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JTの考える「タバコの健康懸念物質の安全な曝露量」とはなんだろう?

東京都が「東京都受動喫煙防止条例(仮称)の基本的な考え方」を発表し、意見公募をしたのに対して、JTが自社ホームページに意見を掲載しています。

JTとWHOで食い違う「安全な曝露量」

中心的となるのは、以下の引用部の主張かと思います。

当社は、受動喫煙の健康への影響について、たばこ葉をもやすたばこ製品と加熱式たばこは異なるものと考えています。例えば、当社製品プルーム・テックから発生するたばこベイパーには、紙巻きたばこの煙に含まれる健康懸念物質はほとんど含まれません。また、プルーム・テックの使用は室内環境に影響を及ぼさないため、周囲の方々への健康に対して、実質的に影響を与えうるものではない※と考えます。
※有害物質の曝露量から予測される健康リスクが十分低い場合には実質的に安全であり、社会的に容認されうるという考え方に基づき、「実質的に影響を与えうるものではない」と表記しています。

加熱式たばこのベイパーは、一般に紙巻きたばこに対して有害物質が90%削減されていると言われています。副流煙による「曝露量」はさらに少ないから、十分に安全なレベルという主張でしょう。一方で、WHOは「受動喫煙は安全な曝露レベルのない発がん物質」だと主張しています。日本も2004年に調印している「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約」の「条約実施のガイドライン」から抜粋します。

タバコ産業は、これまで、完全禁煙は必要ない、換気や分煙(ventilation and/or separate non-smoking Areas)をすれば十分だと世界中で強力に主張してきた。しかしながら、WHOの主張するように受動喫煙は安全な曝露レベルのない発ガン物質である。タバコ煙からのすべての有害物質を除去できる換気の技術がないことははっきりと証明されている。

JTはProom TECHをどう説明しているか

はっきりしていることを言うと、JTはProom TECHの使用を「喫煙」と呼んでいます。ploom.jpへのアクセス者は、まず以下を了解するように求められます。

またProom TECHの利用者には「健康のリスクがある」を明確にしています。そしてベイパーについては「燃焼による煙とは別物」とのみしており、健康リスクについては触れていません。Proom TECHのサポートページから抜粋します。

Q: 何が出ているのか?
プルーム・テック使用時には、たばこ葉由来の成分を含む蒸気が発生します。これを弊社ではたばこベイパーと呼んでいます。紙巻きたばこを喫煙した際に生じる「燃焼による煙」とは異なります。
Q: 紙巻きたばこと比べてのリスクは?
プルーム・テック専用のたばこカプセルには、たばこ葉を使用しています。このため、プルーム・テックの使用は健康へのリスクを伴います。しかしながら、プルーム・テックについては、火を使わず、たばこ葉を燃焼させずに使用するという製品特徴から、燃焼により生じる成分は発生しません。

大まかに言って、Proom TECHはたばこの一種であり、利用者にはタバコの健康懸念がある、そして「燃焼による煙」は吐き出さないとのがJTの説明です。

JTの意見書の論点と論敵

Proom TECHを例とする加熱式たばこが、やはり「たばこ」であるならば、論点は「Proom TECHのベイパーは安全か」かと思います。この判断を異にさせているのは、都とJTの意見の違いというより、都が前提としているWHOの「安全な曝露量のない」という認識と、JTの「Proom TECHのベイパーの曝露量は安全」という認識の相違のように思われます。

意見書を読んでも分からなかったのは、JTが「Proom TECHのベイパーの曝露量は安全」と判断した論拠が何か、またその「安全な曝露量」はどれだけなのか、WHOの「安全な曝露量のない発がん物質」という主調に対して十分な反論をできているのかというあたりです。意見書ではいきなり「実質的に影響を与えうるものではないと考えます」となっていて、この辺りがくみ取れずにいます。

せっかくの意見公募、意見公開ですし、目標とする2019年のラグビーワールドカップ、2020年の東京五輪まで期間も短いことです。きちんと前提のかみ合った議論が進められるとよいと思います。また安全な曝露量について認識が違うというのであれば、都に意見しても埒のあかない代理戦争になるように思われ、「安全な曝露量はない」と主張しているWHOに意見する方が議論がかみ合いそうだと思いました。

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ヘッダー写真はMabel Amberによる「cigarette, habit」。

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