、債権者による申立に対して債務者が異議を唱えた場合には、債務者が期限の到来した債務を支払っていない場合等一定の要件を満たす場合にのみ、裁判所が倒産手続開始命令(order for relief)を下す。適時の異議がない場合には、裁判所は自動的に倒産手続開始命令を下す。債務者による申立の場合には自動的に倒産手続開始命令があったとみなされる。

管財人の選任

 第11章の場合には、通常は債務者(旧経営陣)が管財人の立場で引続き事業を継続することができ、これを占有債務者(debtor in possession、"DIP") という。ただし、占有債務者に詐欺的行為や重大な経営過誤があった等の正当な理由があるときには、利害関係者または連邦管財官の申立により倒産裁判所が管財人の選任を命令することがある.

債権回収手続等の自動的停止


申立に基づき倒産手続が開始されると、債務者に対する訴訟等の法的な手続や債務者からの債権取立行為のほとんどは禁止される(362条)。

手続開始の申立があれば、別途裁判所の命令等を得ずにこのような効力が発生し、自動的停止 (automatic stay) と呼ばれる。

自動的停止の効力は、取立訴訟のみならず、たとえば、勝訴判決の執行、担保権の設定や対抗力の具備及び実行、相殺等にも及ぶ。

裁判所は、正当な理由がある場合には、債権者等の利害関係者の要請に基づき、個別に自動停止を解除(relief from stay)することがある。正当な理由とは、自動停止を継続することにより債権者が本来期待できるような回収ができなくなるような場合を含む。

倒産財団

倒産手続の開始とともに債務者の財産的権利により構成される倒産財団 (estate) が組成される(541条)倒産財団は原則として債務者の財産的権利の全てからなる。

管財人の否認権

財団の財産は、再建や返済の原資となるものであり、その確保・充実をはかるための制度が設けられているが、もっとも重要なのは管財人の否認権 (avoiding power) である。

偏頗行為の否認


管財人は、次のような条件を全て満たす財産移転行為 (transfer)を、偏跛行為 (preference) として否認することができる(547条)。

既存の債務 (antecedent debt) に関するものであること。
申立前90日(債権者が債務者の親戚であったり、債務者会社の取締約役・役員である等インサイダーである場合は1年以内になされたこと。
債務者が債務超過 (insolvent) である間になされたこと(申立前90日の間は債務者は債務超過であったと推定される)。
債権者に対してまたは債権者の利益のためになされたこと
その結果として、その債権者が、第7章に基づく清算がなされたと仮定して、そのような財産移転がなかった場合に受け取れたであろう金額以上のものを回収できたこと。
財産移転行為の典型的なものは債務の弁済であるが、その他の財産権の移転や担保権の設定や対抗要件の具備も財産移転行為とされる。財産移転行為が否認された場合は、債権者は移転された財産を財団に返還するか、同額の金銭的賠償をしなければならない。

偏頗行為の否認については、通常の商行為 (ordinary course of business) による回収の場合など、いくつかの例外がある。

詐欺的財産移転行為の否認


偏頗行為にあたらない財産移転行為であっても、債権者の権利を害することを実際に意図して行った財産移転や、債務超過等一定の状況のもとで不当に低い対価と交換に行った財産移転行為は詐欺的譲渡 (fraudulent transfer) として否認される(548条)。

判決先取特権者と同様な権利の行使


管財人は、申立日現在、債務者の全財産に対する判決先取特権(judicial lien)その他所定の権利を持つ債権者(現存する必要はない)と同様な権利を行使でき、そのような債権者が否認できるような財産移転行為を否認することができる(544条)。

相殺権の制限

原則として、倒産手続開始前に存在した債権債務を相殺する権利は倒産手続によって影響を受けない。ただし、次のような相殺は禁じられる(553条)。

申立以降に第三者から譲り受けた債務者に対する債権を自働債権とする相殺
申立前90日間で、かつ債務者が債務超過である間(偏頗行為の場合と同様申立前90日の間は債務者は債務超過であったと推定される。以下同じ。)に第三者から譲り受けた債務者に対する債権を自働債権とする相殺
申立前90日間で、かつ債務者が債務超過である間に相殺権を得る目的で債務者に対して負担した債務を受動債権とする相殺
なお、相殺も自動停止の対象となるので、実際に相殺を行うにあたっては、自動停止の解除を得る必要がある。

除外財産


原則として、債務者の全ての財産的権利が倒産財団を構成するが、個人債務者の一定の財産はここから除外される(522条)。その結果そのような除外財産(exemptions, exempt property)は、倒産手続に基づく処分や分配の対象とならず、債務者が保持することができる。

除外財産は、原則として債務者が居住する州法が定める差押え免除財産である。一般的には居住用不動産(homestead exemption)、自動車、家具、職業上必要な書籍や道具等が含まれ、それぞれに上限額が定められることが多い。しかし、フロリダ州やテキサス州では居住用不動産に上限額が定められておらず、このような州に転居して高額な居住用不動産を購入した上で倒産手続を申し立てる(特に第7章手続による免責を図る)債務者もおり、特に債権者に立つことの多い金融機関等からの批判があった。

これを受けて、2005年の倒産制度濫用防止と消費者保護に関する法律により除外財産を制限するいくつかの規定が追加された。まず、州法に基づく除外財産の適用を受けるためには、申立前2年間その州に住んでいる必要がある(旧法のもとの期間の延長)。また、債務者が、害意をもって、申立前10年の間に除外財産でない財産を処分して居住用不動産の価値を増加させた場合にはその増加分は除外されない。害意の有無にかかわらず、申立前1215日間の間に増加した居住用不動産の価値で12万5000ドルを超える部分についても除外されない。その他債務者が犯罪行為を行った場合の除外財産の例外規定がある。

2005年に倒産制度濫用防止消費者保護に関する法律 (The Bankruptcy Abuse Prevention and Consumer Protection Act) が議会を通過した。これは1978年の連邦倒産法大改正以来の最も重要な改正といわれている。この改正は、主に債権者(金融機関やカード会社)側のロビー活動を受けて成立したものである。この結果、個人破産については、第7章手続を通じて債務者が免責を得ることが以前より困難になり、上述のとおり除外財産にも一定の枠がはめられた。その他の面でも、債務者側に有利な改正が施されている。



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