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『蝶々と灰色のやらかい悪魔』

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デリヘルで働きながら、自分の夢を叶えようと奮闘しながら、恋愛を交えた一人の少女の日常を描いた作品です。この作品はぼくにとって、初の長編小説で、デリヘルで働くとある女性に実際に取材… もっと読む
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2021年9月の記事一覧

『蝶々と灰色のやらかい悪魔』 35

「いったい、これからどこに行くんですか?」  気になってそう訊くと、「ナイショ……♡」と、マサキさんは意味深な笑みを浮かべるだけで、何も答えてはくれなかった。  窓の外を流れる景色が、混雑した片側三車線の国道沿いから、次第に緑溢れる山間の景色へと変わっていく。  窓を開ければ、前方から流れ込んでくる風に乗って、どこか懐かしさをも感じさせる、爽やかな草いきれが、車内に入り込んでくる。 「田舎のラブホテルって、なんであんな風に、お城みたいなのが多いんですかね?」  前方

『蝶々と灰色のやらかい悪魔』 34

「あんたが急にNG出すなんて、垢舐めちゃんと、一体なんかあったわけ?」  深夜、本日の勤務を終え、タイムカードを押そうと、同じマンションの別の階にある事務所に寄ると、ちょうどパソコンの前で、女の子の出勤状況を更新していたらしい店長が、帰ろうとするわたしに引き止め、そう訊いてくる。  とつぜん話しかけられ、「へ?」と、振り返ると、心配してくれているのか、ただの興味本位なのか、さっきまでパソコンの画面に向けていた顔を、こちらに向け、悪い女の顔をしていた。 「あー、えーと。ま

『蝶々と灰色のやらかい悪魔』 33

 この仕事に就いて、初めてズル休みというものをした。夕方、店長に電話をすると、「あら珍しいわね、あんたでも風邪引くのね」と、皮肉交じりにわたしの仮病を心配してくれていたが、生休を明けてからというもの、ずっと出突っ張りだったこともあり、「無理に働いてもらってたから、きっと疲れが出たんでしょうね。まぁ、いいわ。予約のお客さんには上手く言っておくから、ゆっくり休んで……」と、口では色々を言いながらも、結局は休むことを快く了承してくれた。  一抹の罪悪感を感じながらも、マサキさんか