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紅侘助

 昔、職場の先輩に「何の花が好き?」と聞かれて、「椿」と答えたら、
明らかに嫌そうな顔をして「縁起が悪い花なんだよ」と言われた。
質問は、「何の花が好きか」であり、「縁起の良い花は何か」ではない。
そういう時、私は納得できなくて戸惑ってしまう。それは今でも変わらない。
質問の内容が違う、なんて言おうものなら「うざい」と言われてしまうので、黙って微笑む。

 椿の中でも「紅侘助」がダントツで好きだ。
子供の頃に友人の家の庭に咲いているのを見て、ハッとしたのを今でも覚えている。
友人のお母さんが「侘助という花よ」と教えてくれた。
「椿」ではなく「侘助」
その名前があまりにもその佇まいに似合っていた。
小振りで、さみしげに、そっと咲く。
それなのに、印象が強いのだ。芯の強い女性を彷彿とさせる。

 両親が田舎に移り住んだのを機に、庭に侘助を植えてもらった。
1本の木にたくさんの花をつけるのだが、けしてうるさくない。
こんな素敵な花なのに、縁起が悪いと嫌悪するなんてもったいない。

 紅侘助を見ながらそっと姿勢を正す。
 出しゃばらず、流されず、埋もれず、溺れず、腐らず、私は生きているだろうか。


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