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かつてうさぎを飼っていた

ぼくはむかし、1羽のうさぎを飼っていた。
小学校中学年くらいのことだ。

名前は「タル」といった。真っ黒でまん丸っこい美人である。名前は、当時『まじかる☆タルるートくん』というアニメをぼくが毎週見ていたので、父がつけた。
タルのことを思い出すと、自己嫌悪と罪の意識で胸がいっぱいになる。今回は短くそのはなしをしてみたい。

前提として、最期まで面倒を見ていた父はともかくとして、母やぼくは、動物倫理的なものをまったく欠いた、とはいわないまでも、いかにも前時代的な視点から移動しないものであって、うさぎに関する知識、飼育方法などについても、現在にいたるまで完全に素人であったことを告白する。そのうえで、わたしたちはうさぎを飼うことになった。
はじめてタルが家にやってきたときのことはいまでもよく覚えている。母親が、おそらく路上の、正当なルートではないであろう業者から、衝動買いしてきたのである。母は、ケーキ屋の箱をもって仕事から帰宅した。そして、あまりにかわいかったから買ってきてしまったと、こういうふうにいうのである。なにかと箱を開けてみると、なにやら真っ黒の小さな毛玉のようなものが入っている。それが小さなタルであった。なぜそんな無責任な買い方をしてしまったのか、そもそもなぜケーキの箱に入っていたのか、わからない。だが、それは、想像を絶するかわいさであった。この点にかんしては、正直にいって「ケーキの箱に入っていた」ことはまちがいなくひとつの効果を呼んでいたようにおもう。善意、もしくは好意から、動物を玩具的にあつかってしまうような、そういう無知のおそろしさである。

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