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導入1カ月で早くも効果を実感! 保育施設のICT化を支援【保育ICT推進協会|実装報告】

現在、全国的に注目されている保育のICT化。国や自治体は保育施設を対象に勉強会などを開いたり、補助金を整備したりしてICT化を強力に進めている。令和6年度からはキャッシュレス決済を導入する場合の費用についても補助対象に追加されることになった。
保育現場へのシステム導入の様々な支援を行なっている「保育ICT推進協会」は、本年度のプロジェクトにおいてシステムの新規導入、そしてシステム導入済の施設へのIoT機器導入の支援を行った。


これからの保育にICTシステムは不可欠

厚生労働省の調査によると、女性の就業率が上がることで保育の需要も上がりつつあるものの、令和7年にピークを迎えて以降は、人口減少のため徐々に需要が減少すると推測されている。

厚生労働省「人口減少地域等における保育に関するニーズや事業継続に向けた取組事例に関する調査」より

一方で、「こども誰でも通園制度」や医療的ケア児(※)などの受け入れ、こども食堂の併設など、地域の保育施設を多機能化する実践・検討が進められている。
保育施設、特に都市部よりも地方にあるものとしては、在籍する園児以外にこういった試みをどんどん受け入れていかなければ運営が難しくなってくることが予測される。
しかし、人口減少とともに保育士の数も少なくなっている。増える業務を少ない人数でミスなくこなすためには、ICTシステムの利用によって手間や時間の負担を減らすことが不可欠だ。

(※:医療的ケア児=NICU等に長期入院した後、引き続き人工呼吸器や胃ろう等を使用し、たんの吸引や経管栄養などの医療的ケアが日常的に必要な児童のこと)

保育現場のDX化はますます進む

令和5年12月20日、こども家庭庁において子育て・児童福祉分野のDX化実現に向けた工程表が出された。

これによると、令和7年度中には「保育現場DXによる給付・監査等の運用開始」の実現が予想される。つまり、保育施設の日常業務がICT化で管理されている前提で、行政のシステムが構築されていくのだ。従来は給付を申請したり監査を受けたりするために、日々の記録を紙の様式に書き写したり印刷したりしていたが、今後は保育施設が入力したデータを自治体が確認し、給付・監査がスムーズに行われるようになると思われる。
そのほか、母子手帳がアプリ化されたり、保育園で蓄積されたデータが入園希望者の保活(子どもを保育園へ入所させるために保護者が行う活動)に利用されたり、児童福祉にDXが活用されたりと、保育施設がICT化されていないとそもそもの運営が難しくなっていくことも考えられる。
実際、「こども誰でも通園制度」は、基本的に新たに構築されるICTシステムをベースとして運用される。保護者は、アレルギーなどの健康状態やかかりつけ医、託児経験など子どもの情報をスマートフォンから入力し、あらかじめ施設側が提示している基本情報や空き状況などを見て施設を選び、予約・利用する。施設は利用状況をシステムに入力して請求書を発行し、自治体がそれを確認して支払いを行う。
ICT化された保育施設を増やそうとするフェーズ1はまだまだ進行中だが、ICT化を前提とした保育現場でのDXの推進というフェーズ2に、社会は既に移行しつつあるのだ。

愛媛県宇和島市・尾串保育園での新規導入事例

今年度のプロジェクトにおいて、保育ICT推進協会は愛媛県宇和島市にある尾串保育園にICTシステムを新規導入する支援を行った。
きっかけは、宇和島市で開かれた園長会でのICT化についての勉強会。導入を希望した尾串保育園に、抱えている課題や目指す保育についてヒアリングし、導入4カ月前に利用システムを選定。園内には共用のパソコンが数台あるだけだったが、保育士のリテラシーに合わせてどれくらいの数・スペックの機材がいるのかを提案。購入からセットアップまでフォローした。また、導入3カ月前には、各教室にもWi-Fiが届くよう、ルーターを新しくして中継機を置くなどネットワーク環境を構築した。
導入1カ月前には、システム会社が使い方の研修会を開催。併せて、機器の使い方からトラブルシューティング、業務改善に至るまで、システムと現場の両方をよく知る保育ICT化推進協会も研修会を開いた。現場の職員にはICTに苦手意識を持ち、システム活用に消極的な人もいたため、システムの必要性などもレクチャー。園児情報などの細かい設定作業は協会が行った。

▼導入時に協会が行った職員向け勉強会の様子と園長インタビューはこちら

導入1カ月目には、二次元コードを用いた保護者による登降園の打刻と職員の勤怠管理を実施。導入2カ月目にはアンケート・一斉配信も開始した。また、打刻パソコンの置き場所やWi-Fiの電波状況など、実際にやってみて不便さを感じたところに随時修正を加えた。
導入決定から運用開始まで比較的スムーズに進められたのは、事前に保護者へしっかりとシステム導入の説明を行っていたことが大きかったようだ。1年前からICT化を検討していることを保護者会や役員会で何度もお知らせしており、保護者側にもイメージや心構えができていたため、導入後も保護者が協力的に参加してくれたという。

宇和島市・尾串保育園 河野謙三園長へインタビュー

導入にあたり、職員や保護者の方の反応は?

ICT化を職員に通知した際、期待と不安が半々だったようです。業務改善で楽になるならやってみたい、でも自分たちにできるのかな…という。また、どのような機材を揃えたらいいのか、打刻のための機器は何台をどこに置けばいいのかなど、やってみないとわからない部分で戸惑いがありました。でも、導入後1カ月で慣れてきて、特に大きな問題はないですね。


導入して変化したことは?

