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私は君の名前を探しに行く

舞い込んできた遠方の仕事。
ここまで遠い仕事は久しぶりだったし公共交通機関で行けそうなので担当さんに「機材もそこまで規模が大きく無いから新幹線で行っていいのなら」と受ける事にした。
宇都宮、一般的には餃子の街。
私は遠出が好きだ。精神的に危うくなるとすぐに車を飛ばして一人でどこかに行ってしまう。なんとなくそれが自分のメンタルのコントロールのやり方なんだと思っている。宇都宮はまぁまぁ近い北関東なので許容範囲だ。餃子を食べに行ったりMVや映画でお馴染みの大谷資料館に行ったり、見知った街だ。
朝からの仕事だから終わらせたら少し街を見て帰ろう。繁忙期で頭がグラグラしたままの自分に楽しむ時間を作ろうと私は考えた。
石造りの教会、後はこの間美味しかったカフェ、後は宇都宮ヘヴンズロック、あそこに寄ろう。
宇都宮ヘヴンズロックはかつて私がバンドを撮っていた時について行っていたフジサンズというバンドと共に行ったライブハウスである。居酒屋の入り口みたいな妙な階段を降りて行く、東武宇都宮駅からすぐ。それぐらいの記憶しかなかった。ヘヴンズロック系列は大きめの箱(※ライブハウスの意味)なので地図にも載っていた。よし、中には入れないだろうから入り口を拝むぐらいしたら帰るかな、私はそう思いながら予定を組んだ。

久しぶりのたった一人の新幹線、やっと新幹線もチケットレスができると聞いてみどりの窓口に寄る手間が省けるとテンション上がって試したら使いにくいのなんの…20分前についてよかった。慣れた手つきで駅員さんがサポートしてくれて無事改札を通れた。

意外と駅弁って朝用な雰囲気のもの少ないよね。でも新幹線の車内でのごはんは好きなんだ。

北とはいえ関東なので東京駅からあっという間である。お弁当食べてコーヒー飲んだら宇都宮。東北新幹線は近くても郡山までしか行かないので妙な違和感がある。

宇都宮に到着すると思った以上に寒い。
うわー服失敗したかな…でも撮影では尋常じゃない汗をかくタイプなのできっと撮影終わったらどうせ暑くなるから大丈夫よね。私は自分に言い聞かせた。

通りかかったフタバアイスクリームの工場?フォントマニアの私にはかわいく見える。

仕事は見知ったクライアントさんなのでいつも通り和やかに進んだ。

仕事は終わり私は先に現場を後に。現場の方にタクシーを呼んでもらい餃子通りまで出る。タクシーの運転手は私が東京から来た事を知ると今年は餃子一位を宮崎に取られた事が許せない事と、魅力最下位は悲しい事、オススメの餃子店を愛おしい栃木訛りで私に語りまくった。
(やっぱり宇都宮っ子は餃子ランキング一位を取られる事が何よりも悲しいんだ)
私はそう思いながらタクシーを降りた。
やはり名店はどこも列。GO TO トラベルの影響なのかもしれない。私はぼんやりと立ちすくんだ。
ああ、餃子屋さんが混んでいたらここではない場所でランチをしようとしていたんだった。私は慣れた道を歩き出した。
ファミレスを抜けた先にあるガーデンの様なカフェ、ここで去年旅行した時モーニングを食べて美味しかったのでもう一度行きたかったのである。
人気のカフェなのか席はすでに埋まっている。テラス席なら空いていると言われ通された。少し今日は寒いから店内が空いたらお呼びします。と店員さんが言ってくれた。

ホットコーヒーはおかわり自由って嬉しい。

厚くてざっくり、ふわふわで食べ応えのあるキッシュ。キッシュを食べていると店員さんが店内の席が空いたと呼んでくれた。店内は暖かい。この日は曇り、仕事終えると身体がガンガンに熱くなる私も流石にちょっと寒かった。
仕事が少ししたくてMacを開く、ちょっとかかりそうだなと前回は頼まなかったデザートを頼んでみた

抹茶のガトーショコラ。こう見えて意外と固めでどっしり。美味しい。
食べながら今日の仕事を片付け宇都宮の街へくりだす。20kg背負っていても今日は一人。多少の無茶はできるかなと足は東武宇都宮駅の方面へ。

途中で寄った松が峰教会。コロナウイルスの影響で中に入ることはできなかった。

石造りの教会は非常に欧州っぽさがあって良い。隣は幼稚園で子供の元気な声が聞こえてくる。
マリア像が銀杏の木から見えるのがなんとも美しい。もう少し季節がよかったら紅葉だったかなぁ

