ゼミジャーナル<法改正でどう変わった?高田馬場の喫煙事情>

 皆さんはコロナ禍をいかがお過ごしだろうか。この「コロナ禍」という単語、出所は分からないが実に言い得て妙で、健康被害に止まることなく、飲食店の閉店や大学の閉鎖など、各所に「禍(わざわい)」をもたらしている。
 しかし、コロナがもたらした禍は何もこうした実害だけではない。例えば、人々はコロナを注視する余り、コロナとは無関係の社会的変化を見逃すことがある。その一つこそ、今年4月に施行された改正健康増進法だ。
 そこで今回は、健康増進法の改正によって早大生の聖地・高田馬場の街の喫煙事情がどう変わったか、そして今後どうなるのかについて考えていきたい。

改正健康増進法とは?
 厚生労働省によると(※)、改正健康増進法(以下「改正法」)は従来の喫煙ルールについて大幅に制限を課したものだ。「『望まない受動喫煙』をなくす」をコンセプトに、原則としてあらゆる施設において屋内全面禁煙を定め、学校や病院においては敷地内全面禁煙という厳しいルールを設定した。
 とりわけ、飲食店は難しい対応を迫られており、①屋内禁煙、②喫煙専用室設置(飲食不可)、③加熱式たばこ専用の喫煙室設置(飲食可)のいずれかを導入する必要がある。ただし、現在は経過措置として、経営規模の小さな飲食店においてのみ屋内での喫煙が認められている。

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出典:厚生労働省HP https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000189195.html

紙巻たばこの制限が進むカフェ・喫茶店
 まず、カフェ・喫茶店の対応から見ていく。多少例外はあるが、対応は主に3パターンに分かれている。①元々全席喫煙可で、現在も同じ対応を取っている老舗喫茶店、②元々は分煙(喫煙席+禁煙席)だったが、現在は喫煙席を加熱式たばこ専用室化したチェーン店、③元々は分煙だったが、喫煙席も含め全席禁煙になったチェーン店、の三つだ。
 喫煙専用室を設置した店舗、つまり紙巻たばこが吸える店舗が極端に少ないのはおそらくコストの問題だろう。元々喫煙席を設けていた店舗は、既存の喫煙席に対して「禁煙席化」「加熱式たばこ専用喫煙室化」「喫煙専用室化」のどれを施すかを迫られる。仮に「喫煙専用室化」を選択した場合、店舗にデッドスペースを生まないために専用室(元喫煙席)の小型化が必要になってくるため、反対に全くコストのかからない「禁煙席化」「加熱式たばこ専用喫煙室化」が好まれるのだろう。
 また、チェーン店が元喫煙席の「禁煙席化」と「加熱式たばこ専用喫煙室化」に対応が分かれたのは客層の違いだと考えられる。夜にバー営業をしているプロント、客単価が高いルノアールは顧客の年齢層が高く、喫煙ニーズが高いことから禁煙化に至れなかった。一方、クロワッサンなどのフードに力を入れるサンマルク、安価なドトールは顧客の年齢層も低いことから喫煙ニーズも高くはない。元喫煙席を加熱式たばこ専用喫煙室化してしまえば、法律上20歳未満が立ち入りできなくなる制約もあり、導入を避けたのだろう。

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喫煙者の味方、居酒屋・バーの現在
 元々全席喫煙可の店舗が多い居酒屋・バーについては、改正後に全面禁煙化の措置をとった店舗は比較的少ない。資金力のある大手チェーン店は喫煙専用室を導入する傾向があった一方で、中小店舗は法改正の経過措置に甘んじ、分煙化(喫煙席+禁煙席)や特に対応策は取らずに凌ぐケースが多い。カフェ・喫茶店に比べていかに居酒屋・バーに対する喫煙ニーズが高いかが良くわかる結果となった。 
 この中で少し特殊な扱いを受けているのが、ムーンウォークだ。ムーンウォークは店内にて加熱式たばこの貸し出し等をすることにより、「喫煙目的施設」として登録されている。「喫煙目的施設」とは喫煙を主目的とする施設のことで、シーシャ屋やたばこの小売店、一部のスナックやバーなどがこれに当たり、店舗内の全面喫煙と飲食が認められている。今後、居酒屋・バーが顧客の喫煙ニーズに最大限応えるための手段として、この「喫煙目的施設」としての登録は一つの鍵となってくるだろう。

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高田馬場の喫煙事情、今後は…?
 では、今後高田馬場の喫煙事情はどうなってしまうのか。最後に、高田馬場の現状と法律に基づく筆者の予想を3つのステップで紹介したい。
①「経過措置」の終了と喫煙可能な飲食店の激減
 先程も触れた通り、現在、健康増進法は改正に伴う経過措置が講じられている。経過措置の終了と共に、全ての飲食店はその店舗規模に関わらず、喫煙専用室以外での喫煙が禁じられる。
 高田馬場において、現在経過措置にあやかり、店内での喫煙を認めているのは小規模の老舗飲食店が中心だ。コロナウイルスによる店舗売り上げ減少の影響もあり、こうした飲食店が喫煙専用室の設置等を行うには資金繰りが難しいため、今後全席禁煙化に進んで行く可能性が高い。現時点で経過措置の終了時期は国から明示されてはいないが、終了とともに高田馬場近辺の喫煙可能場所は激減するだろう。
②路上喫煙の増加
 喫煙所が無くなると自然と増えてしまうのが路上喫煙だ。事実、高田馬場駅前公衆喫煙所がコロナウイルス感染拡大防止を理由に閉鎖された際(今年4月20日〜6月30日)には、駅前ロータリーが路上喫煙に勤しむ人々で溢れかえった。こうした「前科」からも分かる通り、高田馬場で喫煙可能な飲食店が減れば必然的に駅前ロータリーや裏路地などでの路上喫煙は増えてしまうはずだ。
 しかし、今まで路上喫煙が増えようとも公衆喫煙所を増やすどころか減らしてきたのが新宿区。今後もこれを理由に高田馬場駅周辺や戸山公園に喫煙所が新設される望みは薄いだろう。喫煙者に制限をかけ続けるだけでなく、喫煙者と非喫煙者とが共存し、かつ街の美化もできるような行政に期待したいところだ。
③店外喫煙所の公衆化
 一方で、この路上喫煙の増加に歯止めを掛けられる可能性があるのが、飲食店の店外喫煙所だ。既に丸八、ちばチャンなど、比較的駅から近い飲食店に店外喫煙所が設置されており、これらの喫煙所がある種の公衆喫煙所として機能していく可能性が考えられる。一度は全席禁煙化をした飲食店も顧客の喫煙ニーズに応えようと店外喫煙所を設置していくケースが増えれば、路上喫煙の減少にも繋がり、顧客にも歩行者にも喫煙の機会を提供することができる。
 厚生労働省は「屋外や家庭等において喫煙をする際、望まない受動喫煙を生じさせることがないよう周囲の状況に配慮しなければならないものとする」(※)としており、正直店外喫煙所についてはグレーゾーンだ。しかし、今後行政が店外喫煙所の設置に対して一定の理解を示し、これを推奨していくような動きをすることで、喫煙者に対する救済活動を期待していきたい。

文責:土屋ゼミ七期生 改谷直輝