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滝乃川学園ガーデンプロジェクト

知的障がい者施設でのコミュニティガーデンづくりをご紹介します。

1. 滝乃川学園の沿革

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 滝乃川学園は、1891年に創立された日本最初の知的障害児者のための社会福祉施設です。学園施設や併設されている地域福祉サービスを利用されている方は、幼児から高齢者の方まで幅広い年齢層にわたり、日常生活への支援、様々な活動への支援等を、利用される方々のニーズに合わせ行っています。この活動は「創立当初からの精神=キリスト教(聖公会)の信仰」を根底としたもので、学園の創立者から変わることなく連綿と受け継がれてきている精神です。現在では、学園敷地内に障害児入所施設、障害者支援施設、地域支援部、認知症対応型高齢者グループホームを設置し、また、グループホーム部は、地域での生活の場である障害者グループホーム約20寮の運営主体として、地域生活の推進も行っています。

創立当初は現在の東京都北区滝野川にありましたが、1928年に現在の国立市谷保に移転しました。当時建設された学園の本館(石井亮一・筆子記念館)は2002年に国登録有形文化財指定、礼拝堂は2003年に国立市登録文化財指定。また礼拝堂には「天使のピアノ」とよばれているピアノがあり、創設者の妻、石井筆子愛用のこのピアノは、2003年に国立市登録文化財指定されました。また、かつて学園を訪問された皇后美智子様は、「天使のピアノ」で演奏をされています。(Wikipediaに詳しいヒストリーが記載されています)

2. プロジェクトのきっかけ

学園では、2016年に施設の建て替えに伴い約500㎡の空き地が生まれました。学園がその活用方法を模索していたところ、近隣にあった「くにたち蜜源ガーデン」が移転先を探していることがわかり、空き地に植物を移転してガーデンにするという話が持ち上がりました。

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私は当初ガーデン設計の相談にのるという立場で、学園本部と蜜源ガーデンの打合せに参加し、まず両者にマッチングが必要だと感じました。学園には、もともと空き地をガーデンにしたい理由があったわけではありません。そして空き地を放置できない学園本部の事情はあるとしても、職員のみなさんにとってこの話は降って湧いた話のはず。他施設での経験から「職員の理解を得ずガーデン移転をすると後々問題が起こってくる」と感じ、「ガーデンプロジェクト検討会」の開催や職員の意見収集・フィードバックを通して、職員が計画を受け入れやすい環境を作ることを提案、学園から了承を得ることができ、ガーデンプロジェクトが始まりました。私はそこでガーデン設計者兼コーディネーターという立場で関わることになりました。

3. みんなが求めていたもの

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第1回検討会は2016年7月半ば。出席者は学園本部・職員・蜜源ガーデンの方々でした。「未来の学園に向けてここがどんな場所になったらいいか?」という問いに対して「地域の人たちがやってきて利用者さんと一緒に活動し楽しめる場所が欲しい。施設や知的障がいのことを知ってもらえるような場所が欲しい」という意見が大勢を占め、そういう夢を叶えるために、色々な人たちが関わるコミュニティガーデンという形がこの場にはいいねという雰囲気も生れてきました。

4. 事件と学園の決心

第2回検討会を前に起きたのが、津久井やまゆり園での大量殺傷事件です。学園利用者の障がい度は当該施設と同程度(重度)で、同じことが学園で起こっても不思議はない状況です。日々流れてくる警察によるセキュリティ強化指導のニュースや、衝撃の大きさから、私は「この計画は流れてしまうかもしれない」と思いました。
そのため、第2回検討会では、学園理事長のお考えをお聞きしました。事件からわずか1週間ほどでしたが、すでに保護者や職員、本部で話し合って方針は決まっていました。
「学園はずっと地域と共にやってきて、120年間、門扉すら無かった。建物のセキュリティ強化はするが、今後も地域に開いていく。そのために、この場所は、施設や障がい者への理解を得る場所としていきたい」。その場にいた一同が「なんとかそんな夢のガーデンを実現したい!」と思った瞬間でした。

5. 職員へのアプローチ

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この時点で「蜜源ガーデンの植物を移転してコミュニティガーデンを作る」という方向は出ましたが、「職員の理解が得られていない?」という当初からの課題はそのままでした。検討会に参加しているのは約200人の職員のうちほんの数人。そのため多くの職員にとにかくプロジェクトの存在を知ってもらうための通信を毎月作り配布する一方、職員の心配事をアンケートやヒアリング等で明確にし、解決していきました。一番大きな心配事は「職員が手入れをする時間の余裕は無い」というものだったので、「外部のボランティア中心で手入れをする」方針を示し、ひとまず安心してもらいました。もちろんガーデンと職員の心の間に距離があるままでは目指す夢は実現しません。最終的に何らかの形で関わってもらうことは必要ですが、道筋の中では後回しにしても良いと考えました。人の心が何かを受け止めるには時間も手間もかかりますが、大切だと考えて丁寧に行います。

6. コミュニティガーデン完成!

ガーデン作り自体は月に1度のペースで活動日を設け、学園本部の協力を得ながら外部ボランティア中心で行い、1年半ほどで素晴らしいガーデンができました。ガーデン作りの目的を明確にして外部や参加者へ示したことで、多くの共感と協力をいただけて実現しました。ガーデン作りにも多くの物語と出会いがありました!想像以上に本当に多様な人が来て話を聞いてくれ、楽しみながら参加してくれました!

7. 新たなステージへ

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今ではガーデンにきれいに花が咲き乱れ、苺や芋ができ、利用者さんに収穫を楽しんでもらえるようになりました。職員のみなさんにもガーデンを好意的に受け入れてもらえています。今後は園芸アクティビティの展開などガーデンの利用方法の奥行を職員に紹介しガーデンとの距離を徐々に縮めてもらいながら、学園外部の人との関わり方も仕組みを整えてできるようにし、みんなが夢見た場所を確実に実現していくステージに入っていきます。

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