思わせぶりな態度はやめて

目の前にいる相手は周りの様子を伺い何やら落ち着かない様子。
騒がしい音をたてながら猛スピードで進んでいた世界が止まり一瞬の静けさが訪れる。


「いや降りないのかよ!」


電車の席に座っている目の前の人にそんなことされたら降りると思うじゃん。
駅に着く直前にきょろきょろし始めて物を鞄にしまったのに降りないなんて、クラウチングスタートの体勢だけとって走り出さないみたいなものではないか。
しかも数駅で降りるわけでもなく延々と乗ってるぞ。
満員電車で安寧の地を手に入れた気になってしまったじゃないか。
変な期待させるのやめてくれ。
届きかけた夢が指の間からこぼれ落ちていく…なんて残酷なんだ。

そう、このように私は幾度となくこの思わせぶりな態度に振り回され、期待を裏切られてきた。
それ以来なるべく別のことに集中するようにしている。
本の世界にのめり込むのだ。
しかし、本越しに見えてしまうその挙動。
意識しないように意識してる時点で意識しているではないか。
私はもう精神的に負けている。
勝つには相当な修行が必要そうだし、自分以外の人間を都合よくコントロールすることなどできないため一旦諦めることとしよう。

私のような人間が他にいるのかどうかわからないが、どこかの誰かの期待を裏切らないように私は駅に着く直前に周りを見回したり鞄をいじったりしないようにしている。駅を出発してから鞄に物をしまったりなんかしちゃってるのだ。

あと各駅に着く度にきょろきょろする人、駅と駅との間でプレイヤー交代してる?
急に召喚されたかのようにそんな毎回新鮮に「ここどこ!?」ってなることある?
だがしかし、その思わせぶりな態度にも私は騙されないぞ。
わかってる。どうせ次の駅でも降りないのだろう?

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