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高校生の私は、放課後は書を求め町へ、てくてくと一人歩いた。毎日欠かさない「部活動」だった。

私が、まだ見ぬ高校生活で楽しみにしていたことの1つが部活動だった。
私は入りたい部がもう決まっていた。
高校入学後、すぐにその部に入った。そして週1,2回は活動をしていたが、分からないことの連続に、期待はあっという間にしぼんだ。私はその部から足が遠のき、ついにはまったく行かなくなった。
かくして私は「帰宅部」になった。

放課後、私はいつも決まっていく場所がいくつかあった。市内の本屋をいくつか回るのであった。市立図書館に寄るときもあった。
本屋は、ワンフロア全部が本屋のものもあれば、スーパーに併設しているだけの小規模のものもあり、さまざまだった。高校から家までの途中にある本屋ではなく、真逆方向に離れた本屋に行くときもあった。

私は教科書を毎日持ち帰っていた。持ち帰らず教室に置いておく生徒も何人かいたが、時々先生に注意されていた。私が教科書をすべて毎日持ってきては持ち帰るのは、真面目だったからではない。リスク回避のためであった。先生からの注意を受けるという煩わしいコミュニケーションの種を自分から作ることはないと思っていた。
そこへ毎日、学校の図書室で借りてきた本が加わる。私はいつも、上限の3冊を借りた。通学リュックの中は、教科書とノートに、学校の図書室で借りた本が加わった。

私はぱんぱんのリュックを背負い、自転車を漕いで本屋巡りをした。
本は滅多に買わなかった。ひたすら立ち読みに徹した。1時間も立ち続け読むこともあったので、本屋からすれば非常に迷惑な高校生であったろう。
コミック雑誌を一通り私は読んだ。女性向け少年向けといったジャンルは問わなかった。今日は何曜日だからあのコミック雑誌の発売日だ、あの連載は佳境だぞ、というふうに、私は何本ものの漫画連載を同時に追いかけていた。

本屋巡りコースは、日々その時の気持ち、追いかけている漫画が載っている雑誌の発売日等で決まった。靴箱で靴を履き替えながら、今日はあそこに行こう、というふうに決めることもあった。

高校通学は、基本的には自転車だったが、雪の降り積もる冬は徒歩になった。バスもあったが、停留所の場所と発車時刻とそのルートがいずれも微妙であり、徒歩通学が都合がよかった。
徒歩になっても、市内の本屋巡りの「部活動」は継続された。

私は1人で、てくてくと歩いた。
私の家は高校まで片道2キロだった。歩くと30分ほどかかった。本屋巡りで一番遠い本屋は、高校から4キロ弱離れており、家までの帰り道からは大きく外れていた。

私は冬の間は、帰り道だけでも、3キロは軽く歩いたろう。5キロ歩いた日も多い。8キロ近く歩く日もあった。朝の徒歩通学2キロを含めると、その日は10キロは歩いたことになる。お金はなかったので買い食いはしなかったし、何か、ついで買いをすることもなかった。門限はとくに決まっていなかったので、立ち続けるのに疲れたら、リュックを背負っていることに疲れたら、それをしおに、帰宅するといった感じであった。

冬は日の入りが早い。本屋を出るとめっきり暗くなっていることもしばしばだった。気温はすっかり下がり、吐く息が一段と白くなった。私はぱんぱんに詰まったリュックを揺らして肩紐の位置を調整しなおし、家までの帰路を歩き出した。

1年のうち、徒歩通学は5か月間ぐらいだったろうか、一年の半分近くを、私は徒歩で行う「部活動」にいそしんだ。
Eメールはまだなく、パソコンも携帯もない時代、わたしはポケベルも持っていなかった。
私は、左右の足を交互に繰り出しながら、白い道を黙ってひとり歩いた。

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