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「社会をハックせよ」とN.Y.は歌う

社内でやっているシェア傘活動の傘回収率を上げるには、なんて会話を社内SNSでやっていた日に「ポケモンGO感覚の報酬システムでシェア電動スクーターの充電問題を解決」という記事が流れてきて、うまいと思いました。

紹介されている「Bird」は電動キックボードのシェアリングサービスで、ピックアップエリアで借りて、返却時はどこで乗り捨ててもOK。乗り捨てられたBirdを戻すはChargerプログラムの登録者で、彼らはBirdを見つけ充電してピックアップエリアに戻すと、5~20$の報酬をもらえます。

報酬が結構高めなですが、「充電して」戻せばというところが頭がいいと思うところ。Birdの運営側は電気代が浮くだけじゃなく、ピックアップエリアに充電器を設置せずに済むでしょう。ピックアップエリアの設置や維持コストが節約できて、ピックアップエリアを迅速にたくさん、電源の引きやすさなどの制約もなく開設できそうです。

高給を物価が上回るシリコンバレー

ただ、利用者側から考えると、費用はレンタル時1$+1分15セント、1時間借りたら10$になります。結構高いかも、といったやり取りをしていたら、Peatixの庄司さんからこうコメントをもらいました。

庄司: 年収1000万でも、家族養うには「貧困」状態、家賃50万とかザラですから。日本の物価と比べたらダメです。

Googleで「シリコンバレー」「物価」で検索すると、たしかにそうした実態を伝えるページが次々に出てきます。そして「シリコンバレーは給与が高いが物価も高い」というのは米国人から見ても同様のようです。

Hiredの「2017 STATE OF GLOBAL TECH SALARIES」では、米国11都市および海外5都市の技術者の平均給与と、それをサンフランシスコのベイエリア、つまりシリコンバレー物価に換算した給与をまとめています。グラフ化すると以下のようになり、シリコンバレーのエンジニアは給与が高いが、物価換算するとシアトルやロサンジェルスなど他都市のエンジニアの暮らし向きの方がずっと楽そうです。

ブログを読むかぎり、家賃が高い、教育費と医療費が安くない、安心できる食を求めるなら高級スーパー価格(西友レベルを求めるなら成城石井価格、マクドナルドレベルを求めるならシェイクシャック価格)という感じなのかな、と思いました。

ニューヨークの生活事情

庄司さんのいるのはニューヨークで、僕がすぐに思い出すところでは「Tumblr創業の地」とか「NISTの定義よりも早くからパブリッククラウド採用に踏み切った自治体」。そしてまたHiredの調査対象の中ではシリコンバレーに迫る3番手の平均給与で、かつシリコンバレー物価換算だとほぼ同額の暮らし向きになる高物価シティです。

庄司: 僕は今ニューヨークなんでベイエリアとは違うんですが、まあ似たようなもんです。。。 本当、所得税も高いし(キャピタルゲイン課税は驚くほど安い)、給料は日本の時より上がったのに、可処分所得がガッツリ減りました。

シリコンバレーはスペースと、安心して任せられるレベルの医療、教育、食といったフルスペックサービスが高いというイメージでした。スペースについて聞くと、ニューヨークも同様で、「シェア」系のテクノロジーが人気だそうです。

庄司: スペースは高い。不動産バブルかも知れませんが。人口が増えているので日本のように悲観的になりません。co-livingや、昼間のレストランをco-workingにするようなテクノロジーは勢いがあります。

フルスペックサービスは高いものは非常に高い一方で、種類によってはむしろ安いそうです。そこにクラウドソーシングの広がりの裏にある事情が見えてきます。

庄司: 例えば、マッサージや、美容室は日本の方が高いのは、こちらには安く行う移民がいるからです。クラウドソーシングは、移民ビジネスと隣合わせですよ。UBER然り。そこが日本とは違いますよね。移民がいないとクラウドソーシングが成立しません。

「社会をハックせよ」とN.Y.は歌う

給与水準は高いけど、生活に必要なスペースやフルスペックサービスが高く、シリコンバレー同様に生活水準で言えばそこそこ。一方で(所得格差の向こうに)クラウドソーシングの人的リソースがある。

こう考えると、スペースをシェアリングエコノミーにのせる、フルスペックサービスを小さな作業に分割してクラウドソーシング化する、それらをテックで円滑に可能にするハックをお金を払ってでも求める声は多くなりそうです。そしてキャピタルゲイン課税などが安いとすれば、そうしたことに投資するのも割りがいい。

利用費と投資が集めやすい。暮らすにはキツいけれど、社会ハックはすごく進みそうな印象を受けます。

庄司: おっしゃるとおりで、いわゆる「ハック」にかぎらず、社会の変化は激しいです。日本は(政権も含めて)変わらない圧力をすごく感じるので、そこが一番大きな違いかな。。。

ただ「高給だけど高物価」層が生み出すシェアリングエコノミーやクラウドソーシングの需要ですが、そこで社会ハックの空気感は市民全体に広がるもののようです。

庄司: ハックと言えば、ブルックリン(※ニューヨーク市内の行政区)のDIY文化(DIY精神)は結構凄まじく、なかなか面白いものがありまして、僕の仲の良いDJが先日、アパートの屋上に巨大な家庭菜園のセットを作ってまして。世界中から集まるパーティーピーポーを踊らせて帰ってきた土曜日の早朝、トマトの苗に水を上げてから寝るそうです。「ブロック・パーティー」なんかも、ある種の社会ハックのような気がするDIYパーティー文化で、最近こういうのを追っていくのが楽しいですね。

DIY、クラウドソーシング、そしてテック。数年前に事例報告を聞いたCivic Techの世界を思い出します(そういえば偶然にもこのイベントもPeatixで公開されていました)。米国のCivic Techコミュニティの心象風景にあるというOccupy Wall Street、これもまたニューヨークの出来事です。

ハックは新事業を狙う起業家や技術者だけがしてるのではない。高給、高物価、投資益に対する低税率、そして移民社会や経済格差。そうした多様な諸事情を飲み込みながら、ニューヨークという都市自体が「社会をハックせよ」と歌っている。そんなイメージが浮かびました。

(ヘッダ画像はDavid Phanによる「Statue of Liberty」。ライセンスはCC BY 2.0。)

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