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盗撮加害者家族の記 01 逮捕

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結婚して2ヶ月も経っていなかった某月某日。

いつもと変わらない日のはずだった。休みの旦那を置いて、私は仕事に出た。その日はいつもに比べてやけに人が少なくて、1時間ほどの残業をこなしたころにはもうヘトヘトだった。けれど、あとはもう帰るだけ。

旦那は自分が休みで私が仕事の日は、だいたい迎えに来てくれる。車で30分ほどかかるのに、わざわざ来て「お疲れ様」と笑顔で出迎えてくれるのが付き合っている頃からの日常だった。

今日もきっと来ているに違いない。こんなに疲れた日に電車で帰らなくて良いのは本当にありがたい。
もうすっかり迎えに来て貰えるものだと思い込んで外に出て、あれ?と思った。

見慣れた車がない。

『今どのあたりにいる?』

LINEを送る。
既読はつかなかったが、もし運転中なら携帯は触れない。けれど通知が来たことには気づくだろう。そのまま職場の近くで少し待つが、10分経っても返信がなく、既読もつかなかった。

疲れていたのもあり、ほんの少しいらだった。
そもそも旦那が私を迎えに来なければいけないというルールもないのだが、休みなら迎えに来られるかどうかの連絡くらいしてもいいのではないだろうか。
そんな傲慢な考えがちらっと頭によぎる。

電話をしてみるが、それも繋がらない。

もしかして、伝えられていなかっただけで友人と遊ぶ約束でもしていたのだろうか。それとも家で寝ていて連絡に気づいていないのだろうか。
色々と想像したが、何にしても少し腹立たしかった。

仕方がないと割り切ろう。
私は疲れきったカラダを引きずり、いつも通り1時間かけて電車で帰宅した。

電車の中で夕飯の献立を考える。
残業がなければ手の込んだ料理も作れるが、今日は時間もないし体力も残っていない。うどんか何かで我慢してもらおう。

そんなことを考えながら帰宅すると、旦那の靴がなかった。もちろん旦那の姿もない。家で寝ている説は消えた。

携帯を確認するが、まだ既読になっていなかった。

ざわりと、何か嫌な予感がした。

自分で言うのもなんだが、旦那は私のことが大好きな人だ。基本的には私が連絡すればすぐに返信が来るし、仕事中でもなければ直ぐに既読がつく。
こんなにも長い時間、旦那と連絡が取れないのは付き合い始めてからないことだった。

きっと友人と遊んでいるのだ。友達の前であれば、いくら新婚と言えども頻繁に携帯など確認しないだろう。もしくは釣具屋にでも入り浸って時間を忘れているに違いない。

そう言い聞かせて、私は待つ体勢に入った。
今日は本当に疲れたから、帰ってきたらファミレスにでも連れて行ってもらおう。優しい旦那は「ごめん!」と謝って、文句も言わずに連れていってくれるはずだ。

30分がたち、1時間がたった。時刻は既に20時をまわっている。
相変わらず、LINEの画面が既読になることは無い。

『ねえ、本当に今どこにいるの?』

既読になるのが待ちきれず、間をおかず電話をする。繋がらない。

心がようやく不安を自覚しはじめたとき、携帯電話が震えた。
表示された番号は最寄りの警察署。

もしかして事故でもしたのか。

震える指で通話ボタンを押した。

「もしもし、○○署の者ですが。こちらXさんの奥様の携帯電話でお間違いないでしょうか」
「……はい、間違いありません」
「旦那さんですね、今日逮捕されておりまして」

数秒、何を言われたか分からなかった。

「たい、ほ……?そ、れは、なんの罪で……?」
さすがに声が震えた。
「盗撮です」

淡々とした警察官の声が、人生で関わることの無いと思っていた単語を告げた。

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