大きな鳥

 工場の裏手にある通風孔に大きな鳥の卵があり、ある日突然孵化した。工場内から出る熱い空気が通っていたため温められたのだと思われる。大きな鳥のヒナは美しい白い羽を持っていた。ヒナは作業員たちに可愛がられて、「サスケ」と名付けられた。性別は分からなかったが、みんなサスケと呼ぶようになった。昼休みに作業員たちは「ほら、食べろ」と自分たちの弁当から米や魚を分け与えた。
 サスケはすくすくと成長し、そろそろ飛び方を教わる時期に来た。しかしみんな鳥ではないので誰も的確に教えることができなかった。ある者はベンチから両腕をパタパタと動かして飛び降りた。ある者は他の鳥を指さして「ああいう感じだよ」と言った。しかしサスケは首をかしげるばかりだった。そもそも何故自分が飛ばなくてはならないのか。飛ぶことができるようになったらここにいられないじゃないか。結局作業員たちの教えられるのは自分たちの仕事だけだった。
 現在サスケは工場で不良品を点検するラインにいる。ベルトコンベアで流れてくる不備がある製品を除外するのが仕事だ。大空を飛び回るはずの羽はそれらを取り除くために使われている。パッと羽を払う時に鳥の体臭がするので、おなじラインの人たちからはあまり好かれていない。休憩室で寝泊まりをし、給料は大好きな鮭の切り身に使っている。工場長からは「嫁さんの一人でもできれば違うんだろうけどなぁ」と皮肉交じりに言われるのだが、実はサスケは雌だった。だが自分でもそれに気づかないままでいた。
休憩中、空を飛んでいる鳥を眺めてサスケは思った。「仕事にも就かないでいい身分だな」白い羽は油に塗れ、すっかり薄汚れていた。

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