カノヨ街自陣1周年記念小説

  • クトゥルフ神話trpgカノヨ街二次創作小説

  • 現行 未通過は閲覧をお控えくださいネタバレがございます。

  • 作品二本立て、後半は幻覚強めのものです、自陣の皆様は解釈違いが起こる可能性がございます。

兎と狐の饗宴
四番街の裏路地、月の光さえ覆うほど背の高い金木犀の並木径を抜けた先には、欅の支柱と少し苔むした瓦屋根が特徴的な二階建ての古民家がある。
一階の引き戸には緋色の麻布で作られた暖簾が掛かり提灯の薄ぼんやりとした灯りが宵闇を照らしていた。


そして、金木犀の甘く柔らかな薫りを身に纏いながら1匹の兎…否1人の兎がお気に入りの時計片手に小走りに駆け抜ける。
「私としたことが!遅刻なんて許されない!!」
兎は息を切らしながら石畳を蹴る様に走る、ようやく目的地へと辿り着く頃には息も絶え絶えであった。
立て看板には本日貸切の文字
「作業に没頭して集合時間ギリギリになっちゃった」
少し呼吸を整えて戸を叩こうとした時、先に戸がガラガラと勝手に開いた。
「おや、時間ぴったりじゃったの、さぁさお入り」
引き戸を開けたのはこの店の店主である狐の女将であった。
彼女は人好きのする笑みで兎を店に迎え入れる、すると女将の尻尾の間からひょっこりと2匹の毛玉が顔を出した。
「「イラッシャーイ」」
「はわっ…(か、可愛い!)」
女将が飼っている狐はとても人懐っこくそして気まぐれである、そばに来てくれる時もあれば、外で遊んでいたりととても自由だ、しかし今日は働きものの様にせっせと店の準備を手伝っている。
そんなに2匹を目で追っていると女将から声がかかった。
「カウンター席に座っておくれ、ぼちぼち酒屋の店主も来るじゃろう」
「他にも来るの?」
「今日は酒屋と時計屋だけじゃ、私的な集まりじゃからな、常連の旦那方は賑やかを好まぬしの、今日の宴には呼んでおらぬ」
「ふーんそうなんだ、あ、そうだこの前頼まれてた掛け時計の修理終わったから持ってきてあげたわよ」
「おや、もうできたのかい?仕事が早いねぇ、ありがとう」
彼女に時計を渡せばヒョイっとそのまま時計を壁にかけてくれた。
「お出汁のいい匂い、ねぇ試食会って言ってたけど何が出るの?」
今日誘われた趣旨は深くは伝えられていないため、女将に聞けばクルリと振り向いた。
「ふふふ、まぁまずは一献」
女将は教える気がない様でニコニコと徳利を渡してきた。
トプトプと透明な液体が満たしていく、器に放たれた酒は果実や花の様な芳しい匂いで鼻腔を通り過ぎ、思わず生唾を飲み込んだ。
手酌で女将もそれを注ぐとこちらに徳利を掲げる。
「もう乾杯するの?」
「ふふん、妾が始めたくなったら始める、それが今日の宴よ」
傍若無人な振る舞いに兎は呆れて、思わず半眼で睨んだ。
「なにそれ…集合時間の意味ないじゃない」
「ホッホッホッ、酒屋はここに来る前は大抵他の店で引っ掛けた後に来るから、どのみちそなたが来たら始めようと思っていたんじゃ、今宵は一人酒の気分じゃないし、ほれ!乾杯」
「えっ!乾杯…?」
乾杯の音頭に釣られて女将の徳利と自分の徳利を合わせた、カチッと静かに盃同士が重なった音が店内に響く。
酒を口に含めば、清酒独特の爽やかな飲み口と果実の様な甘い香りが鼻から抜けていく、度数は高いはずなのに滅法飲みやすい、そんな酒だった。
「めちゃくちゃ美味しい」
「んーーー!うまい!いやぁいいのぅ」
一口飲んで恍惚とした表情をみせた女将は少し欲が満たされたからか、一変してせっせと酒の肴を準備し始めた。
「ねぇねぇ空木、この前出してくれた甘味はもう出ないの?」
「ん?この前とはどの前?」
「あ、あれのう、うさぎの顔のアイスが乗った」
「……あぁ、あれかぁ、あれは材料が切れてしまったからしばらくはでんの、思いの外人気ですぐに切らしてしまったんじゃよ、すまないねぇ」
「いや、別にいいけど…」
「仕入れができたらまた作るでの、その時はいの一番に其方に教えるとしようかの、…さて、しかし今日はこっちを食べておくれ」
チビチビと酒を舐める様に飲んでいたがカウンターから小鉢がやってきた。
「なにこれ」
「ネギのぐるぐる、酢味噌を掛けてお食べ」
冷えた小鉢には緑色の茹でられた小ネギがグルグルと奇妙な形で山を作っていた。
「初めてみる」
「地方の郷土料理での、あまり有名でないが、今日飲む酒にはピッタリじゃ」
試しに一口食べれば、ポリポリと小気味いい音が鳴る、茹でたお陰でネギ独特の辛味はなくなり瑞々しさと甘味が酢味噌と絡まって絶妙な旨味が口一杯にひろがる。
味自体は素朴でクセもない、しかし食べる手が止まらない。
ポリポリポリ クイッ ポリポリポリ クイッ
「……はっ!もうない」
「気に入ったかい?」
思わず無心で食べ続けてしまいいつの間にか小鉢は空となっていた。
「ほれほれ、まだ色々出るぞぉ」
酒を継ぎ足されまた新しい品がでる。
「!おでん…」
湯気が立ち上る器の中には大ぶりの大根や玉子トロトロの牛すじにちくわ達は出汁色に染まり切ってしみしみである。

