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「使えるBIM」で地域建設業界のアップデートに挑戦!【TEAM EHIME BIM】

建設業が抱える問題を改善・改革できる次世代プラットフォームとして期待される、建築DX化推進のコア技術「BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)」。TEAM EHIME BIMは、愛媛県における「BIM」の認知度・理解度・普及の現状や、建築事業における課題を把握した上で、その課題や非効率性を改善するための「BIM」活用のあり方について、基礎的な検証を行ってきた。

【TEAM EHIME BIMのメンバー】
株式会社CHIASMA FACTORY・株式会社鳳建築設計事務所・株式会社一宮工務店・株式グラフィソフトジャパン株式会社

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アンケート結果からみる「BIM」の認知度と普及の現状

同チームは、まず県内の建築設計・施工業(総合建設業の他、設備専門施工業を含む)の関連5団体*に所属する事業者を対象に、「BIM」に関する認知度・理解度、活用状況や活用への意欲、実務的課題をアンケート調査(WEB及び郵送)により収集・分析した。

*5団体…愛媛県建設業協会(建築部会)、愛媛県建築士事務所協会、愛媛県電設業協会、愛媛県空調衛生設備業協会、愛媛県管工事協同組合連合会

総回答者数は96件、うち92社は愛媛県内に本社を構えており、専門工事業・総合建設業・総合+意匠設計事務所の3業種が全体の85%を占める。

「BIM」の認知度については、従業員が半数以上認知している割合が全国70%強(*令和2年JACIC調査による)であるのと比べ今回調査は44%と全国平均の3分の2程度であり、想定よりも認知・理解が遅れていることが明らかになった。また、BIM推進委員会やBIMガイドラインなどの国の取り組みについても「知らない・聞いたことがない」と答えた事業者が全体の約半数を占め、近年の業界内での「BIM」関連情報の広がりが県内事業者まで十分に届いていない現状があるようだ。本事業を通じて全国レベルまで認知度を上げることを目標に、まずは「BIMの存在とその概要を多くの事業者に知ってもらうこと」がファーストステップであるといえる。

業種ごとに認知度の結果を見ると、設計業では相対的に認知度や関心が高く、専門工事業では低い。事業分野と関心度の関連で見ると、総合建設業において「関心はあるが導入未定」の層(潜在的導入関心層)が一定数存在することも分かった。したがって、本事業の中長期的取り組みを通じて、この層を1つ上の「導入を検討中」にまでどれだけ引き上げられるかが重要であるといえる。総合建設業者の関心を底上げすることで、その協力業者である専門工事業者の関心も引き上げることができるだろう。

では、導入済み事業者(15社)及び導入を検討中の事業者(7社)へのアンケートを通して、「BIM」への関心度・導入状況を明らかにする。「導入した/導入を検討している理由」を見ると、いずれにおいても上位を占めたのは、

①業務効率化
②プレゼン品質向上
③将来的な動向への対応

上記の3点であったが、これは全国調査とほぼ同様の傾向である。③将来的な動向への対応と答えた回答者が多いことは、将来必要になることの確度が高いほど関心を持つ事業者が増える可能性が高いことを示唆している。
ただ、導入済み事業者における「BIM」の活用状況をみると、主要ツールとして活用している事業者は2社のみで、「実務で十分に・またはほとんど活用できていない」事業者が半数となっており、導入後の利活用にもハードルがあることが分かった(これは全国調査の結果ともほぼ一致)。

現時点で「BIM」導入への予定や関心がないと回答した事業者に
「関心や導入予定がない理由」を聞いたところ、

①知識(そもそもBIMをよく知らない=情報がない)
②需要(発注者、関係者からの要求がない)
③費用(高い、もしくは分からない)

上記が上位であった。一方で「従来型CADと比べて大きなメリットを感じない」と回答した回答者が少ない点は全国と傾向が異なる。また、①〜③よりはわずかに低いが、導入にかかる人的・時間的負担についても全国調査同様に高い。
この設問で注目すべき点は、業種ごとに傾向が異なることである。総合建設業においては「外部需要(発注者からの要請等)が無い」ことが最も多く、次いで「BIM」の認知自体が弱いことがハードルとなっている。一方、専門工事業においては「従来型CADと比べてメリットを感じない」以外の全ての回答が比較的多く、関心はあるものの現実的なハードルがあり先に進めない姿が想像される。設計事業者においては、おそらく小規模事業者が多いためにコストが一番の障害となっているようである。

建設事業者・設計事務所が感じている課題は?

では、建設事業者と設計事務所がそれぞれ感じている課題の傾向を見る。

【設計事業者が感じている課題】
・設計者や協力業者などの図面から施工図を作成する負担
・2次元図面で把握が難しいおさまりを正確に把握して施工するための負担
・設計情報の精度や情報量不足による負担
・図面間の整合性チェックや異種工事間の調整等による負担
・設計変更対応による負担

上記の項目に対して「非常に当てはまる」と「まあまあ当てはまる」が全体の8割を超えており、多くの施工者にとって負担が大きいと認識されている。これらの5項目について、それぞれ「BIM」がどのように負担軽減に寄与できるかを具体的に示すことで、本年度事業の一貫性が示されるとともに、主要な問題の解決ツールとしての「BIM」の活用イメージが明示されるといえる。

