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【鳥と恋の饗宴】橘鶫賞三句

 みんなの俳句大会沙々杯のシステム予行演習として企画した「鳥と恋の饗宴」に多数ご参加いただき有難うございました。
 しかも皆様、本当に素晴らしい句を投句していただいて、嬉しいやら申し訳ないやら。最終的に56名による155句をいただいた。しかも締め切りを早めて、である。感謝しかない。
 そんな中、素人の私が橘鶫賞三句を選ばなければならず、システムの予行演習のつもりが審査員の苦悩まで味わってしまった。
 …と、前置きが長くなるのもなんなので、発表する。あくまでも、鳥好きの私が、独断と偏見で選んだものである。一番の判断基準は「鳥が生きていること」。季語が生きている、ではない。鳥が生きていること。ほらね?偏見ぶりがお分かりいただけただろうか。
※以下、敬称略。

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寒鴉の黒はやさしい黒よ恋 springs

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 この句を見た時は衝撃的だった。今回の全句の中の、間違いなくイチ推しの鳥句である。
 鴉の羽根は美しい。そんなことは重々承知で、私自身何度もそれを俳句にしようと試みてきたのだけれど、目から鱗だ。「やさしい黒」それだけで良かったんだ、と思った。そしてそれはその後ろにある「恋」が無いと成り立たない。この、最後の「恋」の余韻。
 もう本当に、様々なパワーワードの、言葉そのものの力を借りようと試行錯誤していた自分が恥ずかしくなるような、シンプルで強くて美しい表現だ。ここに至るまで、どれだけのプロセスを経たのだろう。自分がそこに思い至らなかった悔しさよりも、ひたすらに、この句をこの企画に投句してくださったspringsさんに感謝したい。ありがとうございました。

恋をしたひすゐの色のやうだつた つる

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 ご存じだろうか。ひすゐ=カワセミ(翡翠)である。私はこの句をつるさんの句と知って読んでしまったけれど、知らずに拝見したらもっと若い男性の句だと思ったと思う。なんて瑞々しい恋の句。
 歴史的仮名遣いの表記が、まるで大正や昭和初期の青春を描いたようなとても趣深い句である。いや、むしろ小説の一節でも良いような印象深い表現だと思う。しかし声に出して読んでみると、それは途端に臨場感をもって迫ってくる。「こいをした ひすいのいろのようだった」。
 カワセミ自体は見た目可愛らしい鳥だが、敢えてその「色」と詠んでいるので、鮮やかな色彩がより強調される。カワセミの色は御覧の通り美しい青系統の色(=翡翠色)。そんな恋、してみたいですよね?

君となら痛みを越えて凍鶴よ 麻生ツナ子

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 実は最後の一句は候補が二句あり悩みに悩んだ。最後の決め手は最初に描いたように「鳥が生きている」だった。
 「凍鶴」は私の中でとても強い印象のある季語だ。思えば不思議である。鶴は冬の日本が過ごしやすいから渡ってくるのに。やはり人間が自分たちにとって厳しい冬を投影しているからなのだろうと思う。
 しかしこの句は、人間の感じる冬の鶴と自然界の冬の鶴、きちんと両方の「鶴」を表現しているように感じた。
 「君」のためならば寒さ(痛み)に耐えられるとも読めるし、「君」=「(寒さ=痛みを越えるための)越冬地」とも読めるのだ。君への想い、君との絆の深さを感じる深い句だと思う。

 以上悩みに悩んだ三句、ご納得いただけただろうか。
 納得いった方もそうでない方も、是非こちらの本戦に参加していただきたい。私も基本裏方なのだが気まぐれにコメントに伺うつもりである。引き続き沙々杯をよろしくお願いします。

最優秀賞はこちら▼

中岡 はじめ賞はこちら▼


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