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書評:プロトタイプシティ(高須正和、髙口康太編著)KADOKAWA刊

ここ数年の「深圳ブーム@日本」に最初に火を付けた人たちによる共著本だけあって、「見所案内本」ではない。

どの章も面白かったが、とくに高須正和氏の書いた第一章(この章だけで全体の1/3の頁を占める)と中国ネット産業に関する第一人者、澤田翔氏の書いた第二章を興味深く読んだ。

第一章は、勝手に見出しを振るなら「連続型価値創造から非連続型価値創造へ」といった内容だ。「連続型価値創造」とは、組織力のある大企業が得意とし、「摺り合わせ」がものを言うようなビジネスであり、「非連続型価値創造」とは、あるアイデアをもとに生まれた新興企業が忽ち「ユニコーン」に成長してしまうようなビジネスを指す。

高須は、この20年あまりの間に、前者から後者へ時代がすっかり移り変わってしまった過程を、視野を中国に限定せずに、6つの技術的な変遷で説明する(オープンソース・ソフトウェア、クラウド・コンピューティング、スタートアップ・アクセラレータ、モバイルインターネット、IoTの普及、メイカームーブメント)。

6つの変化は、「最初は信じられないが、世界の仕組みを変えてしまうような、新たなサービスや雇用、ビジネスモデル、産業のエコシステムを生み出す」ものとして「ユニコーン現象」と命名されている。高須は、それぞれについて、具体例を交えながら、なぜそれが時代を画する変化を生んだのかを分かりやすく説明してくれている。

澤田の第二章は、Apple Store と wechat の ”小程序(ミニプログラム)" がビジネスモデルとして、実は共通した側面があること(多くの外部開発者を呼び込みながら、トラブルを起こさないような仕組みとして、『子供が安心して遊べる安全な公園』を作った」という巧みな比喩で表現している)、日本の i-mode が iphone を始め後に続くネットビジネスに大きな影響を与えたのは何故か、しまいには「非連続型価値創造」の世界に踏み出せずにいる今の日本をじれったがって、「自分が楽しいこと」をやるために「グローバル大脱走」をけしかけている点などがたいへん読ませた。

私がとくに第一、二章に惹かれたのは、なぜ日本経済・産業は今の ICT 産業大隆盛の波に乗れなかったのか?を裏側から浮き彫りにしてくれているからだ。特に、時代の主流になった「非連続型価値創造」のタネになりうる「趣味としての電子工作」では「日本は今も世界一」(高須)の面を持っているのに、「こうした趣味的な世界を仕事につなげることが下手」(澤田)といった指摘は二人に共通している。ハードっぽい電子工作だけでなく、アプリにも似た事情があるのだろう。

「個人が楽しいから、好きだからやる」領域では、世界で通用するクリエイティビティを発揮する日本人が、事業化になると、途端にイケてなくなってしまうのは何故か。本書を読むと、改めてその原因に思いを馳せることになる。一読を推奨します。

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