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もう干物にしない!ティランジアを育てる。 前編

 なんだか気がついたら干物になってた…という経験を多くの方がお持ちの植物がティランジア Tillandsia でしょう。
 一時期はエアープランツの名のもと『空気中の水分を吸うから水やり不要!』などというデマがテレビや雑誌を通じて流れ、それを真に受けた人々によって大量のティランジアの干物が量産されてしまったのでした。
 除湿機じゃ無いんだからそんなわけねぇだろ、と思いそうなもんですが情報に踊らされるってそんなもんですよね。

 そんなわけで、もう干物にしない!を目標にティランジア栽培の基本について書いてみます。

【 大事な3つの点 】

・水をやる
・栽培環境を整える
・ときどき愛でる

 はい、大事なのはこの3つだけです。最後のは関係ないだろうというツッコミが聞こえてきそうですが、そもそもコレが無いと育てる理由が消滅するので超大事ですよ。
 別にティランジアに限らないように思うのですが適度な距離を置いた方がかえって良いように思える植物と言うのはありまして、最近流行りの多肉植物とかも構いすぎると良く無い。
 なんと言うか猫っぽい。植物なのに。
 
居心地を良くして(栽培環境を整える)、ご飯を用意し(水やり)、ときどき愛でたくなったり構って欲しげな様子が見られたら愛でる、そんなちょっと距離を置いてお付き合いする感じが良いように思います。

 と言うわけで、前編はティランジアの水やりについてです。

 写真はティランジア ヒューストン ‘コットンキャンディー’ Tillandsia Houston ‘Cotton candy’

 今でも『エアプランツって水いらないんでしょ?』って言う人がいるので、はっきりと申し上げます。

 水 は 絶 対 必 要 で す !

 水やりがいらないとかデマを流した奴は猛省して欲しいですね。
 では具体的にどのくらい水を与えたら良いのでしょうか?

 おおざっぱに言えば最低でも週に1〜2回が基本と考えてください。

 週に1〜2回と言っても『休みの日に朝晩やって、あと一週間放置』とかではなく、2〜3日おきに1回、霧吹きで全体を濡らすようにしてあげてください。気温の高い夏は毎日か、週3回ぐらいに増やします。
 それと実は時間も大切で、夕方以降〜夜の間にやってください。昼間に与えると蒸れて腐ってしまうことがあります。
 ティランジアは陽の落ちた後の時間帯に気孔(きこう)と言う空気を取り入れるための微細な穴が開き、二酸化炭素などの生育に必要な気体を取り込みます。このタイミングでお湿りがあると、ついでに水も取り込みやすいのです。
 夜の間ずっと湿っている必要はありません。せいぜい15〜30分も湿った状態になっていれば必要な水分を吸収します。ただ、種類によって必要な水の量が異なります。
 少なくとも持ってみて軽いと感じたら水を与えないとマズイです。適切な量の水を吸っているティランジアはそこそこ重みがあるものです。

 水の与え方は
・霧吹きで全体を湿らせる
・ジョウロかホースのシャワーで水をかける
が良いです。以前はソーイングと言って水を張ったバケツなどに漬ける方法も推奨されていましたが、株が傷みやすく、水分過剰で腐りやすい種類もあるので、できれば避けてください。

水やりの実際

 と言っても、実例が無いとわかりづらいですよね?
 そこで筆者が育てているものを取り上げて実例をお見せします。

 ティランジア カピタータ レッド Tillandsia capitata Red は水が好きな種類です。水無しでも1ヶ月ぐらい耐えてくれますが、それは耐えているのであって、前向きな状態でいるわけではない事を理解してください。
 具体的に言うと、ティランジア カピタータ レッドには冬の今でも毎日、夜に軽く霧をかけています。成長期の夏は霧ではなくホースのシャワーでダバダバかけます。
 葉の付け根に水が溜まりますが夏ならば問題ありません。しっかり水を与えないと、だんだん萎びて葉が丸まってきます。
 写真の株はへご付けにして育てたので水が不足気味なほどです。ちょっと仕立てを失敗しました。

 ティランジア プセウドベイレイ Tillandsia pseudobaileyi も水が好きです。こちらはだいたい2〜3日に1回、霧吹きで全体を湿らせます。夏は毎日。
 
乾燥に強そうな外見ですが、中米の乾季はあっても雨の多い地域の植物なので砂漠の植物ではないのです。とはいえ湿りっぱなしは嫌いなので、流木のような水がいつまでも残らないような素材にくっつけておきます。
 ワガママ?だがそれが良い。

 ティランジア イオナンタ Tillandsia ionantha はティランジアが売っていたら確実に置いてある定番の種類です。色彩や形・大きさのバリエーションがたくさんあるので『イオナンタに始まりイオナンタに終わる』と語る人も。学名はすみれの花と言う意味ですが、そのとうり花は綺麗な菫色です。
 水やりはやや少なめで一週間間に1回ぐらい霧をかけます。もうちょっとあげた方が良いかな〜と感じたり、小型のタイプなら週に2回霧をかけて湿らせます。夏は週に3回ぐらい。
 
ティランジア プセウドベイレイよりも過剰な水分に弱いかわりに乾燥に強いので細い針金などで本体だけ、あるいは小さい流木やコルクの栓などに付けて吊り下げておきます。

 それぞれの写真に写っている白いヒジキ状のものもティランジアの一種で、ティランジア ウスネオイデス Tillandsia usneoides と言う種です。ティランジアが並べて売っていたら、その上に吊るされたり、周辺に敷かれているあれです。
 この種は北米大陸のバージニア州からバハカリフォルニア州〜中米諸国〜アルゼンチン北部までくまなく生えている、とんでもなく適応力のある種類なので例外的にどの水やりパターンでも育ちます。
 とはいえ基本的には水が多めなのが良いらしく、水が多めだと成長も早く、結果的に綺麗に育ちます。

【ティランジアの水やりまとめ】

・水は霧吹きやジョウロなどで全体が濡れる程度に与える。
・水やりは冬は最低でも週に1〜2回が基本、夏は毎日か週3回程度。
・水やりは
夕方以降〜夜の間に与える。昼間には与えない。

 以上を踏まえておけば、普通に販売されているようなティランジアなら、問題なく成長し、ときどき綺麗な花を咲かせてくれるでしょう。
 ティランジアは基本的に長生きする植物です。長年、ほど良い距離を保って愛でてあげてください。

 次回はティランジアの居心地のいい環境(栽培環境)について書きたいと思います。


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園芸と植物専門のライターです。専門は宿根草と高山植物・鑑賞樹木。園芸史の研究も。NHKのTV番組『趣味の園芸』で講師をしています。 著書:はじめての小さな庭の花図鑑(主婦の友社)