こんなの、食べる前からわかる
「美味しいに決まってる、ゴクリ…」
「他の小鉢も出したし妾も隣にお邪魔させてもらおうかの」
女将はルンルンで一升瓶と徳利片手に兎の隣に座った。
「さて!では改めてかんぱ〜い!」
まだ一杯目であるものの場の雰囲気が陽気になりつつあるのか、単純に女将の機嫌が良いのかまた乾杯を強請ってきたので兎はつい反射で盃を掲げるのであった。

「うつぎ絶対こっちが良いって!」
「えぇー、妾こっちも好きだもん!」
時間がどのくらい経ったのかはわからないが2人ともすっかり出来上がっていた
「じゃあこのポテサラは」
「ポテサラはこっちじゃなの」
意見が合えば謎にハイタッチをし
意見が割れればお互い譲らずこっちが良いと言い合った後酒を煽り前後不覚になる。
そんなことを繰り返ししていた。
ケラケラと笑いながら試作のポテサラを食べていたら引き戸の開く音が聞こえる。
「ヒクッ…うつぎさ〜んきたよ〜、あれぇ?2人とも良い感じじゃ〜ん」
引き戸を開けたのは酒屋の店主であった、店主もまた赤ら顔で何故か手には一升瓶を、抱えている。
「店主遅いではないかぁ、待ち切れんではじめておったぞぉ、ほれほれ時計屋の隣にお座りな」
「へへへ、悪いねぇ、あっ!壬恋兎ちゃんだぁ、ねぇねぇねぇ、この酒飲んだことある?」
「えぇ?なに?よく見せなさいよ」
酒屋の店主が遅めの登場で宴会は更に盛り上がりを見せた。

