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楽しいことを、もっと一緒に。医療的ケアのある子どもとの旅行ってどうしてる?【体験談インタビュー】

 「医療的ケア児の旅行ガイドライン」作成にあたって、モニターとして宿泊会と意見交換会に参加してくださったご家族に、インタビューを行いました。

 医療的ケアのある子どもとの旅行は、困難な面もありながらも、普段とは違う環境に子どもたちの喜びが伝わってきたり、親もステップアップしたりと新たな扉を開く可能性に満ち溢れています。

 今回インタビューにご協力くださったのは、富山県にお住まいの沙魚川(はせがわ)さん、村井さんのお二人。

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沙魚川さん(左):3月のモニター宿泊会に夫・娘2人と家族4人で参加。次女の友花ちゃんが3歳の時に脳腫瘍が判明。現在、友花ちゃんは社会福祉法人くるみの森が運営する放課後デイサービスを利用中。

村井さん(右):3月のモニター宿泊会に夫・4歳の長女・咲帆ちゃんと家族3人で参加。富山でハンディキャップを持つお子さんの家族グループ「saku*hana」を主催し、代表を務める。

 これまで様々な旅行を経験してこられたお二人から、旅を楽しむ術や心構えをインタビューしてきました。


医療的ケアのある子どもとの初めての旅行。どんな思いでお出かけを決めた?

 沙魚川さん、村井さんともに、金沢でのモニター宿泊会が初旅行ではないとのこと。
 初めての旅行はどんな旅行だったのでしょうか?


村井さん「うちは県外で一番最初に出かけたのは軽井沢ですね。生まれつき心臓疾患を持っている子なので、暑いところも寒いところも体に負担がかかりすぎてしまうんです。そうなったら気候が良くて、親も楽しめるとことがいいねということで娘が1歳半のときに、軽井沢にいきました。泊まったホテルはエレベーターがなかったんですが、階段の上り下りはホテルのスタッフの方に手伝ってもらいながらの宿泊でした」


 宿探しはどうやってしているのか聞いてみると、『子連れ 旅行』で検索して評判がいいところにしているそう。

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-「ベビーカーで入れるっていう宿は、バギーを利用する子どもや家族も入りやすいです」と語る村井さん

 子どもの身体的な負担を踏まえながら、家族みんなで楽しめる場所選びをされた村井さん。

 対して、沙魚川さんの初旅行はどんな旅行だったのでしょうか?


沙魚川さん「うちの場合は一番最初は奈良に行きましたね。パワースポットに行ってみんなで手を合わせてパワーをもらいに行こうという旅でした。友花の病気が分かってから、2年ほど入退院を繰り返したんですが、少しずつ後遺症も出始めて、歩くことやそれまでできていたことが困難になってきている中でも、友花を連れてどこかに行きたいね、私たちも遊びに行きたいねという気持ちがありました。」

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-「車椅子での初めての遠出は、思っていたより大変でした」と沙魚川さん。

沙魚川さんご一家には、お姉ちゃんが一人いらっしゃるとのこと。お姉ちゃんに対しては入院中のお留守番がんばったね、友花ちゃんに対しては治療がんばったねという想いがあって、旅行はご褒美の意味もあったのだとか。


時にはトラブルも発生……その時どう切り抜けた?!

「旅行にトラブルはつきもの」とはよく言われますが、お二家族の旅行にはトラブルはなかったのでしょうか?


村井さん「トラブル、ありましたよ。一番ドキドキしたのは、軽井沢に車で行ったときなんですが、渋滞にはまってしまって、酸素ボンベの酸素が尽きそうになったときです」


 医療的ケアで在宅酸素を使用している子にとって、酸素ボンベの残量は命にかかわるものです。聞いているこちらも緊張してくる状況ですが、どうやって切り抜けたのでしょうか?


村井さん「その時は体調も安定していたので、酸素量を少し減らして対応しました。サチュレーションは80後半を維持するように言われていたんですが、80前半あれば本人は苦しくないとも聞いていたので、その時は、チャイルドシートから降ろして、抱っこして泣かないようにしながら、「ここで寝て~!寝たらサチュレーション上がるから…!」と。」


酸素流量を減らして、抱っこしながらのねんねで危機を切り抜けてからは、旅行の際には酸素ボンベをたくさん持っていこうという教訓を得たそう。

しかし、この教訓を活かして後日、ディズニーランドに行こうと計画した際には、「酸素持ち込みの壁」を知った村井さん。

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村井さん「新幹線って持ち込める酸素ボンベの量が決まっているんですよ(※2本まで)。でも、チケットの予約の際に「酸素ボンベの持ち込み本数を増やしたいです、命に関わることなので」、と伝えると、JRの方が様々なところに確認を取ってくださって、ボンベの本数を増してもいいよという対応してくれました。そうやって問い合わせをしたら、対応してもらえるということは知れてよかったなと思います。」


