見出し画像

次世代Wi-Fi活用による木材流通DX 久万高原町での実装検証報告【株式会社ジツタ】

林業界は情報共有がしづらい環境にあり、サプライチェーンの確立が阻まれている。背景には、生産から供給までの過程に多くの事業者が介在する業種特性、そして山間部における通信網未整備の問題がある。この現状に対し、株式会社ジツタは久万広域森林組合ならびに久万高原町林業戦略課とタッグを組み、原木流通の革新と木材増産につなげるソリューションを打ち出した。

 ▼株式会社ジツタの事業内容はこちらをチェック▼

久万広域森林組合での実装状況

実装するのは、次世代Wi-Fi通信を利用した情報共有の仕組みと、在庫や作業進捗の管理システム。WEBカメラで各拠点の状況をリアルタイムに把握できるようにし、さらにAI画像認識や位置情報データを組み合わせたシステム構築で業務の効率化を図った。
 
実装フィールドは久万広域森林組合の以下4拠点。
(1) 久万市場(原木市場)
(2) 父野川事業所(製材工場)
(3) 施業地及び山土場(間伐・皆伐の施業現場)
(4) 久万広域森林組合 事務所(各所・各業務の総括)

各拠点の導入設備とシステム

ベースとなる環境として、各拠点のWi-Fi通信環境を整備しネットワーク連携。光通信ケーブル未整備の山間部にも中継器(移動式アンテナ)を設置し通信を確保した。
4拠点それぞれの導入設備は以下の通り。

(1) 久万市場
場内にWi-Fi環境を整備し、WEBカメラ8台を設置。カメラ映像を組合事務所へ送信。

(2) 父野川事業所
場内にWi-Fi環境を整備し、WEBカメラ5台を設置。カメラ映像を組合事務所へ送信。

(3) 施業地及び山土場
・施業地にWi-Fi環境を整備し、WEBカメラ1台を設置。カメラ映像(山土場に置いた丸太の映像)を組合事務所へ送信。
・林業機械にGNSSを設置。機械の位置情報を30分毎に組合事務所へ送信。

山土場に設置したWEBカメラ(写真左支柱上部)と三脚に据えたWi-Fi基地局
山土場に置いた丸太(木口)をWEBカメラで捉える

(4) 久万広域森林組合 事務所

①WEBカメラシステム
映像確認により、各所の現場状況を把握。

②木材検収システム(AI丸太画像認識アプリ)
山土場(前述(3))の丸太の映像から、AIによる画像認識で木材の量(本数)・径級(サイズ)を解析する。本数は99%の精度で認識可能。在庫管理へのデータ連携が可能。

③在庫及び施業管理システム
在庫管理と位置情報・進捗情報管理をリンク。進捗状況は、林業機械に設置したGNSS位置情報の遷移(移動距離)により、大まかな把握が可能。

ポイント表示の遷移が林業機械の移動軌跡

④事業進捗システム
③と連携し事業体ごとの進捗状況を整理。従来ボードに手書きしていた運用をシステム化。

実装検証の成果分析

実装検証の結果、作業の効率化や精度向上など複数の有効性が明らかになった。
作業時間を削減できれば、別業務に要員・時間を充てられるようになる。
進捗状況や原木数量等をデータ化し、精緻化された情報を各者間で共有できれば、より詳細な見通しや計画が立てられ、適切な検討実施が見込める。
 
システム機能ごとの主な成果は以下の通り。

①WEBカメラシステム

・各土場や施業地の状況を、現地へ赴くことなく組合事務所でリアルタイムに把握できる。移動時間・確認時間が大幅に削減。
(各土場の約50%、市場・事業所(製材)の約80%の確認時間が削減でき、月間計約24時間減。)
・市場や製材所で、各土場の丸太配置状況を共有できる。原木滞留日数の確認も可能。
・原木盗難の防犯や、施業現場での事故発見にも、効果が期待できる。

②木材検収システム(AI丸太画像認識アプリ)

・1日の造材量が具体的に把握できる。(従来はトラック台数による見立て算出)
・トラック1台あたり約20分を要していた山土場での検収を、5分に短縮。

③在庫及び施業管理システム

・進捗状況を常時確認できる。(従来は月1回)
・材積を±5%程度の精度で実数確認できる。(従来は現場での見立て算出)

