千年クロベ
たまたま購入した雑誌、「山と渓谷」に載っていた。
こんな近くにこんな場所があるなんて知らなかった。
栗駒山の近くにある「世界谷地原生花園」。
栗原市のHPによると、標高1,626メートルの栗駒山の標高669から770メートル地帯に広がる細長い湿原。
そこを抜けてひたすら山へ山へと歩くと、宮城県指定天然記念物 花山の千年クロベに会える。
樹高約21.5m、胸高直径303cn、樹齢は推定1,000年以上と言われている。
紅葉もさぞかし綺麗なことだろうと、朝早くから準備して出発。
駐車場には誰もいない。
気温3℃。
少し明るくなるのを待ってから支度をして上り始めた。
入口からすぐの「第一湿原」には行ったことがあるので、今回は寄らずに「第二湿原」の方へ向かう。
聞こえるのは鳥のさえずりと、木の葉が擦れ合う音だけ。
少し怖くなったので、熊鈴をもっと鳴りやすい位置につけなおす。
「第二湿原」の横を通り過ぎ、「大地森分岐」を目指す。
なだらかな道が続き、歩きやすい。
徐々に斜面がきつくなり、急登になってきたところでみぞれが降ってきた。
急いで雨具とザックカバーを着け、とにかく寒さで体力が奪われるのを防ぐ。
登山ではなく、あくまでハイキングとはいえ、誰もいない場所で動けなくなったらと考えると怖い。
みぞれから雪に変わってまもなく止んだ。
そうすると、今度は暑くなってきた。汗をかきたくないので雨具を脱ぐ。
途端にまた雨。そしてみぞれ。
あー、もう、面倒くさい。
そんなことを3回くらい繰り返した。
標高がそれなりに高くなってくると、道が雪でうっすら覆われていた。
振り返り、自分の足跡を確認する。
今日はピストンなので、帰りは自分の足跡を辿ればよい。
あまり人が来ないせいか、所々行き止まりのようになっている。
いやいやルートはあるはず。
うろうろしながら雪の重さで垂れ下がった枝を掃い、ルートを見つける。
誰もいない。時々熊対策で笛をピーピー鳴らしながら前へと進む。
渡渉が3か所くらいあった。
水量はそれほど多くはなく、難なく越えられる。
ただ、ひたすら歩く。
静かな山の中をひとり黙々と歩く。
この時間が好きだなーと思う。
千年クロベは、そこに、凛と立っていた。
厳かに。そして、静かに。
もしここに、もののけ姫のコダマがいたとしても、何の違和感も感じないだろう。
いや、むしろ、いないことの方が不思議な気がしてくる。
千年クロベの周りにはロープが張ってあり、近づけないようになってある。
数枚写真を撮って、三脚でツーショットを撮った。
みぞれまじりの雨が激しくなってきたので帰ることにする。
余韻に浸りながら、千年クロベに背を向ける。
また来よう。
随分薄くなった自分の足跡をたどって帰る。
途中、なんなく渡渉した川が雨で水かさが増し、ちょっと大変なことになっていた。
まぁ、渡らないことには帰れない。
慎重に渡っていたつもりだが、足を置いた石がぐらりと動いた。
ジャボンっと川に落ちた。
水量は膝下。石を渡るのをあきらめて、そのままジャボジャボと川を渡った。
寒い。冷たい。
登山靴を脱いで、水を出し、中敷きと靴下を絞った。
寒い。もう、ほんと、寒い。
低体温症になっちゃったらどうしよう。
とりあえずは膝下でとどまれて良かった。転んで全身濡らしていたら命にかかわったかもしれない。
靴下の替えは持ってきていたが、登山靴の中敷きがグッショリで、もうこのまま行くことにした。
行動食のアミノバイタルを流し込み、ラムネ菓子をほおばって歩き出す。
すると天気が良くなってきた。太陽の日差しが温かい。
「第二湿原」の分岐のところまで来た頃には、もう、そんなに寒さを感じなくなっていた。
少し迷って、せっかくだからと第二湿原をぐるりと回った。
やっと数人とすれ違う。たいていの人は、第一湿原、第二湿原を見て帰るのかもしれない。
車に戻って着替えて一息。
ものすっごくお腹がすいていることに気が付いた。
そういえば、行動食を少し食べただけで、朝から満足に食べてなかった。
千年クロベを眺めながら食べようと思っていた、つぶれた菓子パンを食べた。
ちょっとハイキング、のつもりが、なかなかの山行だったな。
思ってた以上に距離があったし、寒かった。まだ雪なんてないと思ってた。
正直、別に登山靴じゃなくても、スニーカーでもいいんじゃないかなんて思ってたけど全然違った。
念のため、と持って行った防寒着がなかったら、千年クロベまでたどり着けなかったかもしれない。
今回はたどり着けて本当に良かった。
ぜひ、また来たい。
今度は川に落ちない。
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