よく食べ、よく呑み、そしてから騒ぎ、当初の目的を忘れる勢いで酒瓶の中はすっからかんとなり、そうして夜は深まり、街の外ではチラチラと綿雪が降り出した。

一升瓶を抱えて千鳥足で道を歩く陽気な住民が雪を見れば
「なんでぇ、この雪ブレで見えるぞぉ」
「ばぁろぅ!手前ェが酔ってっからだよぉ」

ここはカノヨ街

すべてのひとが祉泡せにくらしています。

※「幸せ」をあえて造語にしています




オフ会という名の近況報告
某月某日
都内から程なく離れた商店街は地元住民の往来でほどほどに賑わっている。
「わぁ!見てみて蒼ちゃんお肉屋さんでコロッケ売ってるよ、美味しそうだね」
「姉さん、これからお昼ご飯だからコロッケはまた今度ね」
「はぁーい」
キャスケット帽を目深に被った小柄な女性は大柄な女性の手をとり子供のようにはしゃいでいる。
時刻は午前11時半、姉妹は目的地へと足を運んでいた。
「二人とも元気かしら」
「LINEじゃ頻繁に連絡してるけど、会うのは…そうだね、この姿になってからは二回目かな?」
「ふふっ、ちょっとドキドキするわ」
「うん…私もちょっと…緊張してる」
期待に胸を膨らませる小さな姉と不安で胸が騒めく大きな妹は雑居ビルの3階で足を止めた。
12時前ということもあり、ドア越しの店内はまだ人が少なかった。
二人は入り口前で少し立ち止まる。
「大丈夫よ、きっとドキドキしてるのは二人も同じよ」
「そう、だね」
「このファミレス行くの初めてだったから楽しみだったの!しかも4人でランチ出来るなんて、ふふっ」
「……」
「どうしたの?蒼ちゃん」
「あ…いや、なんでもないよお店早く入ろうか」
「そうね」
二重扉を抜けて店内に入ればトマトソースやチーズの焼ける美味しそうな香りが充満している。
「いらっしゃいませ、何名様ですか?」
ギャルソンエプロンをつけた店員が素早く2人を迎え入れた。
「えっと、4人です」
店内をぐるりと見渡すがそれらしい二人組が見つからない。
「お連れ様が後からいらっしゃいますか?」
姉はスマホを少し覗いた後、まだついてないみたいと耳打ちしてくれた、それを聞いた私は、はいと店員に告げ、私たちは窓際の4人席に案内された。
「姉さん窓際がいい?」
そう問えば、姉は少し眉根を下げていいかな?と控えめに聞いてきた、それから私たちは壁際の席に並んで座り2人を待つことにした。
「少し遅れそうだから、先に頼んでても良いって壬恋兎ちゃんが言ってるけど、どうする?」
「んー…姉さんはどうする?」
「私はできれば2人を待ってたいかな」
「じゃあドリンクバーだけ先に注文しようか」
「ドリンクバー!いいわね、そうしましょ」


「はい、姉さん」
ドリンクバーで2人分の飲み物を注いで片方を姉さんに渡す、ありがとうとにこりと笑って両手で受け取った。
「ふふふっ、炭酸ジュースってあんまり飲んだことなかったけど面白いよね」
「そう?」
「口の中でパチパチ泡がはじけて、口の中でジュースが飛んだり跳ねたり遊んでるみたい」
「…そういえばこの前、姉さんがコーラ飲んだ時凄いびっくりした顔してたもんね、ちょっと面白かった」
「えぇ、ひどいなぁ…あ、壬恋兎ちゃんから連絡きた」
ポキポキっと姉のスマホがわずかなバイブと着信音がなる。

商店街まで来た!走ってる!

「商店街まできたって、ここから見えるかしら」
「見えるんじゃない?………あれかな」
遠目からではあるが、猫背気味の男性とその男性を引っ張りながら走る一つ結びの女性が見えた。
「ふふっ、あれね」
姿こそ違えど、間違えなくミサキさんで壬恋兎さんだった。

「ちょっと!早く走りなさいよ!待ち合わせに遅れてるんだから!!!」
「ゼェ…そんな…はぁ…無茶…言わないで…くださ…ッハァ…ハァッ」
「壬恋兎さん……あし……はや…」
「そこ数メートルでしょ!何バテてんの!!」
「ひどい!」
お互いやんやと言い合いながら、2人はなんとか目的地にたどり着いた、がその頃には男性は息が上がり両膝に手を置いていた。
「壬恋兎さん…ちょ、ちょっと…息だけは整わせて……ください」
「はぁ、わかったわよ」
息を整えた後2人は店のドアを開いた。
店内を見回すと奥の4人席に2人が座っていた。
「いた、うが…蒼士、空!」
2人を呼べばこちらを向いて手を振ってくれた。
「ごめんねー、乗ってた電車が急停車して、ずっと動かなくてさぁもう大変だったのよ」
「お疲れ様です、ドリンクバーだけ先に頼んでましたので、何かとってきましょうか?」
「え?!いいよいいよ!気にしないで」
2人が席に着いて漸く全員集合した。
「いやぁ、2人ともお久しぶりです、お元気でしたか?」
「ふふ、壬恋兎ちゃんもミサキさんもお久しぶり、また会えて嬉しいわ」
キャスケットを少しだけ上げて彼女は笑う、その表情はとても穏やかで、しかし顔の右は無惨に焼け爛れた跡がとても不釣り合いに見えた。

