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大幅に強化された中国に逆転勝ち【アイスホッケー男子世界選手権DivIB 対中国戦レポート】

2023IIHF男子世界選手権ディビジョンIB 
会場:トンディラバアイスホール(エストニア・タリン)
リーグ戦第2戦(現地4/23 12:30FaceOff. )

日本 5(1-2、2-0、2-0)2 中国
ショットオンゴール:日本27 中国34

中国のキャプテン、YEがゴール前に。大柄な選手が力で押すプレーに日本は序盤苦しんだ

鋭いシュートと激しい当たり、なにより中国の気迫に苦しんだ。
しかし、日本は得点を先行されても粘り強いディフェンスを見せて食らいつき、第2ピリオド終盤に人里茂樹(ひとさとしげき/GKSカトヴィツェ(ポーランド))の強烈なシュートで逆転。第3ピリオドにはスタミナと運動量で優位に立ち、2点を加えて中国を突き放した。
今大会、昇格組ながらもKHLクンルン・レッドスター所属の選手を数多く擁し日本も警戒していた中国を激戦のすえにくだし、日本はこれで開幕2連勝の勝点6。グル―ププリーグ首位に立つとともにDiv-IB優勝&昇格へ向けて大きな壁をまず1つ越えた。


KHL勢を揃えた中国に逆転勝ち。優勝へ1つ目の山を越えた

この日の先発GKは初戦に引き続き成澤優太(なりさわゆうた/レッドイーグルス北海道)。前日のオランダ戦でも非常に安定したセーブを見せており、この日も日本のゴールを託された。

先発GKは成澤。この日も安定したゴールテンディングを見せた

その第1ピリオド序盤、中国が一気に攻勢に出る。
日本はそのスピードにやや押され気味で、必死に対抗するもプレーが微妙に後手後手にまわることが多くなる。スティックを使って手先で相手を止めるようなプレーも増える状況となるもなんとかしのいでいたが、日本は先にペナルティーを取られてしまう。

その中国最初のパワープレーのチャンスには、キャプテンのJinguang YEやKailiaosi JIEKEといったKHLクンルン・レッドスターに籍を置く中国のエース級がリンクインし、日本ゴールに対して激しいシュートの雨を降らせた。
日本も成澤を中心に必死に耐えしのぐが、相手のシュートとボディチェックの詰めが早くパックをブルーラインの外に出すことが出来ない。なんとかパックを奪ってかき出そうとするもブルーラインのところで中国ディフェンス(DF)のスティックが伸びてきて、そこでパックを止められまた攻撃に繋げられてしまう。そんな苦しい時間帯が延々1分半以上に及び、息が上がって日本の選手の動きが止まってしまうなか、中国は右サイドのJiang FUが強烈なシュートを放ち、これにはGK成澤も反応が遅れ失点。まずは中国がパワープレーでその強さの一端を見せつけた。

パワープレーから中国が先制。中国の1つ目、2つ目のラインは強力だった

しかしここで落胆するような日本ではない。反撃への道を切り開いたのは若武者だった。
激しい運動量を利して榛澤力(はんざわちから/NCAA・Sacred Heart大学)が攻め上がろうとした中国選手からパックを奪い取ると中央へパス、そのパックを受け取った中島照人(なかじまてると/東洋大学)がゴール正面から思い切ってシュート。そのシュートはゴール裏のボードにあたって跳ね返るところ、ゴール右の良い位置に榛澤がしっかり走って詰めており、このパックを押し込んで同点。

榛澤の同点ゴールの瞬間
ゴール裏で跳ね返ったパックをゴールへ押し込んだ

先制されてからわずか1分23秒で日本は同点に追いつく。若手2人のコンビネーションから生まれたこのゴールは日本に反撃への勢いを与えた。

すぐさまの同点弾で日本は勢いを取り戻した

しかしその後も中国は、ファースト&セカンドラインの2つ回しで能力の高い選手を日本にどんどんぶつける作戦をとり、日本をディフェンディングゾーンに押し込める。

個の能力が高い選手が多い中国。序盤その圧力はものすごかった

日本も抵抗し切り返しから反撃を見せるが、相手ゴールに攻め込むシーンのなかで平野裕志朗(ひらのゆうしろう/AHLアボッツフォード・カナックス)がクロスチェッキングの反則をとられ日本のショートハンドに。審判の判定に首をかしげる平野の仕草も見られた微妙な判定だったが、ここでこの試合2回目の中国のパワープレーとなった。
そのパワープレー。日本は2分間をしっかり守り切ったものの平野がリンクに戻り5人対5人の状況になっても試合を止めることができず、そのまま中国が攻撃を継続。最後はSipulaoer RUIANの強烈なシュートのリバウンドに対して息が上がった日本DFより先に中国Jian ANのスティックが届き、勝ち越しのゴールを奪われてしまう。

中国2点目の瞬間

その後も18分ちょうどに、また日本側にペナルティが宣告される非常に重苦しい展開となったが、この2分を無失点で日本が乗り切ったのが1つのターニングポイントになった。
徐々に中国選手のクセやスピードの緩急といった部分を読めるようになってきたのか、ショートハンドの守りが安定。このピリオドを1点差で乗り切ったことが次のピリオドでの反撃に繋がるのでは、との期待も膨らんだ。

日本DF陣に指示を出す山中武司コーチ。徐々にDFも中国の圧に対応できるように
第1ピリオド終了直後、レフェリーに確認をする中島彰吾キャプテン(一番右)

