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【not SD】Banana Ball Revolution

ロックアウトが続く中で行われたメジャーリーグの労使協約(CBA)交渉は2022シーズンにて162試合を行うための期限である3/1までに妥協点を見い出せず、少なくとも2022年シーズン開幕の2カードを失うこととなった。選手補強もメジャーキャンプもお預けとなり、パドレスに関するニュースも途絶えた。ひいてはこのnoteに書く話題にも困る始末である。

CBAの争点はぜいたく税対象のチーム年俸額から調停権取得前選手ボーナスプールなど多岐に渡り、いまだ各々の点で大きな溝が埋まらないままでいる。

これら諸問題に関してはMLBファンひとりひとりが何らかの意見を抱いており、各スポーツメディアでも議論が続くだろう。

一方で金銭面の議論からは少しはずれるも、重要な疑問がふと浮かぶ。

「ロックアウト後、野球は面白くなるだろうか?」

おそらくサンディエゴパドレスについてふざけた文体で書かれている当noteの読者ほぼ全員は野球への興味が深く、見るに面白い競技だと思っている方々だろう。

だが当然ながらそう思わない人々が世の中には多く、そして増え続けている。MLBファンの高齢化が進み、その中核層がリタイア世代に移りつつあると憂慮され始めてから久しい。実際にパドレスでプレーしているダルビッシュ有ですら、野球を9回まで見られないとコメントしている。

労使交渉の間にナショナルリーグの指名打者制導入が決まった。打率1割前半程度の投手の代わりに、強打のバッターが打撃を担う。

また極端な守備シフトを禁じ、盗塁しやすいようベースの大型化が検討されており、多過ぎる三振とホームランで失われたフィールド上でのアクションを少しでも取り戻そうとしている。3時間を超える競技をTikTok等の短時間コンテンツに慣らされたスマートフォン世代の若者や子供に見てもらうよう、投球間時間短縮の試みも敷かれた。

賛否はあれどこれらの涙ぐましい工夫で野球をより面白いと思ってくれるかもしれない、既に野球ファンの人達には。

だが野球の試合をつまらないと思う人に振り向いてもらうには、あまりに些細な変更ではなかろうか。正直なところ野球ファンの自分にとっても「つまらない試合だな」と感じることは多々ある。

有名人の始球式、グッズプレゼント、試合後の花火やコンサートで非野球ファンの何人かは球場に足を運んでくれるだろう。だが悲しいかな来訪の主な理由は野球の試合自体が面白いと思えるからではない。それはメジャーリーグでもマイナーリーグでも日本プロ野球でも変わらない。

バナナボール

米国ジョージア州第4の町サバンナ。この人口14万人の町を本拠地とするサバンナ・バナナズというアマチュア野球チームがある。木製バット使用の大学生夏季リーグ、Coastal Plain Leagueに属している。大学の野球部チームではなく、様々な大学の選手による混成チームだ。

大学で投手だったジェシー・コールは31歳の若さでこの球団を買収し、語呂重視だけとしか思えない果物の名前をニックネームに冠し、メッツのシングルAチーム移転後取り壊しの危機にあった1925年建造のグレイソンスタジアムを本拠地とした。買収直後に新婚の家屋を売り払う羽目になるほどの財務的危機をどうにか乗り越え、型破りなファンサービスで4,000人のスタンドを連日満員にするほどの集客に成功。

キルトを履いてプレーする選手達。ブレイクダンスを踊る一塁コーチ。腹の出た中年男性や60歳以上の女性で構成されたダンスチーム。プロレスラーの様に打者がマイクを持ち自己紹介をしながら打席に入ったりもすることもある。コール自身もバナナにちなんだ黄色いタキシードに身を包み、フィールド内外で盛り上げ役を担う。観客は飽きさせられる事がなく、野球という競技よりもまるでサーカスを観にしている様な気分になれる。

実はこのバナナズの成功譚だけでひと記事どころか一冊本が書けるほど(現にコールの自著が出版されている)の面白いストーリーなのだが、そちらの詳しい紹介は別の機会に譲ろう。

