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ラーメン 奏

年齢的にもそろそろ本気で腹の上のポニョを何とかしないとなぁ…休日の暇に任せて運動がてら自転車で家を出て、もうかれこれ30分以上これといった宛もなく走っている。

10:30。「今から自転車でむかえば11時迄には着くなぁ…もしかしたらポールポジションをとれるかもしれない。」
「取り立てて腹が減ってる訳でもないが、とりあえず行ってみるか」
本当にポニョを何とかしようと思ってるのか?俺は…思わず口をついてでた言葉に苦笑いをしながら進行方向を変えて勢いよくペダルを踏みこむ。

10:50。店に着いてみると、シャッターが半分だけ上がっている。開店準備をしているのだろう、のぞこうと思えばのぞけるだろうがそんな無粋な事はしない。
流石にポールポジションはとれなかったが、2番のりだった。

11:00。シャッターが上がり中から店主が顔をのぞかせ、並んでいる二人を一瞥すると入口の引き戸の上に暖簾をかけた。
タイミングを見計らったように3人目の客が現れ俺の後ろに並び、券売機の前で3人が一列になった。何を頼むかは決めている。限定の醤油。
いつの間にかメニューに現れ、いくつかのレポを見て次回は必ずと決めていたのだ。
前の客が食券を買ってる間、俺は大盛にするかどうかで迷っていた。しかし、その客が大盛のボタンを押した瞬間「俺も!!」と踏ん切りがついた。しかもチャーシューまで追加してしまった。
完全にポニョの事など頭から消えていた。

11:08。目の前にラーメンが運ばれて来た。
まずはレンゲでスープを一口。もう一口。
なんと言う出汁の味。これは鰹か?煮干しか?一言で言い表せる様なそんなに単純で簡単な代物でない。
魚系の物でよくあるえぐみも臭みも全くない、なんとも上品な出汁の旨味。
煮干しだとしたらはらわたや頭を丁寧に取り除いて、しっかりと下処理をしたであろう細やかな仕事ぶりががうかがえる。
麺は鶏そばの麺よりは細いが、細麺と言っていいのか迷う太さ。食べ応えとのど越し、両方を兼ね備えたバランスのいい麺でスープとの絡みもいい。
この店のチャーシューは今のところ俺の中ではベスト。ここ半年以上は1位をキープしている。
今回わかった事がある。それは、穂先メンマより普通のメンマが好きだという事。少し歯ごたえのある、あの食感が俺は好きなのだとわかった。

11:27。丼を空にした俺は店主にご馳走さまと声をかけて店を出た。
スープを飲み干すつもりはなかったが、出汁の旨さを確認しながら、レンゲで一杯、また一杯と口に運んでいるうちに、いつの間にか丼が空になっていたのだ。
本当に旨い一杯だった。店主の技術の高さがわかる一杯だった。

さてと、自転車を前にして現実に引き戻される。
やってしまった…こんな調子じゃ腹の上のポニョどころじゃないな…あっさりした醤油ラーメンだったからまだマシだよな…と誰に言うでもない言い訳をして、俺は過剰摂取したカロリーを少しでも多く消費出来るよう力を込めてペダルを踏んだ

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