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「色彩讃歌」第3話

○ハングリッジ大学・門
  門にやってきた真里愛を、山田が走って迎えに来る。
山田「……真里愛さん!」
  頭を下げる真里愛。
山田「もう……心は決まりましたか?」
真里愛「……はい」
山田「よかったです。博士もルネも喜びますよ」
真里愛「あの……グランマのことは……あれは、やっぱり歌のおかげなんでしょうか」
山田「おばあ様は、真里愛さんの歌を聞いて、赤色を見たことがあるんですよね?」
真里愛「……はい」
山田「であれば、測定をしなければ厳密には言い切れませんが、今のところその可能性は高いと言えます。本態性振戦や失声症は精神汚染による病ですから、心に活力を与えてくれる赤色が功を奏したのではないでしょうか」
真里愛「……。山田さん……」
真里愛「……奇跡って、あると思っていいんでしょうか?」
  真里愛の切なげな表情にドキッとする山田。
山田「あ、ありますよ!」
  と、真里愛の手を握る。
山田「奇跡はありますよ。あなたの……歌の中に! 僕はそう信じています!」
真里愛「(呆気に取られる)……」
山田「(我に帰って)あっ! すみません! 大変失礼いたしました!」
  真里愛の手を離し、ペコペコ頭を下げる。
山田「こ、こちらです!」
  先導する山田。
真里愛「(笑顔で)……はい!」

○ハングリッジ大学・研究室
  真里愛と山田が研究室に入ると、ロレンス、ルネ、セイラン、いろは、カンジュが揃っている。
ロレンス「(プイとそっぽを向きつつ)遅いぞ」
真里愛「すみません」
カンジュ「大丈夫。大事なお知らせには間に合いましたよ」
真里愛「え?」
真里愛「(こっそり山田に)どなたでしたっけ」
山田「マネージャーのカンジュさんです。活動スケジュールを作ったり、場所や器具の手配などセッティングをしてくれます」
真里愛「よ、よろしくお願いします!」
  笑顔で頷くカンジュ。
カンジュ「お三方にはこれからみっちりと色の勉強と歌のトレーニングをしていただきます。なぜなら、君たちのデビューは……1か月後!」
真里愛・いろは・セイラン「えっ!!」
ロレンス「10月20日の皇帝誕生日、コートドール城前広場で行われる生誕の祭典にて歌を披露してもらう」
真里愛・いろは・セイラン「ええええええーっ!!」
真里愛「は、早すぎます! 無理です無理です!」
セイラン「そうですよ!」
ロレンス「確かに早い。だが、この機を逃す手はない」
カンジュ「国中の人の目に触れますからね」
真里愛「そ、そんなぁ……」
ロレンス「(咳払いをして)……外に来なさい」

