マガジンのカバー画像

『翠』

34
純文学を基調としたストーリーに、官能シーンを織り交ぜてみました。 スーパーで正社員として働く主人公である男性(健流)と、同じ職場でパートタイマーとして勤務する冴えない女性(翠)が…
運営しているクリエイター

#長編連載小説

『翠』 30

 ひさびさに実家の母から電話があった。  若くしてわたしを生んでいる母は、今でも元気に暮…

9

『翠』 29

 翌日、忘年会の件を矢代さんに伝えようと、バックヤードで品出しの準備をしている矢代さんに…

8

『翠』 28

「なんで俺の言った通りにできないんだよ!」  そう叫んだ父の怒号が地鳴りのように家中にこ…

10

『翠』 26

 少なくとも旦那への感謝の気持ちはある。  べつにパートと言ってもほかのパートさんみたく…

7

『翠』 25

 甘い物が食べてみたいという母の意向で、原宿通りから少し歩いたところにある『サン フラン…

11

『翠』 24

 ラフォーレ原宿の『マジュスティックレゴン』で、母におねだりをして冬物のコートと、膝上丈…

12

『翠』 23

 右側の空間がスッポリと空いているせいで、ただでさえ大きいクィーンサイズのベッドが、いつにも増して広く感じられた。ここまで広いとどんなに寝返りを打っても、ベッドからは転げ落ちる心配はないが、シンプルに彼の臭いの染みついたベッドで寝たくないという、生理的に受けつけないレベルの拒否反応が働いてしまい、無意識にそうすることを避けようとしてしまっている。  極端にベッドの左端にからだを寄せ、布団のなかにからだを滑り込ませる。冷え性の足先が氷のように冷たく、ほとんど足先の感覚が感じら