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◇高嶋イチコ自選集◇

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自己紹介がわりに、これまでの投稿で特にお気にいりの物を集めました!
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#恋

摘花の恋【てきかのこい/掌編小説】

手持ちの服をすべて試してやっと選んだすみれ色のワンピースも、二日分のバイト代をつぎ込んで買った桜色の下着もぜんぶ剥ぎ取ってから、佐伯さんは私に「可愛い」と囁く。 佐伯さんの手で投げ捨てられた私の服が、ホテルの床に散らばる。力なく人型を保つそれは、さっきまで嬉々として身支度をしていた自分の亡骸みたいだ。 私は今週もこの男に会えたことが、嬉しくて虚しい。 肌色一色になった私の体に、佐伯さんの薄い唇がおりてくる。長くしなかやかな手足が、私の体を弄ぶ。 「窓のない部屋なんて、息

恋の証人。

これは本当に起こったことかもしれないし、そうじゃないかもしれません。 「俺、宏美とも寝てるよ」 男が口にしたのは、わたしの憧れの女性の名前だった。 ちょっとだけ虚をつかれて、眠気がとんだ。 深夜3時までだらだらと抱きあって、わたしたちはまだ裸でベッドに寝そべっていた。さっきまで繋いでいたその手が、あの優しい女性の体にも触れていたなんて。 バイト先のバーで、わたしが働き始めるよりもずぅっと昔に働いていた男とその女性、宏美さんは、いまでもそのバーにそれぞれ飲みにきていた。

恋の痛みも、煙のように消えていく。【エッセイ】

はじめて付き合った男は、エコーの匂いを纏っていた。 オレンジ色のパッケージに包まれたその煙草は、当時180円。コンビニに並ぶ銘柄のなかでも格段に安い。 「音楽家だからさ。いいでしょ、エコー」 そう言って彼は、大きな手でジャズベースを弾いていた。 わたしが初めて吸ったのも、同じ煙草。 朝になっても帰らない彼を待ちながら、なかばやけくそで、灰皿に溜まったシケモクをひとつ手にとり、火をつけた。 肺が苦しくて、ぶざまに咳きこんだ。涙目になりながら、彼に似合う女になりたいと思った

ながれる【流れる】→121日目/掌編小説

ながれる【流れる】 水の流れによって物が動かされる。 ◆◆◆ 夜の川面には、筆をつかって絵具を散らしたかのように、たくさんの桜の花びらが浮かんでいた。 深夜一時。川辺には夜桜を見に来た僕ら以外、誰もいない。 「あれ、乗っちゃおうか」と、彼女が指さした先を見ると、桟橋に古いボートが二艘、繋がれていた。 彼女は僕の制止も聞かずに桟橋へ向かい、重そうなロープを解きはじめる。華奢なパンプスでよろける姿を見ていられなくて、仕方なく手を貸した。 ロープを解かれたボートに、彼女がひらり