「さぁ2人を待ってたのよ、今日のランチとっても楽しみにしてたの、みんなでメニューを見ましょう」
「ええ!待っててくれたのぉ、ありがとうー!」
そんなウキウキな2人の姿を見て自然と口角が上がる。
「ミサキさんは何をたのみ…」
ミサキさんは静かに微苦笑を浮かべて彼女を見ていた、少しだけその表情は固かった。
「ミサキさん?」
「あ、すみません少しボーっとしてしまいました、メニューですよね、お腹ぺこぺこだからなぁ何にしようかなぁ」
「あ!フライドポテト大盛り頼んでみんなでシェアしてたべようよ!」
「まぁ!素敵!私賛成よ」
「フライドポテトですかいいですねぇ」
「…じゃあメニュー追加しますね」
それから各々好きなものを頼み、品が出来上がるまでソフトドリンクで乾杯することになった。
「じゃあ、4人集まった記念に乾杯!」
壬恋兎さんが音頭をとりプラスチックのグラスがカツリと合わさる音が響いた。

10分も経たないうちにフライドポテトが先にやってきた、それをつまみながらお互いの近況を話し始めた。
「みんな、色々大変だね」
「大変って、それ空が言う?1番大変なのあんたじゃない」
「いやいや、私は今は働いてないし、妹の脛齧ってるだけよ?」
「…姉さんには、今はとりあえず好きなことしてほしいんだ、社会復帰はそれからでも遅くないよ」
モチャモチャモチャモチャ
「そうそう!アンタは器用だし、そんな心配しなくても大丈夫よ」
サクサクモチャモチャ
「んぐっ」
「あ!ミサキさんがポテト喉に詰まらせちゃった!お水!!」
「料理ガ完成シタニャン!」
「あ、他の料理も来ましたよ」
____________

食べて喋って飲んで喋ってまた食べて
4人は大いにこの会を楽しんでいた、青空だった空はいつのまにかオレンジ色に染まり始め、烏が電線から次々と飛び立っていく。
「楽しい時間はあっという間ですね」
「本当に、あー楽しかったぁ!でもまだまだ話し足りないけど、そろそろ出ましょうか」
名残惜しいが今日はこれでお開きとなった、お互いに明日もやるべきことがある、すぐに集まるのは難しくともまたきっと集まろうと言わずとも4人はそう思っていた。

「はぁー!食べたぁ、さて、腹ごなしに2、3駅歩いて帰ろうかしら」
「じゃあ駅前でお別れかしら」
店を出て夕陽を背に私たちは歩き出したが、ミサキさんは立ち止まりスマホを片手に持つと、カシャリとシャッターの切る音が聞こえた。
「なんの写真を撮ったんですか?」
「…夕陽を、後でカノに見せてあげようと思って」
彼はスマホ越しの夕陽をみてとても優しく微笑んでいた。
「…ミサキさん」
「はい」

「いつか、私たちにもカノに合わせてくださいね」
彼は瞠目するもすぐに目元が綻び

「えぇ、必ず、カノもよころびますから」

「おーい!2人とも!置いてくわよーー」

「行きましょうか」
「はい、そうですね」

それはほんのわずかな日常の一つであり、彼らの人生(旅)はこれからである。


個人的イメージソング備忘録
芽原実里 みちしるべ(4人それぞれ当てはまる)
KOKIA 迷子の私は銀のキツネ金の紅茶を(HO4)
Aimer 800 (HO3ってなんか少年サンデーの主人公みたいに感じてる)
これと秋山黄色のモノローグ聞きながらずっと書いたら書かなかったりしてました。

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