まだ導入して1カ月ほどですが、朝の出欠管理は楽になりましたね。朝9時まではアプリで欠席連絡をし、それ以降は電話で連絡してもらうようにしていますが、電話の件数は激減しました。また、各教室に出向いたり職員に聞いたりすることなく、自分のパソコンから登降園の状況が確認できるのは便利ですね。
今はスマートフォンに慣れている保護者が多いせいか、アンケートの返信も早くなりましたし、集計も楽になりました。以前は紙でもらった回答を職員がパソコンで打ち直していましたが、その手間がなくなりました。


保護者の方にトラブルは?

アプリの使用について困るといった反応は、特になかったです。登園の際、園児の祖父母がいらっしゃった時に打刻のやり方を聞かれたことはありました。
アプリ登録の際も、在籍園児120名の中で5~6件は問い合わせがありましたが、大きなトラブルはなかったですね。
園だよりをアプリで一斉配信しましたが、紙で欲しいとの申し出は3~4件程度。アプリでの欠席連絡がないこともわずかながらありますが、それは以前電話連絡をしていた時もそうだったので、アプリになったから困っているわけではありません。
今の保護者は上の子の学校や習い事などいろいろな場面でアプリやインターネットを活用しており、操作に慣れている人が多いのでそんなに心配ないと思います。

導入してみて、今後システムを活用していきたい業務は?

導入前も考えていましたが、手間がかかっていた写真販売をできたらいいなと考えています。
また、指導計画や記録、児童票の作成にも活用したいです。その様式を、今までのものを踏襲するかシステムの様式を使うようにするのかは、これから検討していきます。

尾串保育園の現場職員アンケート

導入後1カ月のタイミングで、現場で働く保育士等の職員に、システムを使ってみてのアンケートを行った。

出欠確認・共有業務が軽減したと感じている職員は、「とても軽減した」「軽減した」を合わせて100%。導入1カ月という比較的早い段階で効果を感じることができている。


導入前、「園児の出欠確認のために担当クラスを離れることがある」(よくある・時々ある)と答えた職員は64%だったが、導入後は41.7%に減った。「よくある」だけに限れば7.1%が0%に。システムを確認すれば済むことも多いので、担当クラスを離れることがほとんどなくなったという。

保護者への連絡業務に関して、「とても軽減した」「軽減した」と感じている職員が83%。軽減したと感じる業務で最も多かった回答は「配布に関する業務」だった。

「ICTを活用したいか?」という問いに対して、導入前は3割程度が活用に消極的だったが、導入後は8%ほどまで減った。使ってみると思ったより難しくなかった、負担が減ったなどと効果を感じたため、「活用してみよう」と思うようになったと考えられる。

業務の負担感も、導入前は35.7%の職員が「とても」負担を感じていた。しかし、導入後1カ月で、その割合は8.3%にまで減少。システムありきの業務に慣れ、より多くの業務がシステム化されれば、負担を感じることはより少なくなってくるだろう。
ICTシステム導入のメリットとしては、まずは情報の共有が容易だということ。連絡帳や指導計画、日誌など、担任の先生が紙ベースで作って事務や責任者に確認してもらうというやりとりの中では、自分が担当していない他のクラスのものを見るというのが難しい。しかし、ICTシステムでは誰もが比較的容易に全体のことを把握できる。
また、朝の時間帯に欠席連絡の電話を受けるという業務がほぼなくなったことで、子どもたちの受け入れを丁寧にできるようになるのもメリットだ。保護者がアプリで連絡を入れると、通知がなってシステムにそのまま入力される。職員が伝達をする必要がなくなるので、手間もミスも減る。受け入れに集中できるので、しっかりと目の前の子どもたちに向き合うことができる。また、システムだと過去にどういう欠席状況だったかというのも振り返りが容易だ。

IoT機器の導入でより大きな安心を

そのほか、既にICTシステムを導入している2施設に、午睡時の子どもの様子をモニタリングするためのセンサーマットや、測った体温が自動でシステムに記録される体温計を導入する支援も行った。


特にマットに関しては非常に好評で、2園ともに継続して利用したいとの回答があった。布団の下に敷いたマット型のセンサーは、睡眠中の呼吸に伴う体の動きをリアルタイムでモニタリング。体動や呼吸が細かく数値化・視覚化されることが安心感に繋がったという。


昨今、保育現場での悲しいニュースが報道されることがある。保育士の負担を軽減することで今後悲しい事件が発生しないようにと、国は各都道府県の保育園やこども園を主管する部署へ向けて対策を取るよう通達を出した。より確実に・より安全に・あたたかく子どもたちの成長を見守るために、従来からの保育業務のやり方を見直すべき時に来ている。
今回、ICTシステムを新しく導入した園と、既にICTシステムを導入している園で、一歩先のIoT機器を導入するという、2つの事例を作り、効率化に資するデータの検証や、導入したあとの現場のオペレーションの変化などのナレッジを蓄積することができた。

ICTを活用して業務負担の軽減を実現できれば、保育士の心身の余裕に繋がり、子どもたちの健やかな成長に寄与するに違いない。保育ICT推進協会が2022年度に全国調査をしたところ、公立保育現場のICT化率は全国平均で36%。愛媛県は62%と全国よりは高かったが、今回取得したデータやナレッジを活用し、県内各保育園の環境に寄り添った導入支援を協会はこれからも続けていく。

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