対して、
【設計事務所が感じている課題】
・施工者の見積書を確認する際の数量チェックや費目過不足チェックにかかる時間や手間の多さ
・工事開始後の設計変更を図面や見積、施主への説明資料等に適切に反映されるのに要する時間や手間の多さ
・自社の設計図面と施工者が作成した施工図面との照合、整合性チェックにかかる時間や手間の多さ
・異なるソフトや手描きで作成された施工者(下請け業者を含む)の図面を自社ソフトの図面に変換、統合する際の手間の多さやそこで生じる人的エラー

このうち「設計変更対応」については施工者においても負担が大きいと回答された項目であり、重点項目といえる。また、特に異種工事間の干渉チェックや現場調整については、施工者側にとって重点事項であることが分かった。

「BIM」を用いた設計プロセスの効率化の実務的検証

次に同チームは、アンケート調査結果を踏まえ、設計事業者・設計事務所が感じている課題をもとに抽出した重点項目について、仮想プロジェクトモデル(中規模・宿泊施設)をチームメンバーで分担して「BIM」モデルを作成し、「BIM」活用の具体的効果や将来的な可能性の確認、実務的な視点、複数社が関与するプロジェクトを想定した場合の課題や問題を明確化した。

①   異⼯種間の整合性の確認

異⼯種間の物理的⼲渉箇所(=配管が鉄⾻を貫通する箇所)を検出し、鉄⾻梁貫通開⼝作成とその⼀覧表化を試⾏した。従来手法と比較して作業量を大幅に削減(1フロアあたり[従来]90〜120分→[BIM]30〜60分)できた他、3Dで把握できるため直感的かつ正確に情報共有しやすく、ヒューマンエラーも減ると考えられる。

②数量積算
建物モデルから、条件付き検索で「(階)基礎フロア×(マテリアル)コンクリート」に該当する部材を一括抽出して積算対象を3Dで確認の上、⼀覧表で個々の部材ごとのコンクリート数量を集計した。手拾い・手計算(表計算ソフト)でやるしかない従来手法と比べ、作業量を大幅に削減([従来]60~90分→[BIM]30〜60分)された。一度データ処理のプロセスをテンプレート化してしまえば繰り返し利用でき、さらなる効率化が可能だ。

③ 基本設計図書の作成

平⾯図・⽴⾯図・断⾯図(いわゆる基本三図)を作成するプロセスを事例建物について実⾏し、従来⼿法と⽐較した。「BIM」によるモデリング(3Dモデルを作る工程)が従来の平面図作成と比べて+1日かかったとしても、モデルからの立面・断面図の出力がほぼワンクリックとなるため、作業量を大幅に削減でき(平面図完成から[従来]2.5〜3日→[BIM]1日程度)、変更反映も速かった。

④3Dビジュアリゼーション

上記③で作成した「BIM」モデルから建物外観のイメージCGの製作を⾏い、図⾯に基づいて「CAD」とは別ソフトで3Dモデルを作成してレンダリング(※素材感や陰影、添景表現を付加する画像仕上げ処理のこと)を⾏った。「BIM」による3Dモデルを作る工程が従来の平面図作成と比べて+1日かかったとしても、図面と別に3Dモデルを作成する必要がなく、基本的な素材情報もモデルに含められるため作業量を大幅に削減できる。

⑤施工図(総合仮設計画図)の作成

事例建物の実際の施⼯を想定して、建物の「BIM」モデル(敷地・外観部分のみ)を「BIM」ソフトを⽤いて、仮設⾜場などの仮設構造物「BIM」モデルを作成した。所要時間は従来型と比べて大きくは変わらないものの、3Dで仮設物を確認できることによる現場での利便性や、仮設物の数量を自動で一覧表化できるメリット等がある。

⑥異なるBIMソフト間及び2D CAD(ノンBIMデータ)との互換性
今回の事例によるソフト間の互換性検証では、予想されていたような深刻な不具合(データの⽋落、⽂字化け、オブジェクトのスケールや位置等のズレ)などは起きなかった。今後さらに様々なタイプをテストし、書出し/読込み時の適切な設定をルール化することで異なるソフトのユーザー間でのデータ交換と協働を容易にすることがBIMの普及と複数業者間での連携・活⽤に必要である。

県内広域への「BIM」とアップデートの波及を目指して

今年度事業のアンケート結果を踏まえると、近い将来において建設業の個々の企業が経営規模や業種などに関わらず一律に「BIM」を自社導入するという形での「BIM」普及は、特に小規模事業者の多い専門工事業者への負担の大きさや技術習得にかかる経営コスト等を考えると、愛媛県における普及推進の方向性として現実的ではないと考えられる。そのため、同チームは短期的には鍵となる川上プレーヤー(官民の発注者や総合元請業者)にターゲットを絞り、それぞれに合せた解決策を立案し、並行的に実装を進める方向に軌道修正を行うこととした。また、現状を見る限り、技術としての「BIM」の導入だけでは業務プロセスの改善を誘発しない。したがって、単に技術としての「BIM(ソフト)」を導入するのではなく、業務プロセスを含めた変化への具体的指針と組織横断的(協調的)な取り組みが必要だ。継続して、「BIM」の部分的利用、外注サポートの試験提供をするなど、同チームが積み上げる取り組みにより県内の「BIM」の普及と、地域建設業界のアップデートは続いていく。

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