日本が誇る人里&平野のコンビネーションで同点弾

第2ピリオドは日本⇒中国⇒日本⇒中国と交互にパワープレーのチャンスがやってくる、一進一退の展開。
早く同点に追いつきたい日本だったが、耐え忍ぶ時間が続く。ただ、この時間帯あたりから選手層全体の厚さが選手に及ぼす影響が無視できなくなってきた。基本3つのラインで回し4つ目も要所で使う日本に対して、中国はファースト&セカンドラインがほぼ出ずっぱりの2つ回し。ベンチで待機する選手が戦況を見守るなか、徐々に中国のスピードと鋭さが落ちてきた感もあった。

戦況を見守るペリー・パーンHC

そんな流れのなか、日本が世界に誇る海外組、人里茂樹と平野裕志朗のコンビが魅せる。
平野がパックを奪って攻撃の形を作ると、最後は人里がゴール左サイドから強烈なシュートを一閃。ゴール前には平野がスクリーンに立ちGKの目線を遮る完璧なフォローアップで人里のゴールをお膳立て。

人里のシュートがゴールを捉え日本が2-2の同点に追いつく
場内ビジョンに映された人里のゴールの瞬間

ついに炸裂した人里のスーパーシュートで日本が2-2の同点に追いつく。これで日本は完全に勢いに乗った。

喜ぶ人里(中央左)と平野(同右)の2人。日本にはこのコンビがいる

人里のゴールから日本はがぜん動きが良くなり、中国選手を自陣に押し込める。その流れでパワープレーのチャンスを得ると、練習通りに完璧な形で得点を奪いとった。
中島彰吾(なかじましょうご/レッドイーグルス北海道)が攻撃のタクトを振るうかのように流れるようなパスワークを指揮し相手DFを翻弄すると、ゴール左サイドの大澤勇斗(おおさわゆうと/レッドイーグルス北海道)から正面で待っていた中島(照)へバックパス。これをワンタイマーで中島(照)が鮮やかに決めてついに日本が3-2と逆転。第2ピリオド17分30秒という最高の時間帯での得点に、日本ベンチは沸きに湧いた。 

ゴール前で頑張る大澤のバックパスから
中島照人(一番左)がシュート。ゴールは右ポストギリギリへ
このゴールでついに日本が逆転。3-2。
ヤポン(日本)コールで応援してくれていた地元ホッケー少年たちも大喜び

ついに奪った主導権。KHL勢揃いの中国を正面から撃破

その流れを駆って、第3ピリオド序盤に日本は大津晃介(おおつこうすけ/ひがし北海道クレインズ)がゴール前の大澤へ完璧なパス。これを大澤が確実にゴールへ押し込んで4-2。ついに試合の主導権を日本が奪い取る。

大津(背番号11)からのパスを大澤(右から5人目)が押し込み4-2。
喜ぶ大澤(左)と鈴木健斗(右)
この大澤のゴールで日本は流れを完全にものにした

その後はもう日本の圧倒的な流れだった。一瞬ひやりとする場面こそあったものの時間は刻々と刻まれ、試合時間残り2分。6人攻撃に出た中国のパスを中島(照)がカットするやいなや無人のゴールへパックをはじき返してエンプティネットゴール。

中国の6人攻撃に対して徹底して守る日本
激しい圧力にさらされたが失点を許さず
中島照人(一番右)がエンプティネットゴールを決めて決着

これで追いすがる中国にとどめを刺した日本は5-2で白星をもぎ取り、ディビジョンIA昇格へ向けて大きな関門を見事に突破した。

ベテランと若手が噛み合い、躍動。優勝&昇格へ道は開けた

この勝利はとにかく、先制されても粘り強く戦った選手たちの精神力の強さを褒めるべきだろう。
KHLクンルン・レッドスター勢で固めた今大会の中国は、一瞬でも気を抜いたり弱気になったりしたら一気に崩される強さを持った相手だった。それに対して戦い抜いた選手たちの頑張りをたたえたい。

強敵・中国に勝利も笑顔は控えめだった。選手はもう先を見据えている

また初戦のオランダ戦で中島(照)、この中国戦では榛澤が大会委員会が選出するゲームMVPに選ばれたことも非常に喜ばしい要素だ。2人の受賞は若い選手がチームに活力を与えていることの何よりの証拠。今大会の日本代表は、実に良いチームワークに仕上がっているように記者席からは見える。

日本のゲームMVPは榛澤力。2日続けて若手が選ばれた

この後大会は1日の休息日を挟んで、日本時間4/26(水)22時からのセルビア戦に日本代表は臨む。セルビア戦の後は、エストニア、ウクライナと難敵との戦いが続く。ただ、中国という非常に高い個人技を持った相手に対してこれだけの戦いをし、厳しい状況からしっかり逆転して勝った、という事実は選手たちにとって自信になることは間違いない。
その自信はより積極的で攻撃的なプレーへと繋がるだろう。
 
今大会、まずは昇格を果たさないことにはその先に向けての成長もない。
選手たちはこの日も思い切り喜ぶといった姿はなく、次の試合への緊張感を持続している様子だった。
残り3試合、気を抜くことなく日本代表はきっちり勝ち上がってくれる姿を見せてくれるはずだ。期待は大きく膨らむ。



ポタやんです。基本的にはライター&編集者ですが、最近は映像制作も精力的に行っています。現在アイスホッケー&アイスクロス情報サイト「IcePressJapan」を運営中。冬スポーツ色々を盛り上げるべく頑張ります!