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マネジメントへの挑戦

1.“挑戦”と“反逆”、そして“希望”と“願い”

 身の程をわきまえず、身の丈にあわず、この駄文のタイトルを『マネジメントへの挑戦』としました。
 『マネジメントへの挑戦』、これは経営コンサルタントの第一人者である一倉定(1918~1999)さんが、1965年に出版した書籍のタイトルでもあります(現在は『マネジメントへの挑戦 復刻版』日経BP(刊)2020年)。
 一倉さんは「ダメな会社はトップがすべて悪い、人のせいにするな、部下のせいにするな、環境のせいにするな」を基本方針とし、そのコンサルティングのスタイルは「社長の教祖」、あるいは「炎のコンサルタント」などの異名をとるにふさわしいものだったようです。1999年に80歳で逝去するまで、大小1万社もの社長に対して、まるで小学生を叱りつけるように厳しく指導したと言われています。彼の指導を受けた社長たちからは「こんなに叱られるのは生まれて初めてだ」、「講義と聞いて来たが、これは講義ではない、落雷だ」などの声も聞かれたとか…。
 一倉さんの『マネジメントへの挑戦』が出版された1965年は、実は自分が生まれた1年前であり、今から55年も前に遡ります。この本のなかで一倉さんは、ドラッカーの言葉を多く引用していますが、ドラッカーによるマネジメント論の集大成『マネジメント - 課題・責任・実践』(ダイヤモンド社(刊)1974年)よりも20年も前に、「”きれい事のマネジメント論”への抗議」を表明していることに驚かされます。
 一倉さんの『マネジメントへの挑戦』の冒頭にはこんな文章があります。

“これは挑戦の書であり、反逆の書である。ドロドロによごれた現実のなかで汗と油とドロにまみれながら、真実を求めて苦しみもがいてきた一個の人間の“きれい事のマネジメント論”への抗議なのである”

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 これから自分が書こうとしている、自分なりの「マネジメント論」も、自分なりのマネジメントへの “挑戦” であり “反逆” といえるかも知れません。コマンド&コントロール(命令と統制)によって社員を「管理」することを是とする経営層、それが当たり前と思い込み(思い込まされ)、ある意味 “不感症” になってしまっている中間管理職。そんな彼らに対する “挑戦” であり “反逆”。
 そしてそれは同時に、そんな旧態依然とした「マネジメント=管理」という論理によって、働くことの楽しさや、働くことを通じた成長、その先にある幸せ…それらを見出すことすらできなくなってしまっている社員の立場からの、“希望” であり “願い” でもあります。
 再び、一倉さんの言葉を引用します。

マネジメントは、人間の行動のひとつの指針である。人間に始まり、人間に終わる。従来のマネジメント論はその人間を忘れているのだ。いったい、なんのためのマネジメントなのだろうか”

 従来の、そしていま現在の社会に蔓延している「人を忘れた」マネジメント論への “挑戦” であり “反逆”。そして、「人を幸せにする」ことが本質であったはずのマネジメントへの “希望” であり “願い”
 そんな想いをこれから記していこうと思います。

2.そもそも「マネジメント」とはなにか?

 さて、そもそも「マネジメント」とは何なのでしょうか?ドラッカーは『明日を支配するもの』(ダイヤモンド社(刊)1999年)のなかで、「組織に成果をあげさせるための道具、機能、機関」と定義しています。とするならば、「組織」とそれを構成する「人」を、成果を上げられる状態にすることがマネジメントであり、その役割を担うのがマネージャだといえます。
 しかし、現状(実態)はどうでしょうか?私たちのマネジメントは、所謂「マイクロマネジメント」に終始していないでしょうか?コマンド&コントロールで「マネジメント」している気になっていないでしょうか?

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 “Management” の語源を辿ると、語頭の “Man” は「手」を表す語根であり、“Manage” には「手で馬を訓練すること」という意味があることがわかります。つまり、手で馬に優しく触れながら心を通わせることで、やがて人を乗せてくれるようになったり、行きたい方向に走ってくれるようになったりするわけです。人のマネジメントも本来同じでなければいけないのではないでしょうか?
 自分はマネジメントを「どうにかこうにか何とかする」ことと捉えています(参考:『究極のドラッカー』國貞克則(著)KADOKAWA(刊)2011年)。マネジメントの仕事をしていると、ホントにいろんなコトが起こります。時には目の前が真っ暗になることもあります。そんな先が見えない状況のなかで、前例がないことに対して、自分の判断が正しいのか、間違っているのか分からないようなことに対して、「どうにかこうにか何とかする」。それは小手先のテクニックでどうにかなるものではありません。目の前の課題と、そして目の前の人と真正面から向き合うことが求められます。だからこそドラッカーは「真摯(=Integrity)」という言葉を頻繁に使ったのではないでしょうか。「真摯」であること、そして「愚直」であることが、マネージャに求められる大切な資質のひとつであることは間違いありません。

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3.「マネジメント」の本当の目的とは?

