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クールベ、山男から海男にメタモルフォーゼ?!

フランスの画家ギュスターヴ・クールベ(1819〜1877年)が描いた海の風景は、巻き上がる波の描写が迫力満点。ところがパナソニック汐留美術館で開かれている「クールベと海」展を訪れたつあおとまいこは、クールベが最初は山の絵ばかりを描いていたことに感心しきり。クールベははたして山男だったのか? あるいは海男だったのか?!

つあお まいこさん、この絵のタイトル、なかなかインパクトがあると思いませんか? 《岩山の風景、ジュラ》と書かれています!

まいこ 一瞬にして恐竜を思い出しますね! クールベの展覧会で「ジュラ紀」の「ジュラ」が出てくるとは思いませんでした。

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《岩山の風景、ジュラ》(左、1856年、美術館ギャルリ・ミレー[富山])などクールベの初期作が展示されているコーナー

つあお 「ジュラ」はクールベが生まれ育った山岳地域の名称らしいですね。

まいこ へぇ。

つあお 恐竜の時代だった「ジュラ紀」の名称も、この地域の地層に由来するらしいですよ。それにしても、この絵はちょっと不気味。あの大きな岩の向こうから、ティラノサウルスが出てきてもおかしくないかも!

まいこ 手前のうっそうと茂った森といい、「ジュラシック・パーク」の雰囲気もありますね!

つあお 何となく全体的に荒々しい感じがしているのが、いっそう恐竜の雰囲気を引き立てている。

まいこ この岩肌の筆致も荒々しい!

つあお それでね、この展覧会のテーマである「海」の風景もやっぱり荒々しい。だから、荒々しさは、ひょっとするとクールベという画家の本質なのではないか! そんな想像をしたんですよ。

まいこ なるほど。そもそもクールベを顕彰するこの展覧会で最初に出てきたクールベの作品がこれだったということは、そういうことだったのかもしれない!?

つあお クールベは、神話などではなく自分の目で見た風景を描いたから写実の画家と言われていますが、風景をただ正確に写しただけじゃない。荒々しい筆致には自身の経験や思いがにじんでいるんじゃないですかねぇ。

まいこ パレットナイフで厚塗りをした作品もいろいろ出てきますもんね。私にも、だんだんそれがクールベらしいなと思えてきました。

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ギュスターヴ・クールベ《岩のある風景》(左、ポーラ美術館)、同《ブー・デュ・モンドの滝》(1864年、個人蔵)展示風景。奇岩の描写においては、荒々しさを表現するためにパレットナイフによる厚塗りが施されている。

つあお もう一つね、ひょっとすると写実とは別次元の、物質としての絵の具の荒々しさに気づいた可能性もあるんじゃないかと思ったんですよ。

まいこ どういうことですか?

つあお 絵の具を厚ぼったく使って彫刻みたいになったときに生まれるような荒々しさです。

まいこ クールベはジュラ付近の山岳地域でもともと生まれ育ったそうですから、こうした岩肌などを描くときに、絵の具の質感がぴったりだと感じ取ったのかもしれませんね。

つあお 海の絵にも、素晴らしい荒々しさがあふれている! 重たい空気感や巻き上がった波の立体感も半端ないんだけど、とにかく力強い。やっぱり絵の具の特性をすごくよく生かしているんじゃないかな。

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クールベが荒々しい海の風景を描いた作品が展示されているコーナー

まいこ 荒々しい波のシュワシュワとしたしぶきの部分が、先ほどの岩肌とシンクロしてきました!

つあお クールベの波の絵は、うねりだけを見るとサーフィンができそうな感じもしますが、実際にこんな天候の中でサーフィンをしたらヤバいだろうなぁ。

まいこ よく映像で見るサーフィンはだいたい快晴の中でやっていて、美しいブルーの波ですからね! クールベの波は黒々とした緑色でちょっと怖いような迫力を感じます。

つあお まさに嵐がもたらした波なのでしょう。やっぱりサーフィンをする勇気は出ないですね。

まいこ こういう天気の時はサーフィンはやめたほうがいいですね。もしかして、つあおさんは元サーファーなのですか?