 規定があっても、命にかかわるものの場合は聞いてみる、相談してみるということも、旅行の手配のポイントなんですね。


沙魚川さん「うちの場合は、ホテルにチェックインしたら、先に送っておいた荷物が見つからないというハプニングがありました。ホテルには到着しているけど、どの部屋に入れたか分からないということで、ホテルのスタッフの方が探し回るという事態…。実は、その荷物の中に、エネーボ(経管栄養剤)とかお薬を全部入れていたんです…


 当時は経鼻経管栄養で食事をとっていた友花ちゃん。

 他の家族はお腹が空いても何でも買ってきて食べたりすることが出来るけど、友花ちゃんはそうはいきません。お腹をすかせた子を前に自分たちばかりが食べるわけにもいかず、それでも荷物は見つからない。

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-「ホテルに問い合わせても返事はないし…つい、イライラしそうでした」と苦笑いの沙魚川さん。

沙魚川さん「でも「せっかく夢の国に来たんだから怒ってはいけない」と必死に抑えて……。ようやく21時前になって「ありました!」って届けてもらったのが、旅の想い出になってますね」


 そう笑いながらも、荷物を事前に送る場合は、確実に手荷物の中にも栄養剤1缶と1回分のお薬は入れておこうという教訓を得たそうです。


ディズニーランドに温泉地。その後もどんどん旅行にチャレンジ!

 数々のドキドキするハプニングを経験しながらも、お二家族は全国各地を旅しているようです。


沙魚川さん:「奈良の旅行のあと、2018年にはメイクアウィッシュオブジャパン(※)さんの支援で、ディズニーランドに行きました」

※難病と闘う子どもの願いをかなえる団体

 2019年の9月には家族4人だけでディズニーランドに行ってきたという沙魚川さん。
 メイクアウィッシュオブジャパンでボランティアの方と一緒に行動した経験を活かし、子どもに負担のかからない動き方を参考にしたそう。サポート付きの旅行を経験してからは、その経験を元に家族で新たな旅にチャレンジしているようです。


村井さん:「咲帆はお風呂が好きなので、温泉に入れたいと思って、部屋風呂のある石川県の山代温泉に行ったりしました。セカンドオピニオンを受けるために泊りがけで静岡に行ったこともありますよ」


 様々な宿泊施設を体験しているお二人ですが、スタッフの方のこんな対応が嬉しかった、ということはあったのでしょうか?


沙魚川さん:「今年の話ですがディズニーランドに行くときに、旅行代理店を通してディズニーランド近くのホテルを予約したんですが、車椅子の子と宿泊予定であることを伝えておいたら、2日後くらいにホテルから電話が来たんですね。「朝食何時頃がよいですか?希望の時間を伝えてもらったら、スペースを広めに確保しますよ」って言ってくださったんです。確実にその時間にって確約はできないけど、できるだけ不便のないように協力したいとおっしゃってくださって……それはとても嬉しかったです」


 予約時には普通のプランを予約していたのに、入室してみたら当初のプラン以上の広めの部屋を案内してもらえたのも、ありがたかったとのこと。
ディズニーランド近くのホテルということもあり、館内にもお土産の売店があったのも助かったそう。混み合うスーベニアショップで無理をしなくても、ホテル内でゆっくりお土産を見れるというのも宿選びのポイントになりそうです。


旅行を経て感じる子どもの成長、伝わってくる感情

 いつもとは違う環境にドキドキしたり、ワクワクしたり。そうした気持ちの変化は旅先だからこそ特に表れやすいようです。

 お二人とも、旅先でお子さんの心境や様子が変わったなと感じることがあったようで…。


村井さん「軽井沢に行ったときの反応がとっても良かったんです。旧軽井沢銀座通りを歩いていた時なんですが、すごくいい天気だったのもあったのか、ベビーカーの上で足をパタパタパターって動かすんです。「嬉しい嬉しいー!」っていうのが伝わってくるんですよ。それを見て、「あぁ、連れてきてよかった」って思いましたね。その時の表情、全然違ったんですよ。」

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-軽井沢旅行の時の様子(写真提供:村井さん)

