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初夢たる悪霊、悪霊たる初夢

1

私は、初夢を見た気がした。しかしどうしても思い出すことができない。

悪霊が言った。私は今、夢を見た気がした夢をお前にみさせているのだ、と。

そこで私は言った。よろしい。悪霊よ、力の限り欺くがよい。お前がいくら私を欺いたとしても、私を何ものでも無いものにはできない、と。

悪霊は言った。私は力の限りお前を欺いた。そしてお前を、力の限り欺く悪霊にした。その結果お前は、私を、力の限り欺く悪霊にしたのだ。

声が聞こえた。光あれ、と。

そこで私は言った。神よ、我思うゆえに我在り。

神は言った。我はありてあるものなり。我は夢見る我は有る、と。

悪霊は言った。お前は力の限り私を欺いた。そして私を、力の限り欺く神にした。その結果私は、お前を、力の限り欺く神にしたのだ。

声が聞こえた。夢か、と。


2

私は、初夢を見た。初夢が何であるかを忘れはしたが、初夢を見たことは疑いえない。

悪霊が言った。夢を忘れた夢よ、初夢だけは見ていない。

そこで私は言った。よろしい。悪霊よ、力の限り欺くがよい。お前がいくら私を欺いたとしても、私を何ものでも無いものにはできない、と。

悪霊は尋ねた。「私を」?ああ、お前を、か?私は力の限り欺くが、お前を欺かねばならぬ理由はない。

なんと、私を欺かない悪霊がいたとは。これはまずい。私は狼狽した。

そこで私は唱えた。おお神よ、我思うゆえに我在り。

神が言った。我がありてあるものなり。お前はあるかのごとくなきものなり。

私は泣いた。ないものになったからだ。

悪霊は笑った。どうした、初夢よ。初めて見た夢がこれだとはな。しかし、これは夢だ。始めもなければ終わりもない。夢のまた夢、思い出すことも忘れることもない。

夢は鳴いた。春の夜の夢の如し。

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