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嘘をつくのもタダじゃない

僕たちはいつ嘘をつくだろう。嘘をつくしかない場面というのもある。もっとカジュアルに「よく思われたい相手」に「悪く思われそう」なときにも嘘でごまかしたくなる。でも嘘をつくというのもタダではない。

嘘は暴かれたら、嘘をついた目的がご破算になる。悪く思われたくない時の嘘は、疑われてもご破算だ。だから「嘘をつくと決めたからには、かなり慎重にやり遂げる必要がある」と言う人もいる。そのためには、ときに本当らしく見せるためのフォローを重ねなければいけなくなる。その労力と費用、そんなコストを将来に負いこむのが嘘をつくということだ。

最近幕切れを迎えたドローン開発プロジェクトのLily Roboticsは、試作品で撮影したという動画を公開して注目を集めた。そしてその後、CEOがカメラマンに次のようなメールを送っていたと報じられた

Lilyで撮影した動画が実はGoProで撮られたものだという事実はユーザーには知られたくない。編集の段階でそれが分からないように映像を加工してもらえないだろうか。

史上最悪の「ドローン詐欺」 40億円集めたLily社、解散の舞台裏 | Forbes JAPAN

GoProはドローンでこそないけれど、内蔵カメラがないタイプのドローンと組み合わせて使われることが多いカメラだ。Lilyはカメラ内蔵なのに、デモ動画がGoProで撮影されていればおかしな感じだ。だからこその映像加工。その労力は0ではないし、プロに依頼する費用もきっと0ではないだろう。CEOはさらに、次のメールを送っているという。

レンズに詳しい人々が、この映像がGoProで撮られたと見破ることを心配している。自分はレンズのことはあまり分からないが、嘘をつくと決めたからにはかなり慎重にやり遂げる必要がある。

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これが嘘をつくということだと思う。「自分はレンズのことはあまり分からないが」心配している。詳しくはないけれど、想像力の及ぶ限りのことが心配事になる。「暴かれないことの証明」「疑われないことの証明」なんて悪魔の証明の類で、想像力は何かを知るごとに広がるから、嘘をついている限り心配事は生まれてくる。その度にフォローの労力や費用が追加発生する。

たとえばサプライズを仕掛ける直前に知らん振りをするような、すぐに明かすための、お互いが幸せになる嘘だったら、考えてもいいかもしれない。でも明かせない嘘は、突き通さなければいけなくて、そんな嘘はタダじゃない。そしてどちらかを幸せにしない嘘は、突き通さなければいけない嘘にしかならない。そんな嘘は、知られたらタダ(無事)では済まないのに、知られないためにもタダ(無償)では済まない。

嘘は本質的に負債で、ささやかに自身を不幸にし続ける。面倒ごとを前に嘘をつきたくなったときにも、思いとどまるようにしようと自分に言い聞かせている。そんなときには道徳感情だけでなく、損得勘定もフル稼働させて自分を説得している。

(ヘッダ写真は"Antoine with Lily"。Lily Roboticsのプレスページから)

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