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幻想旅程

 旅にゆこうと、誘ってくれたのは。私にとって、よき気分転換となった。最近、書きたいという気持ちになれない自分がいることに気がついた。
自分が、自分であって、自分では無い。そんなような気持ちさえして。地に足のつかない感覚が、そうさせているように思えた。少し遅れて待ち合わせにたどり着いた自分を乗せて、ゆるりと車は箱根に向かった。私は、助手席で任されるままになっているのが心地よかった。自分で何かを決められない性分な自分にとって、心許せる相手に委ねることはなによりも安心した。責任がないという観点からでなく、何かを選択し続けることを休憩できる気がしたからだった。景観が、窓の外を流れてゆく。いつしか、今の筆名が自分を表すペルソナとなっていた。そんな仮面をつけ、道化た姿を愛してくれさえする人もいる。

27年を生きてみた。いろいろあった、けれど、まだ27年ばかりを経験しただけだろうと言われることだってある。ううん、私はいろいろ受け取り、感じ、そうして、自分を何度も壊してきた。ホームで倒れたあとから、やはり。今、現在も記憶は戻らなかった。覚えていたことは、やはり、表現することだけだった。絵にせよ、音にせよ、文章にせよ、私は生きている限りは何かで表現をし続けないと生きてはゆけないようになっている事だけを覚えていた。記録を頼りに生きてみたが、やはり記憶は霧がかったようで、戻らなかった。思い出は、想像や妄想で綴ることができるから適度に話せるが、それは真実では無い。私という名の本当の私が抜け落ちて、それでも、私は表現をしているから生きてられるのかもしれない。

写真 Okumura Osamuさん(@osamu_ra310 )
文 辻島治

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