なか卯のカレー

家のすぐ横になか卯があるので、俺はそこに1週間に2回くらいのペースで通っている。頼むメニューはだいたい決まっていて、いつも親子丼、チーズ親子丼、牛肉うどんを程よく回している。その三種類にたまにカツ丼を挟む。これが俺の中のベストなか卯ライフであった。しかし、今日いつものようになか卯に入り券売機の前に立った瞬間、何故か分からないがカレーを選びたくなっている自分がいた。実は俺は券売機のトップ画面に表示される賞品カテゴリ「カレー」を普段から意識していたのかもしれない。そんな自分の気持ちに気づいてからは心臓の動きが早くなった。いつものなか卯、いつもの券売機、いつもの俺、その空間の全てがいつもと同じなのに、なぜかいつもとは違うメニューを身体は求めていた。そして俺はどうにでもなれと思い、勢いに任せてカレーのボタンを押し、カレーの食券を購入した。その食券に書かれたカレーの文字を見た時これから何かが始まる予感がした。俺はいつもの席に座りいつもの店員に、いつもとは違う食券を渡した。ものの数十秒ほどでその店員が何食わぬ顔でカレーを持ってきた。俺の目の前にカレーが置かれた時もう後戻りはできないと覚悟を決めた。もうその時点で俺の頭の中には親子丼や牛肉うどんの存在はなかった。目の前のカレーだけを見ている。興奮が最高潮に達していて緊張と期待と不安と高揚が混在した複雑な感情だった。スプーンを手に取り一度深呼吸をした後勢い良くカレーを掬い口に運んだが、それは本当にどこにでもあるカレーだった。

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