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トヨタ物語 ウーブン・シティへの道|第1回 すべては東富士工場から始まった

■富士山が見える工場

 2020年12月7日、トヨタ自動車東日本の東富士工場は閉所式を行い、同9日、生産ラインは止まった。工場跡地では2021年2月から、トヨタが作る新しい町「ウーブン・シティ」の建設が始まる。

 わたしは今年7月、閉所を前にした東富士工場を訪れた。

 東海道線の沼津駅から御殿場線に乗り換えて、5つ目が岩波駅だ。駅舎とホームがあるだけで、駅前商店街はない。タクシーが1台だけ客待ちをしていたので、それに乗って東富士工場へ向かった。

 工場は東名高速の裾野インターを降りたところにあるから、車で来てもよかったけれど、町の様子を見てみようと思った。そこで、新幹線の三島駅から沼津、岩波と電車を乗り継いでやってきた。

 結論から言えば、「何もないところだけれど、富士山がいい」。

 晴れた日でも、やや曇りでも富士山がくっきりと見える。富士山はまったくのシンメトリーで、すっきりした形をしている。太平洋側からシンメトリーの富士山が見られるのは裾野市だけの特権だ。もし、これが裾野より西の富士市、静岡市からだと、右側の中腹が少し隆起しているのがわかる。宝永四年(1707年)の大噴火でできた宝永山である。裾野は宝永山の正面にあるので、左右対称そのまま富士山になっている。

 裾野に暮らしていれば毎日、富士の山を眺めることができる。それだけでもう幸せだ。そして、時々は名物のうなぎを食べることができるだろう。桜えびのかき揚げなら週に1回は食べられるかもしれない。さらに、B級グルメの富士宮焼きそばだったら、好きな時にいつでも注文できる。

 まったくいいところだな、ウーブン・シティは富士山が見えるから、ここに作るんだなと考えているうちに、東富士工場に着いた。

 「さあさあ」と声をかけながら出てきたのは、俳優の阿部サダヲに似た工務部長の賢木(和義)さんだ。

 「いいところですね、ここ」と伝えたら、彼は「雪も積もらないし、快適です」と微笑した。

 そして「さあさあ、いろいろ見せたいところがあるんです」と、工場の入り口横の部屋に通された。壁にはトヨタ自動車東日本の歴史パネルがあり、部屋の隅には1台の真っ赤な小型スポーツカーが置かれていた。

 「トヨタ・スポーツ800」だ。かつては「ヨタハチ」と呼ばれ、車好き、レース好きの若者に人気だった。1965年から4年間、販売された車で、開発した主査はカローラを手がけた元飛行機の技術者、長谷川龍雄である。

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