【易競馬#08】宝塚記念2022

2022年6月25日 15:02

東京は下町。
隅田川のほとりにある、カウンター数席の小さな居酒屋。
絶品の酒と肴に吸い寄せられるよう、今日も今日とて常連が集う。

「いやーあぢー！　なんなんですかこの暑さは！　まだ6月ですよ、宝塚記念の週ってこんな暑かったでしたっけ？」

ポロシャツが嘆きながら店に入ってきた。
割と過ごしやすい気温だった東京は昨日あたりから急に30度を超える暑さに見舞われていたので無理もないことだが。

「こんな暑さの中、馬運車で何時間もかけて遠征する関東馬は大変だろうなぁーあっ！大先生いらっしゃってたんですね！」

カウンターの端っこでしらすおろしをつまみに冷酒を飲んでいた占い師を見つけ、ポロシャツがうれしそうに声をかけた。

「はい、競馬の結果が気になるようになってしまいましてね。それと、毎週、大将が素晴らしいお酒を用意してくださるんで、もはや金曜日が楽しみになってますよ」

今日のお酒は宮城の銘酒、あたごのまつ・特別純米。
同じ酒造の伯楽星が有名だが、普段使いできる価格帯の「あたごのまつ」も、相当にレベルの高いお酒だ。

「それはよかった！！　先週は外れましたけど当たらぬも八卦ですもんね。それにしてもおいしそうなお酒だ！　ボクも赤星の後はそれをいただこうかな」

「おいポロ、さゆりから頼まれた馬券、あれ買うのかい？」

先日、店を訪れた近所のスナックのさゆりママに頼まれた馬券は、まだ枠順確定前のものだったので、枠順確定後の今、どうするのかを、店主の健はたずねたのだった。

「んーさゆりママの4-2-9と9-6-3は3連複でも相当なオッズでしょうから、そっち買っておくことにします」

「なるほどな。のんでもよさそうだが200円だし宝くじ感覚で買ったがいいな」

「ええ、これでサービスしていただけるならお安いもんです！！　ところで。。大先生！今週もよろしくお願いします！　占っていただきたいのは夏のグランプリレース、宝塚記念です！」

承知した、とばかりに頷いた占い師は懐から三つのサイコロを取り出した。
静かに目を瞑り、ふぅ。。と大きく息を吐く。
チンチロリン！占い師の手から放たれた賽は小皿の上で小気味の良い音を立て、止まった。

「内卦・坎、外卦・坎、そして変爻の賽が２。坎為水の二爻が出ました」

「坎＝険が二つ重なる厳しい状況の卦ですね。しかも変爻で示された下から二番目の陽爻は、穴にはまった状態です」

「厳しい状況から抜け出せない。。ディープボンドはここでも勝てないのか。。」

「まぁ厳しい状況の時は無理をせず、腐らず自分の道を信じていきましょう。ということです。ずっと悪い状況が続くことはない、いつか良い方向へ転じる。それこそが易の根底にある教えなんです」

「そうか。。なら一発逆転を狙うんじゃなくて、少額で応援することにしますわ」

「軸は当初の予定通り15ディープボンド。4歳ばかりもてはやされてるから相手も5歳馬6歳馬に頑張ってほしい。欲をかかずに『求めて少しく得』ってことで馬連で」

占い師の結果を聞いて競馬新聞とにらめっこしていたポロシャツがギラりと目を光らせた。

「陽が穴にはまった状態。。。！！。。ということは人気→穴→人気てことでは？？　いや違う！　坎は真ん中の陽が陰に挟まっている！てことは逆だ！穴→人気→穴、これだ！　そしてこの坎（￤｜￤）の形は、2頭→なにか→2頭のフォーメーションじゃないか！」

「あそうそう。今回は変爻も出したので、二爻が陰に転じると水地比という卦になります。これを之卦（しか）といいます。坎為水の二爻、水地比に之く。求めた卦＝本卦に対して之卦は行く末を読んだりするのですが、お遊びですからこの場では特に言及しないでおきましょう」

「之卦は比に之く…しかがひにいく…ひがしか…ひしいく…10ヒシイグアス！あとは騎手で01ルメールを穴として選びます！」

「『求めて少しく得』って言われてるのに欲かいて3連単で高配当狙ってるじゃねぇか。3連複にしとけばいいんじゃねぇのか」

「う。。いや、ここは敢えて3連単でいきます！って、健さんだってワイドじゃなくて馬連じゃないですか！」

「もともと馬単で考えてたからな。馬連でも十分『求めて少しく』だぜ」

「ああっ！よく考えたらボクが選んだ馬たちのほとんどが関東馬じゃないですか！！暑い馬運車で消耗してたらどうしようー」

（坎為水の時は馬券を買わないという選択肢もあるのでは。。いや、野暮なことは言うまい）

毎週楽しそうに言い合いしている二人を眺めながら、占い師は2杯目の酒を飲み干した。

「当たるも八卦当たらぬも八卦」

下町の暑い夜はまだまだこれからだ。

※ポロシャツはちゃんと頼まれた馬券を購入しました
※ノミ行為は犯罪です

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