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23年生きてきて初めて電子書籍を使った話

こんにちは。noteではお久しぶりのますぼっとです。

実は1ヶ月ほど前から電子書籍を使い始めていて、それのレビュー的なものの需要があると数名から言われたのでこれを書くことにしました。
(ちなみに今回は真面目な記事です)

ちなみに、この記事を書いてる人のペルソナ像は以下のようなものなので、それを踏まえて読んでください。

・23歳 男 理系大学院生
・ふだんは教養系の本(新書、単行本)をよく読む
・専門は理系だが、よく読むのは人文科学・社会科学の本
・漫画はたまにしか読まない
・研究が忙しいので、本を読むのは大学の行き帰りの移動時間(電車内)くらい
・ふつうの本屋にも古本屋にもよく行く


□電子書籍デビューしたいきさつ


突然何を言い出すんだと思うかもしれませんが、ぼくは新書が好きです。安価に大学レベルの教養が手軽に吸収できるってすごいことだと思いませんか?ぼくも過去にいろんな新書から教養の視野を広げ、それがほかの学びと繋がるという経験をしています。*1

しかも、毎月各出版社からコンスタントに2~5冊の新刊が発売されるので、1冊読み終える頃にはまた次の読みたい本が発売されている。

ですが、友人に新書を読んでるか聞いてみると、「授業の課題で読んだことがあるくらい」「本屋の新書コーナーとか意識して見に行ったことがない」などの返答が返ってきます。

また、書店の新書コーナーに目を向けると、最近の売上の良い新書タイトルには「定年後」「60歳から」「70歳の」「80歳の」という単語がよく見られます。
(誤解のないために書いておきますが、もちろんそうでない新書もたくさん発売されています)

すなわち何が言いたいかというと、新書は若い世代にあまり読まれていないのです。*2

各出版社が上記のようなタイトルの本をこぞって出版するのは、新書を手に取る人はこういう人だ、というのをよく理解した上でのターゲティングなのだと思います。

ぼくには前々からこういった問題意識があったのですが、そんな中である出版社がチャレンジングなシリーズを立ち上げました。それが、講談社現代新書の「現代新書100(ハンドレッド)」です。*3 *4

「本文100ページ」で「イッキ読みできる教養新書」というコンセプトで、9月から刊行が始まりました。これは編集部が「若い方に読んでいただきたい」という思いをもって始まったシリーズであり、これはまさにぼくの問題意識とがっちり合致していました。

ここでようやく電子書籍の話が出てきます。この現代新書100の第1巻にあたる、『ショーペンハウアー』が100時間限定でKindleで100円で販売されていたのです(現在はKindleで500円で購入できます)。

ぼくはこれまで電子書籍に触れたことはありませんでしたが、ただ漠然と「本は紙のほうがいいに決まってるだろ!」という考えを持ってました。しかし、せっかくのこの機会を何かの縁だと思い、Kindle Paperwhite(広告なし,32GB)を購入することにしました。*5

思い立ったが吉日と言わんばかりに即座に購入した図
届いたらショーペンハウアーをすぐに購入した図
(汚い足のことは突っ込まないでください)


□実際に使ってみて


ダラダラ書くのもアレなので、電子書籍を使ってみて「おっ、いいな」となったポイントを先に示しておきます。

①単純に読みやすい
②かさばらなくて軽い
③バックライトがあるので暗い電車内でも本が読める
④(ほとんどの場合)フォーマットが統一されているので出版社による体裁上の読みにくさが緩和される
⑤気軽に本の試し読みができる
⑥抵抗なく本文にハイライトを入れられる

①単純に読みやすい
根本的な部分ですがここが1番大事な部分ですよね。Kindle Paperwhiteは「紙っぽいな」という感想がよくある通り、画面の触感はややザラザラしていてすごく「ぽい」です。あとは光の反射がしにくかったり、文字の解像度が高かったりと、「デバイスを使ってる感」があまりないのがいいですね。

