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木版画の印象が変わった@美が摺り重なる 吉田博展

日本ではあまり有名でない吉田博(1876-1950)ですが、海外にて早くから高い評価を得ていた芸術家です。ダイアナ妃フロイトをも魅了していました。

常に「世界における自らの位置」「日本に生きる芸術家としてのオリジナリティ」を追求し続けていた人です。

その吉田博が木版画を始めたのは49歳のこと。木版画でだれも挑戦していなかった空気・大気・空間の表現に挑戦していきました。

この記事では、版画に興味のなかった私が「吉田博展」に行ってみようと思った理由を中心に、吉田博の魅力をお伝えしたいと思います。

赴いた理由①:まるで絵画のような色使い

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展覧会のポスターや特設サイトで吉田博の作品をみて驚いたのは、色彩の豊かさ繊細さです。私の木版画のイメージはモチモチの木で、版画というのは線が太く大胆で、色使いの少ないものだと思っていました。この色彩表現を目の前で見てみたいと思いました。

そして実際、吉田博の多色木版画は、私のなかの木版画のイメージをがらっと変えました。

平均10色(10度摺)の浮世絵に比べ、吉田博の作品は平均30度摺なのだそう。<東照宮>という作品は80度摺、右上にある<陽明門>96度摺です。

赴いた理由②:展覧会の構成がわかりやすい

展覧会はプロローグ・1-11章・エピローグで構成されています。

特大版への挑戦(第3章)
富士を描く(第4章)
東京を描く(第5章)
親密な景色花鳥へのまなざし(第6章)
日本各地の風景(第7,9,11章)
印度と東南アジア(第8章)
外地大地を描く(第10章) 等

明確なテーマでの構成が木版画初心者にとても分かりやすそう、という事前の印象が、展覧会に行ってみたい気持ちを後押ししました。

そして実際、描かれているテーマごとの展示は鑑賞に集中しやすかったです。

また、プロローグでは木版画へとつながる水彩画や油絵の展示があり、どのようにして吉田博の木版画が生まれたのかが分かり、スムーズに木版画への鑑賞へと進むことができました。

エピローグ吉田博の最後の木版画一点のみの展示です。とてもすてきな展覧会の終わりでした。

赴いた理由③:シリーズがおもしろい

吉田博は多くのシリーズ作品を製作しています。

・米国シリーズ
・欧州シリーズ
・日本アルプス十二題
・日本南アルプス集
・瀬戸内海集(帆船シリーズ)
・瀬戸内海集 第二
・富士拾景
・東京拾二題
・印度と東南アジア
・関西
・櫻八題
・北朝鮮、韓国、旧満州

今回、吉田博展に赴こうと思った一番の理由<帆船>シリーズです。

版画の特性を生かし同じ版で色を変え、時間の経過や天候の変化を色違いの別摺として製作(公式図録より)

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実際は、時系列に横一列に展示されており、作品の前を移動するとともに時間が経過していくような感覚を味わうことができました。ずっとこの展示室にとどまっていたくなりました。お土産にポストカードを購入したので、部屋に並べて飾ろうと思っています。

はじめて知った言葉

吉田博の作品の多くに、「自摺」という言葉がかきこまれています。

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これは、

画家自身が監修して妥協なく完成させた(公式音声コンテンツより)

という意味だそうです。

お気に入りのエピソード

吉田博がインド旅行に行った際、目的地で満月を迎えられるよう月齢を計算して旅の計画を立て、見事、実現させたそうです。

吉田博の作品には満月三日月が含まれるものが多々あり、その美しい形が印象的でした。満月は本当に綺麗な真ん丸でした。

まとめ

吉田博は現場主義で、

自然の中に自らを没し、仙骨になりきる

ことではじめて真の風景が描けると言っていたそう。

吉田博の芸術家としての探究心、そしていくつになっても新しいことに挑戦していく姿勢に感銘を受けた展覧会でした。


「おうちで吉田博展 VR公開」もあるようです。



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