つあお ハハハ。◯△年くらい前まで、サーフボードを家に飾ってました。1度だけボードの上に立てたことがあります。

まいこ へぇ、すごい! でも、とにかくこの波はやめたほうがいいですよね。

つあお ご安心ください。サーフボードはとっくに誰かにあげちゃったし。でもクールベの絵を見ると、やっぱり海の凄みを感じられて、心にずしんと来ます。

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ギュスターヴ・クールベ《波》(左、1870年頃、姫路市立美術館[國富奎三コレクション])、同《波》(1869年、愛媛県美術館)展示風景

まいこ 私は、クールベの波の魅力は、このゼリーのような半透明感にあると思ってたんですよ。

つあお おお、なるほど。だからこんなに立体感があるんだ。

まいこ なめらかで立体的で吸い込まれそう! これはジュラの山を描いた初期の絵にはなかった要素だと思います。

つあお むしろ、この波の形を見ると、ティラノサウルスが描かれたような感じがする!

まいこ 確かに、すごい迫力! いきなりティラノサウルスの背中と尻尾が見えてきました。左半分の、盛り上がった波のかげになった部分を背中とみると、まさに恐竜のシルエットですね!

つあお クールベは、この同じような絵を、スケッチと記憶を頼りに何枚も描いている。よほどこの風景に感じ入ったものがあったのでしょう。

まいこ 山岳地域で育ったクールベが初めて海を見たのは20代になってからだそうですから、何かとてつもない力を持ったものと思ったのかもしれませんね。

つあお クールベは山男から海男になったんですね、きっと!

【まいこセレクト】

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ギュスターヴ・クールベ《雪の中の狩人》(左1866年、公益財団法人 村内美術館)、同 《雪の中の小鹿》(1869年頃、千葉県立美術館)展示風景
この真っ白な雪の風景2点がキリっと美しく、惹かれました。クールベの山男時代は、狩猟の絵もたくさん描いていて、生き生きと描かれた動物たちがお茶目。ほどなく獲物になってしまうのだけど、それまでの短い時間、心を通わせていたような温かさを感じます。
左の絵は、密猟者たちの場面を描いているのだけど、雪の中の狩猟は当時禁じられていたので、画家自身も憲兵に捕まって罰金を科されたというエピソードにびっくり👀 描くためにはリスクも辞さない姿勢がかっこよいな~!

【時代背景】

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19世紀のフランスでは鉄道が発達し、内陸の都パリの人々もSLに乗って海岸まで出かけて海水浴をレジャーとして楽しむようになったという。会場には当時の写真と、海水浴を楽しんだ人々の服装が展示されていた。

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同じ19世紀後半のフランスで海の風景を描いたクロード・モネ《アンティーブ岬》(1888年、愛媛県美術館)、同《アヴァルの門》(1886年、島根県立美術館)の展示風景。

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ステキなフォトコーナーがあったのでパチリ📷

※掲載した写真は、プレス内覧会で主催者の許可を得て撮影したものです。

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【つあおのラクガキ】(Gyoemon=つあおの雅号=が美術作品にインスピレーションを得て描いたとんでもないラクガキを掲示してしまうコーナー)

波乗り山男

Gyoemon《山男、波に乗る》
ヒマラヤ山脈の奥地に3000年の間住み続けていると伝えられる山男が生まれて初めて海を見てその波のうねりの力強さに感動し、ついサーフィンをしてしまった場面を描いた作品。

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2021年4月10日〜6月13日(日時指定予約制)
日時指定予約サイト

[公式ウェブサイトより引用]
19世紀フランスを代表するレアリスムの巨匠ギュスターヴ・クールベ(1819−1877)。あるがままの現実を描くことで、既存の政治や美術制度に敵対的な態度を表明した一方で、故郷フランシュ=コンテ地方の大自然や動物、22歳の時に初めて目にしたノルマンディーの海を繰り返し描き、その鋭い洞察力や高い技術力が評価されました。
本展では、こうしたクールベの風景画家としての側面に焦点をあて、とりわけ画家が1860年代以降に集中的に取り組んだ「波」連作を中心に紹介します。さらに、クールベ以前より表象されてきた畏怖の対象としての海、同時代の画家ブーダンやモネが描いたレジャーとしての海もあわせて展覧し、海との距離がより身近なものとなった当時において、レアリスムの巨匠クールベが捉えた海の風景画の特異性を探ります。
出品作品は、国内作品にフランスのオルレアン美術館が所蔵する《波》も加わった、約60点の作品によって構成されます。同時代の画家たちが描いた海景画の中でも、とりわけ「奇妙」に映るクールベの、迫力ある海の描写をご堪能ください。


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