2023-03-22 「都市のバイオーム」を意識して散歩する
(今回はほぼ全文を無料公開しています)
昨日の日記に書いた「バイオーム」の話、分かりにくい書き方だったなと思ったので改めて書きます。これを意識すると散歩がかなり楽しくなるので…。
「バイオーム」という言葉、ご存じでしょうか。ゲーム用語として知っている人も多いかもしれません。
ゲーム用語としてはオープンワールド系でよく使われる言葉で、たとえば「雪原バイオーム」と言えば「雪原が広がるエリア」のことです。
街や国といった境界のはっきりしたエリアとは違い、特定の自然環境が一定の広さを持って広がっていることを指します。
もとは生物学の言葉で、日照や土壌の条件によって一定の植物や生物の分布が広がっているエリアを指し、日本語では「生物群系」と言います。
これが、人間の作った街にもある。開発されてしまっているので狭義での「生物群系」にはあまり変化がありませんが、土地の来歴や標高、駅や他の都市との位置関係などによって、主に土地価格が変化することで住む人、建物が変わり、それぞれの「街のバイオーム」が形成されています。
そして、それを意識して散歩すると発見が多くて楽しくなる。僕が言いたかったのはそういうことでした。
ここから、バイオームの変化が特に分かりやすい場所を例にとって解説します。スタート地点は東京都新宿区「大久保二丁目」の交差点です。
(ここから先、Googleマップとストリートビューを埋め込んでいます。スマホで見えなかったらPCで…すみません)
大久保通りと明治通りの交差点で、南が新宿エリア、北が早稲田エリア、西が歌舞伎町エリア、東が昔フジテレビのあった河田町エリアです。
まごうことなき「都心」の景色が広がっています。
ここから明治通りを北へと進んでいきましょう。
自転車で5分。400メートルほど進んでも、それほど景色は変わりません。
が、さらに100メートル進むとがらっと景色が変わります。
東側の建物が急に低層になり、地方のロードサイドのような景色になるんです。
マクドナルドの先には、ドンキホーテとビッグボーイ(ハンバーグ屋)。景色だけ見れば、「都心バイオーム」から「郊外バイオーム」に変化しているようです。が、まだ新宿区の中。都庁まで直線で2キロしか離れていません。
鳥瞰図ではこんな感じ。都庁は南西方向にあります。ピンの東側にある緑色のエリアは戸山公園です。「箱根山」の表示もありますね。気になります。
では、少し戻ってマクドナルドの交差点から東に進路を変えてみましょう。
どうですか。すっかり地方都市の景色ですよね。
参考に、僕の生まれ故郷である東京都多摩市の景色を貼っておきます。東京の代表的なベッドタウン、多摩ニュータウンの中心地です。
どうでしょう。建物の低さ、余裕のある土地の使い方、空の広さが似ていると思いませんか。
都心バイオームと郊外バイオームが1つの交差点を境に共存している。こんな景色はなかなか見られません。普通はグラデーションをもって変化していくからです。
ほら、振り返るとこうです。あきらかに大都市の景色が広がっています。
では、東に下って戸山公園方面に行ってみましょう。
200メートルほど下がりました。もう都心バイオームの名残はありません。
公園には夏草がボウボウと伸びまくって暮らしやすそうな郊外の景色が広がっています。上に建っていたマクドナルドやドンキホーテが低層だったのは、ここの日当たりを守るためだったのかも知れません。
さらに進むと、戸山団地が見えてきます。あれだけビルが建ち並んでいた明治通りから、まだ400メートルほどしか離れていないのに。
先ほどの団地から少し北に進むと、戸山公園の中に入ります。カブトムシも採取できそうな雑木林が広がっていました。繰り返しますが、ここは都庁まで2キロしか離れていない、新宿のど真ん中です。
これが「箱根山」の入り口。
標高は44.6メートルで、山手線内の最高峰。江戸時代に作られた庭園の残土が積み上げられた人工山で、明治になってからはこの箱根山を含めて一帯が陸軍戸山学校の用地になりました。
これが過去の地図です。
最初に通った明治通りにあたる道路を赤く示しました。マクドナルドのあった交差点の名前にもなっている「コズミックセンター」は昔、射撃場だったようですね。そして右下中央寄りにあるのが今いる箱根山で、それを含む「戸山學校」の敷地全体が、今では戸山公園と都営戸山団地になっています。
今の地図と重ねてみます。
現在の明治通りを赤い線で示しています。
古地図の解像度がいまいちで細かい点が見えにくいのですが、かつての陸軍用地がそのまま、戸山公園+都営戸山団地に切り替わっているのが分かるでしょうか。
また、周辺をさらに広く散策すると警視庁第八機動隊の基地や国立感染症研究所など陸軍由来の施設が隣接しています。
つまり、コズミックセンターの交差点から東のバイオームが急に変化するのは、
江戸時代から一貫して「官」の土地で、民間の開発が入らなかったこと
歴史的遺物として箱根山が残されたことで一帯の自然環境もそのまま残されたこと
戦後の住宅難対策として元軍用地に団地が建てられたこと
が理由であると推測できます。
少し東に行けば市ヶ谷にもアクセスできる土地ですから、軍用地が民間払い下げになっていたら今のような景色にはならず、ここにもビルが建っていたことでしょう。
バイオームの変化を感知できるようになると、こうして違和感を覚える場所に巡り会うことがあります。
そして、街のバイオームが急に変化しているポイントには、必ず何かが隠れている。その理由を探って調べてみれば、歴史が見え、景色の解像度がぐっと上がって散歩の楽しみが何倍にもなるわけです。
どうでしょう。伝わったでしょうか。
ここまで劇的で、なおかつ来歴が検証可能な土地は限られますが「古い家屋も多い碁盤の目状の住宅街」は大抵もともと田んぼですし、街の中に突如現れる曲がりくねった細い道は大抵もともと川です。
もともと田んぼだったところに建つ狭小の建売住宅は、大きな土地の相続問題があった名残かもしれません。もともと川だったところは地盤が弱く土地が売れ残るのでスラム化していることもあります。
都市のバイオームを感じ取る嗅覚、鍛えておくと散歩が何倍も楽しくなるのでおすすめです。
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