②かさばらなくて軽い
先の写真にある通り、ぼくは(純正ではありませんが)カバーを付けてKindle Paperwhiteを使用しています(というかカバーはマストな気がする)。

③バックライトがあるので暗い電車内でも本が読める
ぼくのペルソナ像を既に示した通り、ぼくはふだん電車内など移動中に本を読むことが多いです。しかし、最近は政府の節電要請もあってか、日中は車内の明かりが消され、自然光だけが車内を射しているということもしばしばあります。これでは、紙の本をまともに読むこともままなりません。*6
それに対してKindle Paperwhiteはバックライトを自由な明るさに設定できるので、こんな環境でも不快感なく読書を楽しむことができます。ちなみに、ぼくは明るさ 20、色の暖かさ 11に設定しています。

④(ほとんどの場合)フォーマットが統一されているので出版社による体裁上の読みにくさが緩和される
カッコ書きに関しては後述しますが、フォーマット(主に書体と行間)が統一されてるのは何気にいいポイントです。具体例は出しませんが、出版社によっては文字や行間が詰まっていて読むのがすごく疲れることがあるので、これが軽減されるのは嬉しかったです。それに加え、比較的古めの本でもこのフォーマットの統一があったのは嬉しかったですね。

村井吉敬『エビと日本人』(岩波新書、1988)の
電子版と紙版の比較

⑤気軽に本の試し読みができる
Kindleは、気軽にサンプルをDLして試し読みできるので、主に深夜などふと思い立ったときにすごく便利です。気になった本はまずはとりあえずサンプルを入れてみるべきです。

⑥抵抗なく本文にハイライトを入れられる
ぼくは、自分で買った本に書き込みや線を引くことに抵抗感があります。それは決して「後で古本屋に売るかもしれないから」というわけではなく、本に書き込みをすることで本を汚してしまっているという感覚があるからです。しかし、書き込みをした方が教養系の書籍では内容が頭に残りやすいというのも事実です。そのジレンマを解消してくれたのがKindleでした。

□紙の本と電子書籍のどっちがいいの?


ここまで電子書籍のいい点ばかりを述べてきましたが、紙の本と電子書籍を天秤にかけた時、やはり一概にこちらの方がいいとは言いきれません。その理由を示していきます。

電子書籍(Kindle)の難点
①電子で出版されていない本が多い
②電子化されていてもフォーマットが統一されておらず画像データとして提供されている本もある
③装丁美に触れることができない
④「一期一会」感を得られるような本との出会いがあまりない


①電子で出版されていない本が多い
これは言うまでもないことかもしれないですが、電子書籍化されていない本があまりに多いというのが事実です(ただし、Kindleが年間何冊の本を出しているかのデータは見当たりませんでした)。大手出版社なら電子版が出ているかというと必ずしもそうではありません。そのため、サンプルを探そうと検索しても出てこないことが多々あり悲しい気持ちになります。

②電子化されていてもフォーマットが統一されておらず画像データとして提供されている本もある
これは、図版や数式の多い書籍に多そうな印象があります。一応拡大はできますが、やはりフォーマットが統一されているものよりも電子書籍のよさは半減されてしまいます(しかもハイライトもできない)。

芳沢光雄『群論入門』(講談社ブルーバックス、2015)の序文


③装丁美に触れることができない
これはこの先どこまで技術が進歩しても電子書籍が獲得できない紙の本の良さと考えているのですが、電子書籍では、本をつくる人達の、本というモノへのこだわりを十二分に享受することができません。
本をつくる人達は、どの紙を選ぶべきか、どの色を選ぶべきか、裏表紙にどんな工夫を凝らすか、スピン(栞紐)は付けるか、岩波文庫のように天アンカットにするのかといった細かな部分にまで、「この本を読んで欲しい!」という気持ちを込めて出版しています。電子書籍ではそれらの情報が反映されることはありません。フォーマットの統一という点も、ときには本をつくる人達の意図に大きく反する機能になってしまうかもしれません。

