見出し画像

「親指の絵文字で契約成立」事件

絵文字はふんわり気持ちを伝えてくれて、雰囲気で進むやわらかいコミュニケーションを助けてくれる。一方で同じ絵文字でも、そこに込める意味は人によって違っていて、言った・言わない論になるような場面では悩ましい。そう思うニュースが流れてきた。

カナダの農家がテキストメッセージで送られてきた購入契約書の写真に親指を立てる絵文字で返信したものの、作物を納入しなかった問題を巡る裁判で、カナダの裁判所は8日までに、当事者間で意思の合致があったとして、農家に契約不履行で8万2000ドルの支払いを命じた。

「親指の絵文字は同意」、農家に契約不履行で1100万円の支払い命令 カナダ裁判所 - CNN.co.jp

こういうやりとりがあったらしい。

SWTの代理人は契約書に署名した上で、「亜麻の契約を確認してください」とのメッセージを添えた契約書の写真を携帯電話でアクター氏に送信した。法廷文書によると、これに対しアクター氏は親指を立てる絵文字で応じたという。

「親指の絵文字は同意」、農家に契約不履行で1100万円の支払い命令 カナダ裁判所 - CNN.co.jp

「親指の絵文字は同意」というのはそうだけど、同意と言っても書類送付への「受け取りました」という同意か、契約内容への「承諾します」という同意かわからない場面だ。僕だったら、親指の絵文字っていわゆる「イイネ」の軽さだし、「受け取りました」の意味で使う。それぐらいの意味でしか、使わない。でも「承諾します」の意味で使う人がいてもおかしくない。そして裁判所はそう判断したとのことだ。

ただし、裁判所の判断についてはこう書かれている。

裁判所の判事は、「少なくとも口頭で」合意が交わされたように見えると指摘。「私の意見では、すべての状況を考慮すると、絵文字は単に契約書を受け取ってこれから検討するという意味ではなく、亜麻に関する契約への同意を表している。すべての背景を知る合理的な観察者であれば、当事者間で意思の合致があったとの客観的な理解に至るだろう」との判断を示した。

「親指の絵文字は同意」、農家に契約不履行で1100万円の支払い命令 カナダ裁判所 - CNN.co.jp

今回の取引では、SWTはアクター氏に事前に条件等をメッセージで送っていて、さらに電話で会話もしたうえで、契約書を作成し送付したという。交渉の段階ではなく、契約締結してもおかしくなさそうなタイミングだ。また過去に4回契約をテキストメッセージで結んでいて、違いはこれまで返信が「OK」などの文言だった。「OK」の一言だって、同意を示してはいても、書類送付と契約内容のどちらへの同意か分からない。でもアクター氏自身がそれを契約への同意としてきた。

そういうすべての状況とかすべての背景があるから、「OK」の代わりに「親指を立てる絵文字」でも普通は契約の方への同意と考えるよねという判断だ。「イイネ」一つで契約同意とみなされるという話ではなくて、ほっとした。

もちろん、絵文字は雰囲気や温度感をイイ感じに伝えてくれるけど、かっちりした意思表示には向いてない。これからも絵文字は使っていくとしても、使い方は気を付けないととあらためて思った。だからといって「確認します」とか「承諾します」とか書くばかりじゃ、かっちり意思表示できるけど雰囲気や温度感は伝わらなくて、それもアレだし。でもよく考えるとこれ、それ以前に「OK」の一言で契約成立にしてきたいままでの雑さにフォーカスした方がいい問題な気もしちゃうなあ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?