 では、そんな「マネジメント」の目的は何でしょうか?ドラッカーが言うように、マネジメントが「組織に成果をあげさせるための道具、機能、機関」であるならば、組織が成果を上げられるようになった結果として、どうなっていたいのでしょうか?そもそも「組織の成果」とは何なのでしょうか?
 マネジメントの目的は、決して会社や組織の業績向上だけではないはずです。そして、組織の成果とは「売上」や「利益」だけではないはずです。自分は、マネジメントが追い求めるべき成果とは、やはり「人の幸せ」だと考えます。組織が成果をあげるということは、そこで働く「人」が幸せであることが絶対条件だと思うのです。そこで働く「人」が幸せだからこそ、組織は成果を上げられる。マネジメントはそのための存在でありたい。
 例えば、毎年「増収増益」を続けている企業があるとします。でも、そんな好調な業績に比例して、そこで働く社員の皆さんの幸せも同様に増えているかどうか?過重労働やハラスメントなどはもってのほかですが、仕事が原因で不要なストレスを抱えたり、人間関係に悩んだり、場合によってはメンタルを患ってしまったり…。残念ながら、まだまだそういった事例は少なくないと感じています。
 「社員の幸せの増大」を経営の根幹に置く「伊那食品工業株式会社」の最高顧問である塚越寛さんは「人の犠牲に立った利益は利益ではない」と言いきります(参考:『リストラなしの年輪経営』塚越寛(著)光文社(刊)2009年)。これは本当にその通りだと思っていて、自分も社内でことある毎に「社員の不幸のうえに成り立つ業績などクソくらえだ!」と、管理職らしからぬ発言をして、上役から窘められます(苦笑)。でも、マネジメントの本質は「そこ」にこそあるのではないでしょうか。マネジメントが目指すものは第一に「人の幸せ」であり、その結果として会社の業績、繁栄や発展が位置づけられるべきだと考えます。

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4.「マネジメント」を前に進めよう

 別記事にも書きましたが、時代の変化とともに、マネジメントが機能不全に陥っているのではないか?という危機感を感じています。マネジメントは過渡期を迎えているのではないか?少なくとも「昭和」の頃から続く「管理」という方法論では通用しなくなっています。新しい時代に相応しい、いわば「マネジメント 2020」とでも言うべき新しいマネジメントに、アップデートしていく必要があります。時代が変わり「働く」ということに対する人の考え方、「仕事」というものに対する人の価値観が大きく変化している中で、マネジメントにも大きな変革が求められているのです。
 そのために「マネジメント」=「管理」という考え方に決別しましょう。そのために「マイクロマネジメント」から脱却しましょう。そのために「コマンド&コントロール」にNOと言いましょう。
 そして、マネジメントが本来目指すべき、働くことの楽しさ、働くことを通じた成長、その先にある幸せ…それを掴むために「マネジメント」を前に進めていきましょう。「組織づくり」とは「人づくり」でもあります。そして「人づくり」とは「未来づくり」につながります。いま、そしてこれからのマネジメントの使命は、まさにこの「組織づくり」、「人づくり」、そして「未来づくり」を具現化していくことではないか?と思うのです。
 最後にもう一度だけ、一倉定の言葉を引用させていただき、この駄文も終わりにしたいと思います。

「我々の対決しているものは、現実であって理論ではないのだ。マネジメントの理論は、現実のためにあるのであって、現実が理論のためにあるのではない。現実は生きているのだ。そして、たえず動き、成長する。…打てば響き、切れば血が出るのだ。
   (中略)
これからのマネジメントは、しっかりと目標を見つめ、夢と希望を持ちながら、厳しい現実に対処し、醜さ、矛盾、混乱、その他いろいろの障害を乗り越えていく勇気と知恵を与えてくれるものでなければならないのだ」

 「マネジメントは現実であって理論ではない。現実は生きているのだ。打てば響き、切れば血が出るのだ」。その通りだと思います。マネジメントは方法論ではありません。立場や役割だけでもありません。マネジメントを小手先のテクニックや、単なる役割と考えている人には、「切れば血が出る」人の痛みは分からないでしょう。人の不安や悩みに寄り添い、人の可能性を解放し、人の成長を加速し、人の幸せを実現する。それがマネジメントの目的であり、それがマネジメントのあり方、それがマネジメントの未来です。マネジメントとは人に始まり人に終わる。いつの間にか「人を忘れてしまった」マネジメントが、「人を幸せにする」というマネジメント本来の姿を取り戻すために、これからも “希望” と “願い” を胸に、“挑戦” し “反逆” していきたいと思います。「マネジメント」の旅はまだまだ終わることはありません。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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