どこから見ても立派としか声が出ないぐらい立派。前回のnoteにも書いた我が地元下北沢の教会のイメージしかないものだから(向こうも立派だけど)ゆっくり眺めてしまった。
さ、宇都宮ヘヴンズロックまであと少し、15年前の記憶を頼りに進んでいく…しかし相変わらず機材は重たいなぁ、どうにかならないものかなと思いつつ貧乏性や心配もあって機材をコインロッカーに預けれない私はそのまま機材を持って向かう。

記憶のある看板発見!こんなところだったかな?やはりあんまりよく覚えていない。でも緑の看板のヘヴンズロックは記憶の通りなのでここで間違いないはずだ。

ああー!懐かしい!!これこれこの感じ!15年前の景色と一緒!ここで何したとかそういうわけじゃないけれどこの景色が懐かしい。たしかに15年前の私はこの階段を降りて行った。
懐かしげに見ている私は荷物のやたら多い一人の中年、不審者極まりないからさっさと要件済ませたら離れよう、とダメ元でフジサンズのステッカーを探しはじめた。実は今年頭に入った熊谷の仕事の帰りにも同系列の熊谷ヘヴンズロックで探したはいいが残念ながらステッカーを見つけることができなかった。今度こそあったらけいすけさんにいい報告できるのになぁ…

「嘘でしょ…」
声が出てしまった。フジサンズのステッカー、まだ残っていたのだ。入り口のちょうど上のあたり、びっくりして写真を撮る手が震えた。
15年も耐えて貼った人間を待つかのようだった。ごめんね、「フジサンズのカメラマン」ですが貴方の勇姿はけいすけさんに届けるからね、なんて思いながらシャッターを切った。
もう不審者だけどどうでもいい。ここで15年前世話になったバンドのカメラマンしてました、なんて若いスタッフに言っても「はぁ…」ってかえされてしまいそうだけどもう少しだけここにいたいな。そう思い笑いながら目線を下に落とした。

はは…当時から見慣れたバンドのステッカーがいっぱいあるや。私も年取ったよなぁ…
「いやいや、まじかよ」
また声をあげてしまった。人がいないからもういいや笑

もう一個、いや二つ貼られたステッカーありました。笑って撮っていたけれど涙がブワーーって出てきちゃってもうダメ。なんとなくしか記憶のないフジサンズと共に行ったツアーの事を少し思いだした
フジサンズとのツアーは残念ながら漫画や映画や小説のようにキラキラしていて美しいものではない。ただむさ苦しい男達が自分の音楽を届けに行くだけの作業である。
とりわけ外に出かけるのが大好きな私はフジサンズの中で一番落ち着いていなくて「遠征!宇都宮!餃子食べましょうよ!」って騒いでいた気がする。
男たちは音楽の事ばかりしか考えていなくて眠るかリハの録音を聴いてただ楽屋にいるだけだった。
「いいよ!私一人で出かけるわ!」
いつもの事である。大体こんな感じ。それかベースのひとしさんとドラムの覇王君が「ご飯食べにいくからとしこさんも行くでしょ?」と連れて行ってくれ感じ。この日はそんなこともなかった気がする。私は膨れっ面でカメラに安いフィルムを詰め込んで散歩に出た。

その時に撮ったのがこの写真である。
かわいらしいレトロな日本的なカレー屋さん、あまりのかわいらしさに私はこの店に吸い込まれるように入った。餃子は忘れていた。

そのカレー屋さんは全く変わらない風貌で私を待ち構えていた。
後に聞いたらこの店は宇都宮の名店で地元に愛されているそうです。夫婦が切り盛りしているとても美味しいカレー屋さんです。懐かしいな…
実は去年再来して食べに行ったんですがね。美味しかったです。食べちゃったの失敗したなーと思いながらお別れ。

去年食べたカレー

このカレー屋さんを見た時また涙が出てきて、あれ?去年も見たはずなのにおかしいな?ってなりましたよ。一人で見て何か感じたのかな、この街には置いてきた思い出がいまだに残っているのかもしれないなと私の20代の心がざわめいた。
なんとなくフジサンズの影を追ってしまうのはいまだに私の中で彼らが生き続けているからかもしれない。いや私の中では"生かせなくてはいけない"
もう15年だ、過去の話だ。
「フジサンズを知っていますか?」そうライブハウスで言っても通じない。そういうバンドがいたんだよ、私の中に多大な影響を残して夏のように去っていってしまったんだよ。
私は詩人のように語り継がなくてはいけない人間になってしまったのかもしれない。

帰り際フジサンズのけいすけに連絡をしたら「僕らの痕跡が残っているんですね、感動しました」と返信が来た。
私も私でとても嬉しかったですよ。やっぱりフジサンズと共にいた時間は何にも変え難いのだから。
またツアーがあった街に仕事に行ったらステッカー探そうかな。

#宇都宮 #宇都宮ヘヴンズロック #バンド

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