④事業進捗システム

・位置情報によるシステムで進捗状況を把握できる。(従来は聞き取りで管理)
・請負業者が進捗報告資料を作成し提出する運用を不要にし、負担軽減を見込める。

問題点・課題

また、解決すべき課題も抽出した。
・Wi-Fiは基地局からの距離に応じて中継器を複数台設置する必要があり、コストも手間もかかる。
・WEBカメラ設置の初期導入費用が高額。
・山間部の機器はバッテリー(ポータブル電源)駆動のため、毎日の充電・交換作業が高負荷。
・施業地の移動に伴い、各機器も移動が必要。現在の支柱埋め込み(カメラ)の移動は容易ではない。

ポータブル電源の充電・交換作業が発生

結果を踏まえた今後の方針

これらを踏まえ、県内及び全国展開に向けて必要なのは「イニシャルコスト・ランニングコストを抑えたシステムパッケージの検討」である。
森林内通信網の再検討(次世代Wi-Fiにかわる手段)、ならびに機器設置方法の再検討(容易に設置・移動・回収ができ、かつ安全・安定を確保)を進めて行く。

共有会の開催〜関係者の高い関心

実装検証を経て開催した共有会には、県内各地の森林組合・林業事業関係者らが多数集まった。事業内容・システム機能の説明、事業所・山土場の設置機器の現地見学、最後に意見交換会を実施。本プロジェクトに寄せる参加者の関心は高く、活発な意見が交わされた。

山土場のWEBカメラ・Wi-Fi基地局の設置現場を見学

各事業体もそれぞれにシステム導入や映像利用等の策を講じトライしている。それらの事例紹介も交えながら、WEBカメラやデータの活用案、通信手段の検討など、あらゆる角度から質問や意見、アイデアが出された。
 
「コミュニケーション」や「緻密すぎないシステム」を望む声もあった。久万広域森林組合でも従来通りの対話や人の判断・手作業も重視しつつ、効果的なシステム導入を志している。デジタルとアナログのバランスも大切なようだ。また情報連携をさらに充実させ、管理者側のメリットだけでなく、どの立場の人にもメリットが見出せるシステムへと成長させることも望まれる。
地域や組織が違えば、体制や方針も少しずつ違ってくることがある。各地への展開には汎用性の実現も必要だ。共有会での多くの意見は今後への大きな糧となった。

今年度の実装検証を経て

■久万広域森林組合 奥村さん

人手が不足している林業では、従来通りの生産は確保しつつも作業を省力化する必要があります。ジツタさんとは以前から一緒にいろいろな取り組みをしており、今回はカメラを使って、現場に張り付くことなく進捗等を管理できるようにしました。現場へ行く手間をかなり省けますが、直接顔を合わせてのコミュニケーションは大切なので、足を運び会話をすることも続けます。大切なことは守りつつ、ムダを省きたいです。次のステップではシェアを拡大し、可能な部分はデジタル化・自動化を進めて、危険の回避など多様に役立てられればと思います。

■株式会社ジツタ 宮内さん

アナログな林業現場をデジタルで革新しようと考えたのが、今回のプロジェクトです。山間部は通信環境整備も平地よりずっと難しく、機械の自動化などもまだまだ先の話かもしれません。けれども課題を洗い出して、できることから一つずつ、システム化や省力化を進めたいと思っています。次のステップではさらにフィールドを広げ、今回の実装以外のところへも、可能な限りデータ連携をしていきたいです。本プロジェクトによって直接木材生産量がアップするのではなく、効率化や情報共有を実現した先に、生産性向上があると考えています。その「きっかけ」になるように願っています。

次のステップに向けて

今回の実装検証では、技術面・機能面における有効性を見込むことができた。一方で、運用面においては導入・運用コスト等の課題も見えた。今後は全国展開を見据えた課題解決とシステム改修を進めて行く。
問題点を明らかにし解決していくソリューションの本質を体現し、着実に歩を進めるこのプロジェクト。林業界に革新をもたらす過程を今後も見守りたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?