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ディック・ブルーナから教わったこと

小学生の時に描いた絵がたまたま選ばれて、当時栗林公園の中にあった高松市の美術館に展示され、家族で見に行きました。それ以外に小・中学校で美術館に行った記憶はありません。

(いま書きながら思い出しましたが)高校生の修学旅行で、特に何の期待もなく訪れた箱根の「彫刻の森美術館」は、本物の持つチカラなんでしょうね(と言っても恥ずかしながら何を見たか全く覚えてないんですが)とにかく、やたら感動しました。

そして東京での大学生活、就職活動で広告代理店に興味があった私は、たまたま広告関係の展示がされていた美術館、池袋か渋谷のパルコに行きました。

それが全てです、若い頃に美術館に行ったのは。

その後、沖縄からUターンして、仕事として地元で学童保育施設を立ち上げると、子どもが無料の高松市美術館は、夏休み等の長期休暇中に預かっている子ども達を連れて行く場所の一つになりました。

という訳で、議員になる前の2016年のリニューアル以来、高松市美術館には毎年数回立ち寄ります。

1度、子ども達にガッカリされてからは、あらかじめ下見して、特別展が子ども向きかどうかチェックまでするようになりました。

いわば仕事上、やむなく美術館に行くようになって分かったこと、それはアートって必ずしも「分からなくていい」という事で。

学校教育の中では、美術も「教科」として評価・成績の対象だったのが「そんなもんじゃないんだよ」と教えてくれたのが、訪れるたびに目の前に新たに展示される(現代)アートの数々でした。

今回の特別展「美術館に行こう! ディック・ブルーナから学ぶモダン・アートの楽しみ方」は、まさにこの美術・芸術への導入にふさわしい展示です。

実はディック・ブルーナのうさこちゃん(ミッフィー)シリーズに「うさこちゃん びじゅつかんへいく」という作品があります。

今回の来場者は、美術館で作品を鑑賞するうさこちゃんの絵本それ自体を、美術館で鑑賞することになります。

また絵本の中でうさこちゃんが鑑賞している作品の中にはオランダの画家モンドリアンの作品があり、それを知ったあとで来場者自身もまた、高松市美術館収蔵のモンドリアン作品を眺めることになるのです。

このマトリョーシカ人形のような入れ子構造

こういうの、子どもは大好きです。ひたすら繰り返すとか、同じものが規則的に並んでいるとか。私も専門じゃないんですが、同じことの反復が認知機能の発達に繋がるんでしょうか。

うさこちゃんはじめ児童文学の人気作品がシリーズ化されるのも、同じ主人公が違う環境で新しい体験をする、その繰り返しが、適度な安心感と適度なワクワク感をもたらすのでしょうか。どちらか一方だけだと物足りないかも知れません。

そういう意味では、美術館に求められるものもまた、同じではないでしょうか。安定と変化。

今回の特別展では、うさこちゃん(ミッフィー)という1960年代から続く誰もが見慣れたキャラクターを通じて、モダン・アートについて学びます。学ぶと言っても、うさこちゃんと同レベルなので、子どもも大人もまったく怖くありません。

また、ディック・ブルーナ作のうさこちゃんばかりが並んでいるのかと思いきや、さまざまな高松市美術館収蔵のアートもまた、モダン・アートを紹介する各テーマに沿って、たくさん披露されます。考えるのをサポートしてくれる、うさこちゃんのコメントつきで。

かつて見たことがある、もしくは初めて見るこの美術館自身の収蔵品が、うさこちゃんの存在によって新たな意味を与えられ、生き生きと動き始めるかのようです。

そしてもちろん、デザイナーとしてのディック・ブルーナの仕事の数々も展示され、本の装丁という仕事もイメージさせるペーパーバック(文庫本)の数多くのデザインを見ることができます。

最後のコーナーでは、ディック・ブルーナの絵本の数々が並んでおり、自由に読むことができます。コンセプトや歴史、制作の裏側、色使いの意味など、さまざまな知識を得た後に読むうさこちゃんシリーズは、また感慨深いものがあります。

このように、適度に良い意味で期待を裏切りつつ、さまざまなつながりを自然に学べて、アートの世界にまた一歩足を踏み入れることができた、という達成感を得られる特別展。それも子どもから大人まで世代を問わないという懐の深さ。

もちろんそれは、ディック・ブルーナと彼の作品群という素晴らしいコンテンツあってのアイデアでしょうが、このような展示をぜひ、続けてもらえたら、真の意味での市の美術館として、市民から認知されていくだろうと思います。

来年はまた、瀬戸の島々を舞台に瀬戸内国際芸術祭が開催されますが、その母港でもある港町、高松。そのアートシーンの核のひとつとなる公共施設として、非常に今後を期待させる特別展でした。

高松市美術館「美術館に行こう! ディック・ブルーナに学ぶモダン・アートの楽しみ方」


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