2018年、バナナズは野球を純粋にエンターテインメントとして楽しんでもらうためにルールを幾つか変更し、自軍の紅白戦で試してみた。9イニングが1時間40分で終わった。

2019年からバナナボールと称して自軍をバナナズとパーティーアニマルズの2チームに分けて試合(先述のCPLリーグ戦ではない)を行ったところ大好評。程なくしてESPN等全国メディアで取り上げられ、我等がパドレスの元大エース、ジェイク・ピービーも地元アラバマ州モービルでの試合(単独都市ワールドツアーと称された)に訪れバナナズのユニフォームに袖を通した。

ではいったいコールはどのようなルール変更を施したのだろうか。

1.各イニングのポイント制
大差により試合序盤で勝負が決し、試合終了を待たずに球場を後にした野球ファンは多いだろう。バナナボールは各イニングごとに勝敗を決める。どんなに大差をつけてもそのイニングのみの1勝。どちらかのチームが5ポイントを先取したイニングで試合は終了。

2.2時間制
確かにMLBの試合は平均3時間超と長く、そもそも試合時間の設定が無い。なので2時間超えた次のイニングから延長戦。

3.打者はバッターボックスを外してはいけない
優位な間合いを取るためにバッターボックスから外れる打者が居るが、試合が中断し興味が削がれる。ボックスから出たらストライク。

4.バント禁止
バントがつまらないことは誰もが知っている。それでもやった打者は退場。

5.一盗可能
3ストライク目でなくても、パスボールやワイルドピッチの間に打者は一塁に「盗塁」できる。

6.フォアボール禁止
フォアボールもただ歩くだけでつまらない。4つ目のボール球が放られたら打者は一塁へダッシュ。その後も好きなだけ進塁できる。一方守備側はインプレーにして走者をアウトにする前に、投手と捕手を除く全員にボールを回さなければならない。

7.1 on 1タイブレイカー
延長戦の守備側メンバーは投手、捕手、そして野手ひとり。打者が打ってホームインしたら得点。打者が三振したり本塁生還前にホームの捕手に送球されたら得点ならず。四球の場合は二塁へ進塁し次の打者に打順が回る。

8.マウンド来訪禁止
試合を止められるとつまらないからマウンドへ集まるのは禁止。投手を元気づけたかったら遠くから。

9.スタンドのファンがファウルボールをキャッチしたらアウト
ファウルもワクワクしない。なのでファウルボールが観客にノーバウンドでキャッチされたらアウト。選手だけではなくファンにもよりアクションを。

まだ見ぬ全てのファンのため

どうみてもエンターテインメントへの全振りルールだ。もはやこれは野球とはかけ離れた別のスポーツだという意見もあるだろう。中には野球への侮辱と受け取る伝統的なファンも居るだろう。無理もない話だ。だがMLB機構やオーナー、ひいては選手も含めたステークホルダー達はサバンナ・バナナズと比べてどれだけ近いレベルでファンの事を考えて、言葉だけでなくフィールド上で具現を試みていただろうかという疑問も脳裏によぎる。

コールはロックアウト前にこうコメントした。

「素晴らしいコンサートや映画で観客が途中で帰ることはない。でも野球ではそれが起こっている」
「自分がMLB関係者だったら、もっと危機感を持っていると思うよ」

このルールやチーム動画を眺めるうちに、サバンナ・バナナズの試合を観てみたくなったし、MLBの選手達がバナナボールをプレーしたらどれ程面白いだろうかと夢想した。フェルナンド・タティス・ジュニアはフォアボールで本塁に帰って来られるのではないかとか。もちろんシーズン戦に適用できるルールとは考えづらいので、キャンプやオールスター前の余興でも良い。

もしパドレス対ドジャースのバナナボールが開催されたら是非とも内野席で観戦したい。ムーキー・ベッツのファウルボールを捕って凡退させてみたいから。

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