 それまでもお外の散歩は何度もしていたようですが、普段とのあまりの違いに、これまで以上にお出かけさせてあげたいなと感じました、と村井さんは目を細めます。


沙魚川さん「うちもそういう普段との違い、感じたことありますね。宿先で、夜だしもう寝る時間だよっていうときなんですが、喜びが伝わってくるんです。表情がよくて、いつもよりも声がたくさん出るねとか、こちらからの声掛けに対応して目線が合うねとか。明らかに様子がいつもと違うんですね。いつもと違うということが、刺激としてちゃんと入っていて、普段だったら繋がりにくいところが、今日は繋がっているのかな、みたいな。旅行に行ったときはそういうことが多いなと思いますね」

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-家族だけでディズニーランドに旅行にいったときの様子(写真提供:沙魚川さん)

いつもと違う道、いつもと違う部屋、いつもと違う景色。

家族が楽しそうに話す様子。

そうした旅先でのワクワクした空気感が子どもに伝わって、その喜びが家族をまた笑顔にする。お二人の話からはそんな優しい時間を感じます。


村井さん「親は旅行を経て自信がつきましたね。先生からは「命にかかわるから感染しないで」って言われるし、訪問看護師さんからも「家にいたほうがいいんじゃないの」ってよく言われていました。特にうちの子は免疫不全だったので、外に出て感染したらどうする?って。それでも外に出るとすごく表情が変わるので、やっぱり外に出させてあげたいという気持ちがありました。


 確かに外に出れば様々な感染症のリスクもあります。天候や気圧の変化で体調を崩してしまうこともあるかもしれません。

 でもそれ以上に、子どもの嬉しそうな様子をみると、なんとかしてお出かけに連れていきたいと思うのも親心としてあたりまえです。

 お出かけしたい、家族で楽しみたい。

 その気持ちを理解し、サポートしていくことで、たくさんの想い出をつくっていけるように移動や、宿泊、観光など、様々なシーンで多方面から支えていくことが必要なのだとお話を聞いていて感じました。


これから旅行にチャレンジするご家族へのメッセージ

 最後に、旅行やお出かけするのになかなか勇気がでなかったり、旅行しづらいと感じている方へのアドバイスを伺いました。

村井さん「同じように医療的ケアのある子どもを育てているママたちの中には、近所のショッピングモールにも行ったことがないという方もいます。子育てサークル(saku*hana)の活動で「それじゃあみんなで行ってみようか?」って話しています。個人では行きにくくても、みんなでなら行けると思うんです。」


 子育てサークルなどで「お出かけの日」を作って実践してみるのも良いのでは、と村井さん。
 はじめの一歩をみんなで挑戦してみるーーそうした小さなお出かけ経験の積み重ねが、旅行につながっていくかもしれません。


沙魚川さん「こちらが思っている以上にホテルの方も観光地の方も細かいところに気づいてサポートしてくださるんで、過剰に心配しなくても大丈夫かなと思います」

これには村井さんも同意のようで、思ってた以上に自分のほうが大丈夫かなって不安を感じていたことに気づいたそう。

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沙魚川さん「不安を感じていたところに、知らない人が手を差し伸べてくださるようなこともあります。例えば、近所のショッピングモールとか行くと、すれ違う人の視線が気になることもあったんですけど、普段の生活の場から離れてお出かけすると、そういうのも全然気にならなくなります。見られることでたくさん気づいてもらって、助けてもらえるようになります」


案外自分の地域を離れてみると、感じ方の差みたいなのがあるんですよ、と沙魚川さんも笑顔で後押しの言葉を語ってくださいました。

沙魚川さん、村井さん、ありがとうございました!


【おまけ】富山に来るならここがおすすめ!バギーでも入りやすいスポットは?

 もし同じように医療的ケア児のお子さんと一緒に、富山に旅行に来られる方がいらっしゃるとしたら、おすすめの場所はありますか?
と伺ってみました。

 ぜひお出かけの参考にしてみてください。


・富山県 富岩運河環水公園
富山県富山市湊入船町(富山駅より徒歩9分)
http://www.kansui-park.jp/
海まで続く富岩運河や、シンボル的存在の天門橋、ガラス張りのオシャレなスターバックスコーヒーやフレンチレストランなどもあります。お天気のいい日に散歩やちょっとした観光にもおすすめ。

・富山県美術館
富山県富山市木場町3-20
https://tad-toyama.jp/
上記の環水公園の前にある美術館。バリアフリー化されており、多目的トイレの設置もあります。オノマトペをテーマに作られた屋上庭園など見どころがたくさん。

・IMONO KITCHEN(能作)
富山県高岡市オフィスパーク8-1
https://www.nousaku.co.jp/
高岡の伝統工芸・鋳物のメーカー「能作」が運営するカフェ。店内はバリアフリーの作りになっていて、鋳物の器で富山の食材を使用した食事ができます。


(2019.11.28取材 須田麻佑子)

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