酒は楽しく
私は、酒を飲んでいるとき、原則として仕事の話はしない。
酒を飲んで仕事の話をするのは、仕事に対しても、酒に対しても失礼だと思う。
いやらしい話で恐縮だが、一昔前「ノーパンしゃぶしゃぶ」が流行った。
当時の新聞報道によれば、銀行などのMOF担(当時の大蔵省担当者)が大蔵省の役人を接待するときにそこをよく使っていたそうだ。
ノーパンしゃぶしゃぶでは、ろくに下着をつけていない女性が接待をするが、しゃぶしゃぶも食べることができる。つまり、食事をしながらお色気も同時に味わえるという「一石二鳥」のお店だった。
通常は、一次会で食事をし、その後の二次会でその手の店に行くのだろうが、なにしろ大蔵省の役人の皆さんは忙しく、その接待が終わった後、省に戻って仕事をしなければならなかったので、同時に両方の欲を満たしてくれる店が重宝されたのだろう。
話はそれるが、当時大蔵省の役人の皆さんは本当に忙しく、真偽のほどは定かではないが、ときどき過労死する人が出るという噂だった。予算編成時には家に帰ることもできず、大蔵省の地下に仮眠室があって、そこに泊まっていたそうだ。その仮眠室は通称「ホテルオークラ」と呼ばれていたらしい。
しかし、そのようにしてまで酒を飲んで楽しいのだろうか?
お色気の話は別として、酒を飲むときには酒と肴を心から味わい、仕事の話の時には会議室で真剣に話し合ったほうが効率的だと思うのだが、どうだろう?
現在、私はある会社の監査役を務めているが、会社の役職員の方々とコミュニケーションをとるために、できるだけ多くの方々と(お酒を含む)食事をすることを心がけている。
多くの場合、食事に誘うのは私と初めて食事をする人なので、誘った時点で身構える人が多い。
「監査役と食事をするとき、どんなことを聞かれるのだろう?」
「自分に仕事の上で何か問題があったのだろうか?」
「初対面のおじいさん(私のこと)とどんな話をすればよいのだろう?」
たぶん、私が彼らの立場だったとしてもこのような心配(?)をすると思う。
しかし、私は酒の席では本当にくだらない話しかしない。というか、相手の話の聞き役に徹するようにしている。それが本当だからしょうがないが、人によっては「このおっさんはくだらない奴だ」と思ってしまうだろう。
今までの経験から考えて、初対面で酒を共にすると、次の真剣な仕事の話の時に会話がスムーズに進む。けっこうズケズケと何でも尋ねることができる。
これが私の深慮遠謀(?)なのだ。
以前も書いたが、私は娘の学校のお父さんの会で、毎月学校でお酒を飲み、ゲストスピーカーの話を聞いている。
現在は参加者が減少したので、酒は近所のスーパーで買ってくるが、以前は多くの人が自慢の日本酒を持ち寄って飲んでいた。
おかげで私は「有名どころ」の日本酒はけっこう味わうことができた。
それが高じてとうとう自分たちで日本酒を造る輩まで出てきた。造ると言っても、地方にある造り酒屋の樽の一部の酒を瓶詰にしてもらって買い取るのである。
私も参加したことがあるが、確か5人ほどが出資し、買い取ったお酒のネーミングライトは各自にあるしくみだった。自分のお酒の銘柄を造り酒屋に伝えると、瓶にその銘柄のラベルが貼られた4合瓶が20本ほど手に入った。
私は当初自分の酒の銘柄を清酒「えろおやじ」にしようと思った。それを持って飲み屋に行けば、「ばかなんじゃないの?」と話題になることを狙ったのだが、うちの場合は書道の達人の妻にラベルを書いてもらおうと思っていたので、妻に依頼した途端、本当に「ばかなんじゃないの?」と言われ、即却下されてしまった。
そこで考えたのが清酒「超大吉」だった。縁起の良い名前でしょう?
この酒をお父さんの会に持っていくと、一緒に酒を造った仲間は、自分の酒が一番おいしいと自慢する。考えてみれば同じ樽からできた酒なのだから、味が違うことなどないのだが、そこが酔っ払いの酔っ払いたるゆえんだ。
以前、純米日本酒の会というのがあった。当時は日本全国で純米酒のメーカーが40社ほどあったそうで、それらが一堂に会するというすごい会だった。
私も知り合いからの紹介で、何回か参加したことがあったが、その会の素晴らしいところは、お酒だけでなく、各造り酒屋がその地方におけるとびっきりの肴を用意してくれて、酒も肴も飲み放題・食べ放題だった点である。
その会は毎年私の事務所の近くの会場で、3月15日前後に開催されていた。
3月15日というのは、所得税の確定申告の最終日であり、税理士事務所にとっては1年中で最も忙しい日と言ってもよい。
したがって、開催日が3月15日よりも前の場合には、行けないことが多かった。
ある年、3月15日その日に開催されたことがあった。何とかなるだろうと思って出席することにした。お父さんの会の仲間の多くも参加する予定だった。
当日、お客様の申告は終了し、最後に自分の確定申告書を作成しているとき、事務所の外から大声が聞こえた。窓を開けてみると、お父さんの会の連中だ。
「坪谷!行くぞ、出てこい!」と叫んでいる。
「ちょっと待って、まだ自分の申告書を書いているんだよ」
「そんなのは適当に作っておけばいいじゃないか」
他人事だと思って好き勝手なことを言う。
しょうがないから、連中を事務所に入れて、ビールを飲ませながら待ってもらった。
後ろでビールを飲みながら「まだか?早くしろ!」という連中に急かされて作った自分の申告書は、大丈夫だったのだろうか?
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