吉野家24時間やっててよかった

「君どこ住み?『テカライン』やってる?」

ナンパ……だろうか。
男2人組に声を掛けられた。

仕事からの帰り道、JRのとある駅前でのことだった。

「キレイですね、もし暇だったらカラオケでも行こーよ」

さっき声をかけてきた方でなくもう1人が言った。
彼らの容姿をじっと見る。

どちらも身長180cmないくらい、フォーマルなジャケットを着ている。茶色の服の方は左耳に大きなリングのピアスをしていた。(以下、彼を『ピアス』と呼ぶ)グレーの服の方は目が細く狐の様な印象を醸し出していた。(以下、彼を『キツネ』と呼ぶ)

やや強めな香水が鼻をつき、仕事の疲労と相まって私は顔を顰めた。
ナンパされるのは初めてだ。かといっていい気分でもない。

私の表情に気づいたキツネは口を開く。

「どの辺住んでるんですか〜?」
「ワリオランド」

適当にあしらって帰ろう。

「ワリオランドってww面白いっすねww」

キツネが細い目をより細めた。

「ここで会えたのも何かの縁ですし『テカライン』でも交換しましょ〜よ」

てからいん?てからいんって「てか」+「LINE」じゃなくて「テカライン」なるものが存在しているってこと?

「あっいやそれやってなくて…」

「嘘だ〜ぜったいやってるっしょ!今このご時世で『テカライン』やってない人いないて〜!」

「いや、まじでやってないです」
LINEならわかるが。そういうボケ?あっそうだった、LINEあるんじゃーん、交換しよ、こういう流れか。きっとそうだ。しょーもな。

「いやそれはおかしいって!便利だからこの際入れな〜?」

ダレノガレ明美の「タメ口やめなー?」的な口調で言うな。

「急いでるんで帰ります…」
別に帰ってもAVくらいしか家を待っていないが、さっさと帰りたくなった。

その時。

「ほら、コレ」

ピアスがスマホの画面を見せる。

真っ黒な画面に白字の創英角ポップ体ででかでかと「手空淫」と書いてあった。

なにこれ。と思わず声が出た。

「SNSを通じて手淫しあうアプリですよ、これで手を登録して…他人の手で快楽を得るんです。見せましょうか?」

ピアスがコンマ2秒でチ○コを出した。
私はあっけにとられていた。
ここ、駅前だよな?

「えーとじゃあユキちゃんの手にしようかな、ここで、この『通話』を押して…」

キツネの顔を見やると眉ひとつ動いていなかった。怖い。逃げ出したい

「ほら。ここを押すと手が出てきます」

ニュッ

スマホの画面から手が出てきてチ○チンを優しく撫でた。

「うわああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」

「逃げんな!!!!!!」

キツネが私の手首を勢いよく掴み、羽交い締めにした。

「誰か助けて!!!!!!!!!」

しかし、助けはこない。この駅は治安が悪い。
あと、たぶん時間が遅いからか人通りも少なかった。

「あーもう今月通信制限だったわ」

ピアスがスマホを見ながらなんかぼそぼそ言っている。
手元では女の手のようなものが動きを止め、透け始めていた。

「じゃあ君の手でいいや」

ピアスの首が勢いよく私を向き、こちらに向かってきた。

「嫌、嫌!!!許して!!!!!!助けて!!!!!!誰か!!!!!!」

そこに光明が差した。

「コラ!!!そこの男達!!!なにしてる!!!!!!」

声の方に顔を向けると、正義感の強そうなサラリーマンが走ってきた。

「おい、そいつ嫌がってるだろ!!!」

「やべ、逃げろ!!!」
2人組は蜘蛛の子を散らしたように去っていった。

……

あ、お礼しなきゃ……

「ありがとうございました、本当に、……」

「いや、大したことしていないですよ。見たところ怪我とかしてなくて良かったです。いやー、しかしまだあるものなんですね、オヤジ狩りって」

助けてくれた男は、2人組が逃げた方向を見つめながら言った。

私はほぼ禿げあがった頭を掻き、彼に
「助けてくれたお礼に牛丼でも奢りますよ、この辺に『吉野家』っていう美味い店があって…」と促した。

二人は夜の街に溶けていった






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