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金沢ピープルファイル003:原田英二⑤

どんな町にもたいていひとつは気のおけない食堂があります。竹内紙器製作所のある幸浦で言えば「メルヘン」がそう。これからするのはそのメルヘンをめぐる、ある家族についての物語。あらかじめおことわりしておきたいのはすべて本当の話だということ。

第5回 店のこと①

 最初の並木の店はお洒落な喫茶店ということで始めたんだけど、その頃はまだ埋立地に町ができたばかりでまわりにはスーパーとウチと蕎麦屋と寿司屋と電気屋しかなかった。でも需要はいろいろあった。近所のスーパーも19時には閉まっちゃうから、翌朝の牛乳がないとかパンがないとか、あれがない、これがないって。だったらウチで売ってあげようって。子どもたちが遊ぶところがないからガチャガチャを置いてあげようとか、本屋がないからジャンプとか置いてあげたり、どんどん増えていって望まれることは全部やった。

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 あるときPTAの人からガチャガチャは子どものためにならないからやめてくれと言われたことがあった。でもね、やめたらあの子たちはどこに行くんだろう? そう思ったから「ウチが置かなくなってもこの子たちはガチャガチャをやめないよ。売っているところを探して遠くにも行くだろうし、そこに悪い連中がいてたかられたりするかもしれない。それでもいいんですか?」と言ったんだ。おじさんが目を光らせてるから安心してくださいって。「じゃあ、お願いします」ということで一件落着したよ。

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店の前にはピンク電話を置いていたんだけど、ときどき高校生の不良連中がしゃがみこんで長電話していたんだ。ある日、とうとう頭にきて「店の入り口で邪魔だ、どけ!」って怒鳴ったの。そうしたら不良のボスがやってきて「うちの下っ端にイチャモンつけやがって!」と言って30人くらいだったかな、店のまわりを囲まれたの。商店街の人たちは怖いから警察呼ぼうって言うんだけどさ、僕が出ていってボッコボコに返り討ちにしちゃったんだ。こっちもワイシャツの襟が取れたり袖も破れたりしていたけど(笑)。逆に連中の方が警察に通報していたよ、「このおじさんにやられた!」って。ちょうど校内暴力が流行っていた頃だったな。でも後にそのボスとは仲良くなったんだ。修学旅行に行ってきたから、とお土産を持ってきてくれたりね。大人が見て見ぬ振りをしていたのも良くなかったんだと思うよ。

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