○ハングリッジ大学・中庭
  こぢんまりとした中庭を花壇が囲んでいる。一同が立ち並び、ルネはピアノの前に座っている。
ロレンス「改めて──君たちがここに集ってくれたことに感謝したい。ディーヴァ・プリエールの誕生を祝い、これを贈る」
  ロレンスは大きな花束を3つ取り出す。
ロレンス「いろは」
いろは「……!」
  受け取って、とっても嬉しそうに微笑むいろは。
ロレンス「セイラン」
セイラン「ありがとうございますっ」
ロレンス「真里愛」
真里愛「わぁ……! いい匂い」
真里愛「見たことない花がいっぱい!」
いろは「(頷く)」
ルネ「今日のために、何年も前からロレンスが世界中から集めていたのよ」
真里愛「え……!?」
ロレンス「……。その花束は、君たちの色と同じ花を選んで作ったものだ。これを本当の色で染めてみなさい。ルネの『虹』はわかるかね?」
真里愛・セイラン「はい」
  いろはもコクリと頷く。
ロレンス「真里愛から始めて、1小節ずつセイラン、いろはの順番で。最後だけ3人で声を合わせて。ルネ」
真里愛「えっ!」
  ロレンスが目配せをして、ルネがピアノを弾き始める。
真里愛M「ルネの伴奏で、ルネの歌を歌うなんて!」
  と、焦るも、歌いだしの時が迫る。
真里愛M「……ええい! やるしかない!」
  すぅ、と息を吸って真里愛は歌いだす。
真里愛「♪春の風が ひかり空を舞うの エメラルドが 踝を くすぐった」
  真里愛の持つ花束の花が赤色に光る。頷くロレンス。
セイラン「♪なぎさの道 白い貝を拾って 星のような まなざしに 包まれる」
  セイランの花束の花が青色に光る。
真里愛M「青色。赤とは真逆の、落ち着く色……」
いろは「♪恋の花は オーロラの香りね わたし達の 永遠が 続いてく」
  いろはの花束の葉や茎が緑色に光る。
真里愛M「緑色。葉っぱの色」
真里愛M「わっ、私のも光ってる!」
  真里愛、赤色の花と緑の茎の様子に目を奪われる。
セイラン・いろは「♪木立の向こう 虹が輝いている」
  セイランといろはが歌わない真里愛を見る。真里愛、慌てて歌いだす。
3人「♪この世界を 愛してると 歌ってる」
  花束すべてが光り、緑色の葉や茎、青、赤、黄色、緑の花々を見て3人に笑顔が溢れる。
3人「♪この世界を 愛してると 歌ってる……」
  歌い終わる頃には、花束以外にも色が広がって3人の周りもフルカラーに近い状態になっていた。
3人「……」
  演奏が終わって、3人はしばらく口がきけない。
  静まり返る中、山田が割れんばかりの拍手を送る。
山田「……! ……!」
ルネ「……なんて、美しい……」
カンジュ「これは……」
真里愛「……えへへ」
セイラン「赤も青も、緑も、……全部、キレイだった」
真里愛「ねぇ、知らない色もあったよね? あったかい感じの色!」
いろは「(笑顔で頷く)……! ……!」
真里愛「……博士?」
  ロレンスは黙ったまま動かない。
ロレンス「……すまない。あまりに……夢のような……光景で……っ」
ルネ「ふふ。ロレンスは感動のあまり言葉をなくしたようね」
  ルネ、ピアノの椅子の上に座ったまま真里愛たちの方へ身体を向ける。
ルネ「では代わりに私が。真里愛、セイラン、いろは。あなた方は世界にたった3人だけのディーヴァ・プリエールとなりました。これから起こることはすべて歴史上でも初めての出来事です。嬉しいことや大変なこと、時には悩み苦しむこともあるかもしれません。でもあなた方には私がついています。私は詩と愛を持ってあなた方を力強く支える母となります。いいですか。天から与えられたギフトに感謝し、世界中の人を歌と色で包み、幸せを運ぶ存在となるのですよ」
  ルネは天に向かって両手を広げる。
ルネ「さぁ、奇跡を歌いましょう。色彩を讃美する歌を。色彩讃歌を!」
真里愛・セイラン・いろは「はい!」

○コートドール城
  荘厳な城の内部を歩くロレンス。白く長い階段を昇る途中で立ち止まり、呟く。
ロレンス「……ルネ。見ているか。赦しの時が近づいている」
  宙に手を伸ばし、ぐっと掴む。
ロレンス「僕が君を、天国へ連れて行く」

〇コートドール城・空中庭園
  ロレンスが階段を昇ると、花々が咲き誇る空中庭園に出た。中央にある白いガゼボの前にやってきて跪く。ガゼボには白いカーテンがかかっていて、中が見えない。
ロレンス「大変良い知らせです。予てより報告していた2名に加えて、3人目のカラーリングを持つ少女が現れました。これまでにいなかった色彩の持ち主です」
ロレンス「彼女らは確実に民衆の心を掴みます。うまく使えば使うほど、あなた様の権威は世界に轟くものとなるでしょう」
  白いカーテンの向こうにいるのは皇帝ザルガだが、姿は見えない。
皇帝ザルガ「貴様の絵空事は聞き飽きた」
ロレンス「……」
皇帝ザルガ「私が求めるのは成果だ」
  白いカーテンが揺れて、ベッドに人物が寝ている様がうっすら見える。
ロレンス「……最も効率のいい1名をお捧げいたします」
皇帝ザルガ「急ぐがよい」
ロレンス「はっ……」

〇ハングリッジ大学・中庭
  真里愛、花束を持ってくるくると回っている。
真里愛「あははっ……!」
  ひとしきり回ってから芝生に寝転がる。花束を抱きしめ、空の雲を眺める。
真里愛「(ポツリと)色彩讃歌……」
真里愛「そういえば、ルネの歌詞って何かを讃えるものが多いなぁ。りんご、雨、鳥、虹──わかった。ルネは世界そのものを愛してるんだね」
  花束を愛おしそうに頬に寄せる。
真里愛「私もいつかルネみたいに、世界を愛し、人を愛すディーヴァになれるかなぁ……」
  起き上がる真里愛。
真里愛「ううん、きっとなれる。なってみせる!」
  きらめきを宿した瞳で空を見上げて。
真里愛「夢に向かって……光っていこう!」


つづく

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