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【中国美術1】中国美術への憧憬〜范寛「谿山行旅図」を知る

私は幼い頃から古いものが好きでした。
ぼんやりと記憶にあるのは、6歳頃に東京国立博物館で見た「特別展 正倉院宝物」です。琵琶の螺鈿細工の装飾や美しい碁盤、鳥の柄が刻まれている赤や紺の碁石のようなもの。よくわからないけど、とても綺麗だな、とガラス越しに見とれていました。

螺鈿紫檀五絃琵琶
https://shosoin.kunaicho.go.jp/treasures/?id=0000010076&index=7

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木画紫檀碁局
https://shosoin.kunaicho.go.jp/treasures?id=0000010084&index=9

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紅牙撥鏤棊子
https://shosoin.kunaicho.go.jp/treasures?id=0000010069&index=50
紺牙撥鏤棊子
https://shosoin.kunaicho.go.jp/treasures/?id=0000010070&index=51

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そして、それらは中国から渡ってきたものや中国の影響が強いものだと次第にわかってきました。

次に記憶に残ったのは、中学生の時に読売新聞の日曜版でたまたま見かけた猿の絵。ふわふわした毛のニホンザルのような物憂げな表情の猿。
古い絵だから全体的に茶色っぽいけど、なんだか気になって新聞を切り抜いておきました。ただ、中学生の自分は、その絵について詳細は理解できず、なぜこの絵がいいと感じるのか、自分でもよくわからないままでした。

伝毛松筆「猿図」南宋時代 東京国立博物館蔵
https://www.tnm.jp/modules/r_collection/index.php?controller=dtl&colid=TA297

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我々が持っている中国のイメージって、映画のキョンシーやカンフーやチャイナドレスの衣装、赤を基調としたド派手なイメージですが、それはどちらかというと近代の清の時代辺りのもので、もっと古い時代はまた違うのだと、やっとわかってきたのは、だいぶ後のことです。

現代は、学校の美術の授業で中国美術について教わることはまず無いし、歴史もそれほど詳しく教わらないので、勉強するとしたら本当に興味のある人が大学で専攻するくらいでしょうか。
でも戦前の人は中国文学や漢詩を愛読し、日本画家は中国の絵を模写していたり、室町時代の足利家は中国美術を熱心に集めたり、かなり中国文化に親しんでいたのではないかと思うのです。
芥川龍之介の中国旅行記でも、中国文学や中国美術についての記述が数多く登場します。

そして、2007年頃、ある絵と出会います。
范寛「谿山行旅図」北宋時代 国立故宮博物院蔵

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この絵を知ったのは、中上清さんという現代美術の作家の展覧会を神奈川県立近代美術館へ見に行った際、展覧会の図録で序章に紹介されていたからです。

「谿山行旅図」は今まで持っていた水墨画のイメージとは違い、抽象絵画のような、高い山が眼の前にそそり立つような構図です。日本画の「余白の美」とはかなり違う独特な絵で、このような洗練された絵が北宋時代(日本でいうと平安時代〜鎌倉時代初頭)に描かれていた、というのも驚きです。現代美術家がこの絵に影響を受けるのもわかる気がしました。

少しづつ中国美術へ興味が傾いていくのですが、周りに知識のある人もほぼいないし、なんだかよくわからない世界だなと思いつつ、数年が経った後、新書でいい本を見つけました。

こちら、入門書と言うほど優しい内容でもないので、読んでも最初は頭に入ってきません。あまりにも知らないことって、すぐには理解できないものです。よく展覧会の解説文を読んでもいまいち頭に入って来ない、あの感覚です。

時々展覧会を一緒に見に行く、25歳年上の知識豊富な友人に会った際、本を見せながらその話をしたところ、その方は私よりも中国美術についてかなり詳しく、色々と教えてくれました。

「有名な印象派の絵だって、最初からセザンヌだのなんだのって知っていたわけじゃないでしょ。興味を持っているうちにだんだんわかってくるから大丈夫よ。それにあなたはまだ若いから、これからいくらでも興味を広げられるわよ。私の若い頃は西洋の抽象表現主義などの現代美術に関心が強くて、中国美術についてなんて全然知らなかった。もっと早く興味を持てればよかった」とおっしゃいました。

そして、台湾の故宮博物院では定期的にこの絵を公開しているはずだから、公開スケジュールを時々チェックしてみてはどうか、とのことでした。

そこで台湾の故宮博物院のFacebookページをフォローしたところ、2015年7月に、范寛「谿山行旅図」が4年に1度の公開をするとのニュースが流れてきました。

次回に続く。


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