④「一期一会」感を得られるような本との出会いがほとんどない
これは③とも重なるのですが、装丁を見て本を手に取るという経験が電子書籍だけではできないため、一期一会的な本との出会いはほとんどないと言えるでしょう。
また、KindleはAmazonの検索機能で本を探すことになるので、今まで読んだ本から学習しておすすめの本が示されてしまいます。これでは、常に本に対するアンテナを張っていないと、哲学関係の本ばかりを読んでいると哲学関係の本ばかりが、ビジネス書ばかりを読んでいるとビジネス書ばかりがおすすめに登場し、これではまるで「フィルターバブル化した本棚」が形成されてしまいます。*7


□まとめと個人的所感


今回電子書籍に初めて触れてみて、実際に触れるまで具体的にイメージすることのできなかった電子書籍のメリット・デメリットを実感することができました。正直、Kindle Paperwhiteを使い始めてすぐは「なんか昔の電子辞書みたいだな」と思いましたが、1ヶ月以上使用した今ではすっかり手に馴染んでいます。

電子書籍か本の紙かという議論は、今後も絶えることはないかと思います。しかし、ぼく自身の意見としては、五感を通じて本を楽しみたいなら紙の本を、読書の手軽さ・利便性を求めたいなら電子書籍を使う、といったように両方の良さを享受するのが良いのかなと思います。

今、電子書籍を買うかどうか迷っている人は、ぼくのように「物は試し!」と思い切って買ってみるのもいいかもしれません。決して安い買い物ではありませんが、それが故に、「せっかく買ったんだからたくさん本を読まなきゃ!」という使命感も同時に得ることができると思いますよ。

以下、脚注です。
*1) 個人的に過去1番印象に残っている新書は、大澤真幸『社会学史』(講談社現代新書)です。自立するくらい分厚いけど社会学の基礎理論の系譜がとても分かりやすく書かれていて、社会学のことを何も知らなかったぼくでもスラスラと読み進めることができました。
*2) ここでZ世代という言い方は不適である気がするので「若い世代」と表記しています。関係ないですが、テレビは安易に、若い人なら「Z世代」、エコに関係あれば「SDGs」という言葉で形容する風潮にありますが、あまりよくないと思いません?
*3) 現代新書100が紹介された記事
*4) 100ページにまとめるというコンセプトは、昨今の「ファスト○○」ブームを反映したものだと思います。映画にしろ音楽にしろ、コンテンツが飽和してしまっている現代において、本もその流れに乗ろうという考えで企画されたものではと思いました。Twitterで見かけたコメントですが、「ブックレットの復活」というのは言い得て妙だなと思いました。
*5) 実は、電子書籍の購入に至ったのにはもう1つ理由があります。こちらは身バレになりかねないのでぼかして書きますが、「電子書籍と紙の本の比較を引き合いに出す話」を最近いろいろなところでする必要があり、今の紙の本しか実際に使ったことのない状態というのは、なんだか話に説得力がないなぁと思っていました。そういった経緯と今回の経緯とが合わさり、購入を決断したわけです。
*6) 読書に向いている明るさ(照度)は、一般に500ルクス程度と言われています。それに対して住宅内の廊下や階段が50ルクス程度なので、節電で明かりのついていない電車内もこの程度の明るさと考えられます。こんな明るさの場所で本を読んだら、ますます目が悪くなっちゃうよ〜〜(裸眼視力<0.01並感)
*7) フィルターバブルとは、社会心理学の用語のひとつで、「アルゴリズムがネット利用者個人の検索履歴やクリック履歴を分析し学習することで、個々のユーザーにとっては望むと望まざるとにかかわらず見たい情報が優先的に表示され、利用者の観点に合わない情報からは隔離され、自身の考え方や価値観の『バブル(泡)』の中に孤立するという情報環境」のことを言います。 (出典)

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