悪意はきっと無い

昔とある掲示板で

「(フィクションに出てくる)あの銃いいよねー」とか、

「あの作品のプロップの演出は良かった」とか、

そういう事を話している場所に突然

「私は○○年狩猟に携わっており実銃も数多く所有しております」

みたいな人が現れて聞かれてもいない狩猟や実銃の蘊蓄を唐突に語りだした事があって、さすがの僕も「こいつはヤバイな」とその時思った。

態度自体は礼儀正しく、豊富な語彙や言葉遣いからも年紀の古さや知性の高さを感じさせただけに、一見マトモだが底知れないタイプの人間の怖さ、薄気味悪さのようなものを見た気がした。

その後も定期的に出没して、種々の話題に自分の経歴や所有物に関する知識を絡める形で闖入してきていたが、キャッチボールも成り立たないので、いつしかほとんどの住民に相手にされなくなり、気が付いた時にはいなくなっていた。

当時はインターネットが今よりもっとクローズな時代。銃や獲物を自慢する相手もおらず、一人黙々と銃を磨いていたであろう老いた猟師が、どういうわけか厨二トークに花を咲かせる若者に紛れてしまった。

誰だって自慢話はしたい。誉れ高くありたい。

今でも稀にTwitterでこのタイプの生き残りみたいな人種を目にする事もあるが、残念ながら現代ではすぐに晒されて、袋叩きか総スカンに遭ってしまうだろう。

あの場ではほとんど荒しと同等にあしらわれ、嫌われていたコテハン。あの場では彼は「悪」とされていた。しかし実際には話し相手が欲しかっただけで、その場を選び違えてしまっただけで、決して悪い人間ではなかった。と今になって思う。

そんな人間をネットでも孤独に追い込める事が、新たな憎悪や悪意を産んでしまったかもしれないという後味の悪さが、今でも自分の中に残っている。

そして、いつしか自分自身がそのような存在に成り果てることのないように……

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