自転車T

「自転車乗りの王国」Chapter 01

 僕は自転車に乗って橋を渡った。
歩けばそれで散歩が済んでしまうような長い橋だ。
 橋を渡るとすぐに街の中心部がみえてきた。初めて訪れる街をみるのはすごく好きだ。
 それまで自分のなかにあった凝り固まったものや、不純物なんかをぜんぶ吹き飛ばしてくれる。
 自分がいかにちいさな存在かというのを思い知らされる。いちどそうなってしまうと、もう何もかもがバカらしくなる。なんで自分が存在するのかもわからなくなってくる。自分なんていなくても、ここには街があって、大勢の住まう人々がいる。

 それでいいんじゃないのか?
 
 それでも街は静かに僕を受けとめてくれる。決して邪険に払うようなことはしない。

 僕の場合、いい街かどうかの定義はそこだ。その一点。

 いい街ほど、僕は安心してそこに留まることができる。逆に嫌な街というやつはすぐに僕に干渉をはじめる。
 決して悪気はないんだけど、嫌なものは嫌なんだ。あんまり親しくもないやつからのちょっかいみたいなものかもしれない。

 ともかくそういうことがあると、僕は嫌気をさしてしまって、さっさとその街を飛び出してしまう。
 たとえ人がたくさんいようと、立派な街だろうと、強い街だろうと、そういうのは関係ない。

 この街は果たしてどうだろうか。

 僕はゆっくりと自転車のペダルを漕いで、ながれる街を眺めた。
 こういうときはじっくり観察してはいけない。人間っていうのは見ようと思えば思うほどに悪い部分だけが浮かんでくるようにできている。理屈じゃなくてそういうもんなんだ。

 海沿いの街の湿った風を、僕とそして自転車が切っていく。
 そしていつしか風は僕を忘れ、そして僕も風を忘れていく。
 
 駅前のカフェを見つけて、僕は自転車を店の前にとめた。
 いまかいたばかりの汗をタオルに吸わせて、息をととのえる。
 喫茶店の入り口のドアがカランと開いたとき、僕はこの街にしばらく滞在することを決めた。

つづく

イラスト:たかはしちゃん


 Chapter 02以降より以下の文章を投げ銭してくださった方へのすこしばかりのお礼とかえさせてください!(今回は全文読めます)
あと投げ銭いただける方は確実にマガジンをご購入いただいたほうがお得ですので、ぜひそちらをおすすめ致します!

 前回の小説、まったく読んでいただけないかと思ったのですが、感想などをいただけたりして嬉しかったのでまた書いてみようとおもいました。
今回もはじめはさらっと青春小説のようにはじめていきますが、すこしすると?なSFワールドに変えていくつもりです。
 でもSFもそんなに描きません。なのでSFを期待される方もこれまた拍子抜けになる恐れはあります。
 長さはいって中編、もしかしたらちょっと長い短編くらいを予定しています。
 作品自体は全文無料でお読みいただけますので、暇つぶしに使っていただければと思っております。

 それとこれはお願いなのですが、表紙絵、挿絵、マガジン表紙など描いていただける方はいらっしゃいませんでしょうか?
 この作品は自分では文章以外なにも手を加えたくないと思っていますので、希望される方はぜひ!お願い致します!
 それではまた次回お会いいたしましょう。

土田じゃこ

|マガジン|次回>

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