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3歳児と80代の「ぱっと見」

日曜日、
3歳の娘と区民プールに行った後
お昼を食べに近くの喫茶店に入った。

ランチメニューを注文して待っていると、
隣の席にいたおばあさんから
「かわいいわね」
「80過ぎると(近親者に)小さい子がいなくて」
と声をかけられる。

そのとき娘がかぶっていた
「すみっコぐらし」のタオルキャップが
気になったようで、
「あら、河童かしら?」
とおばあさん。

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それに対して娘、
「ちがうよ、ペンギンだよ」
店員さんも
「そうそう、ペンギンなのよね」

おばあさん
「でも緑色よね?」


「ほんとはおさらがとれたカッパなんだよ」

自分
「だから名前の後に『?(はてな)』が入っていて
『ぺんぎん?』って言うそうです(笑)」

おばあさん、店員さん
「あら(笑)」


……という一幕から遡ること半日前。
「ART&COPY」コース2回目の講義が終わった。

ゲスト講師は副田高行さん。
高校生のときにグラフィックの道を
志した自分にとっては、
当時からずっと神様のような人である。

…と言うと、ちょっと嘘になる。


広告に興味がなかったり、
イラストレーターになりたかった
若かりし頃の自分は、
副田さんがアートディレクションしたお仕事を
湯村輝彦さんによるイラスト+デザインと
勘違いしていたフシがある。

それから少し時間が経って、
広告より先に写真に興味を持ち出した頃には
やはりアートディレクターという仕事を
よくわかっておらず、
副田さんがディレクションしたお仕事を見て
上田義彦さんや泊昭雄さん、藤井保さんの
名前を知ったりしていた。

さすがにその頃には(三十路手前である)
副田さんのお名前は知っていたものの、
広告よりもタイポグラフィに興味があった自分は
「丸明オールドの使い手」
という認識が強かった。

そこからさらに時間が経って
広告・コピーのことを学び始めてみると
「あれもこれも全部、副田さんのお仕事やないか!」
と、その不勉強ぶりを思い知ることになる。

(ある意味裏方冥利に尽きる話かもしれない)

そして、名作コピーを知れば知るほど
副田さんがいかに
「コピーライターに愛されているアートディレクターか」
ということが解ってくる。

(さらに言えば、
「デザイナーとアートディレクターの違い」が
 よくわかっていなかった自分に
 答えを示してくださったのも、
 副田さんということになる)

…そこから副田さんのお仕事を
意識的に見るようになったからか、
その後初めて東京コピーライターズクラブ(TCC)の年鑑に
自分の名前がクレジットされたときのデザインは、
副田さんの影響が如実に出たものとなった。

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(講座の友人、神尾香菜子さんのTCC新人賞受賞作。2011年)


……そこで(やっと)講義の話に戻る。

講義に至るまでの過程で、
自分としては面識はなくとも少しは
副田さんから学んでいたつもりであった。

しかし。

いざ初めて、
そしていざ直接講評して頂くと、
「ぱっと見てわからない」
「企画の説明でしかない」
「広告表現になっていない」
という、痛過ぎる評価。

空振りも空振りである。

何度も打ち合わせを重ねてきた、
コピー生の相方さんにも申し訳ない。
やり方次第ではもっと
「読んでもらう」ことはできたはず。


評価のショックが大きすぎて
その後数十分の間フリーズしてしまったが、
帰りの電車で(少し)落ち着きを取り戻して
講義のノートを振り返ってみると、
副田さんが3時間半に渡って
熱く話してくださったお話から
「あの言葉の裏側はこういうことじゃないか」
ということが幾つも浮かび上がってきた。

そして、副田さんから
講評中に幾度となく繰り返された
「ぱっと見」という言葉が
心に、というか身体に残った。


……そこで話は最初の喫茶店に戻るのだが、
うちの娘とおばあさんの
「ぺんぎん?」を巡るやりとりを見て
ふと「そういうことか!」と気づいた。

コース生にはお笑い好きの人も多いので
傑作コントの言葉を借りるのであれば、
「ユリイカ!」である。
(↓下部の字幕が切れる場合、「共有」ボタンから
 リンク元で見てみてください)

3歳児にも80代のおばあさんにも
ぱっと見で「河童」と思わせ、
ぱっと見で「お皿がない違和感」を意識させ、
ぱっと見の「?」の1文字で、その違和感にオチをつける。

そのデザインの妙、
ネーミング(コピーライティング)の妙に
「目指すべきはここか!」
と思ってしまった。
もちろん「キャラで一発当てたい」
ということではなく……。


最後に余談も余談だが、
妻は副田高行さんと同じく都立工芸高校の出身で、
我が家にもよく遊びに来る同級生の子が
美大に入って同じクラスになったのが
「すみっコぐらし」の作者さんだそう。

大学の時点ですでに
ご本人の方向性は確立されていたそうで、
人生迷子の自分からすればとても羨ましい話。
副田さんの言葉を借りるなら、
「椅子取りゲームに加わる」ことなく
「自分の椅子」を見つけなければ…! と
強く思った、ということで締めさせて頂きます。

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